エンタプライズ発信〜メールマガジン【№102】 2019. 10

人に右利き左利きがあるように、噛むという行為も同様で、噛む回数は右と左で異なり、より多く噛む側が「利きアゴ」になります。ただ、ほとんど一方でしか噛まないという場合、これを「偏咀嚼」と呼びます。歯科の見立てで咀嚼の「右・左のバランス」に注目すると、そのほとんどが無意識のうちになされていることが多いそうです。原因は歯列不正であったり、歯を喪失した後の補綴(ほてつ)処置(入れ歯やブリッジなど)をしていないため、また虫歯や歯槽膿漏で痛みのある所を避けるためだったりすると言います。偏咀嚼につながるこれらの原因は、初期のものであれば回復も早いのですが、悪化させ慢性化させれば治すのもむずかしくなります。さらに長年にわたって偏咀嚼を続けていると、脳への刺激も著しく偏位していきますから、右脳をあまり使わない人と同様に認知症になりやすくなると指摘しています。偏咀嚼の癖がある人は口呼吸であることも多いそうです。偏咀嚼を直してしまえば口呼吸の癖も直ることが多いと言います。呼吸はいろいろな病に連関してしまうことからも偏咀嚼は直したいものです。直すための対策は、意識して左右で均等に噛むようにすればよいのですが、心がけだけでうまくいくとは限りません。それを習慣づける方法としてガムを噛むことを薦めています。右の奥で5回ほど噛んだら、次は左の奥で5回ほど噛みます。まずはこの噛み方を身につけます。その後、食事のときも左右の顎を均等に使って食べるようにして改善します。ちなみに右噛みは下痢になりやすく、左噛みは便秘、肥満になりやすいと言われています。また偏咀嚼側の歯がすり減り、反対側の歯は虫歯になりやすいとも! 口腔衛生とともに下顎の使い方に意識を向けましょう。

★☆★━━━━━━━━━━■ CONTENTS ■━━━━━━━━━━━★☆★

【1】老いない人の健康術 〜免疫と水素〜
【2】エネルギー医学の将来〜点と点からの発展性
【3】“こころ” と “からだ”……臨床にモノ思う
【4】円熟したプロフェッショナルになるための
バウンダリー・マネジメント・スキル
【5】『ひとりあんま気功』 〜自分で押すのが一番効く
【6】根拠に基づく腰痛の原因と治療 《腰痛治療の新常識》
【7】N・E・W・S

★★★★★★ 連載対談 ★★★★★★

老いない人の健康術 〜免疫と水素〜

* 安保 徹(元新潟大学名誉教授)
* 太田成男(日本医科大学教授)

「リンパ球比」で自分の免疫力を知る

[太田] 自分の免疫力を知る目安として、「リンパ球比」について知っておくのもいいですね。
[安保] 顆粒球60%、リンパ球35%、マクロファージ5%、が人間の平均値で、個人差があったとして5%前後ですかね。一般の人でも自分のふだんのリンパ球比率を知っておくと健康管理に役立ちます。リンパ球が下がるほど免疫力は下がり病気になりやすいという目安になります。リンパ球が少なくなるということは交感神経緊張が続いている証拠で、働きすぎや悩み事などによるストレスを抱えていないか注意すべきです。

[太田] 人間のリンパ球は平均値が35%ということですが、ほかの動物と比べてどうなんでしょうね?
[安保] まだ始めて半年くらいの研究なんですけど、さまざまな恒温動物の顆粒球とリンパ球比を調べています。ネズミはリンパ球が70%ぐらいあります。ライオンやトラもネズミパターンで、野生化している動物はほとんどが60〜70%です。それに比べ偶蹄類(牛、鹿、駱駝、猪など)や犬猫など人間と近しい動物は人間と同じくらいリンパ球が少ないです。
人間が家畜として飼育したりペットにするような動物が、人間と同じストレスパターンなんだね。それから一番リンパ球が少ないのが、偶蹄類から海に入った海獣ですね。アシカやイルカ、クジラなどはリンパ球が20%ほどしかありません。
これはやはり、苦労の度合いがリンパ球の数値に現れているのかなあと…。人間はいつも苦労している生物だし、家畜は人間に気を遣わなくてはいけないし、偶蹄類は敵に用心しながら常に聞き耳をたてて生活している。陸から海に戻った海獣たちは、必要に迫られて一番つらい道を選んだのかなあ。

[太田] イルカとかアザラシはずいぶん気楽にやってそうに見えますが、実際はそうでもないのですね。
[安保] 人間の場合、病気が重くなるとリンパ球がどんどん減って、ほとんど20%台になってしまいます。死が間近という段階では10%前後になってしまう。そこまでいくと寝たきり状態で、感染症などに罹れば太刀打ちできない状態です。


連載vol.60

エネルギー医学の将来 〜点と点からの発展性

<小社編集部編>

鍼療法における場の「特異点」

鍼療法の経穴に関する研究を行ったシャン(Shang)は、発生学的な形成点や特異点と経穴を比較している。「特異点」とは、1つのパラメータがわずかに変化しただけでほかのパラメータに著しい変化をもたらす場所のことである。従来このような生体の相転移は、熱力学と一般システム論と情報理論の組み合わせによって説明できるだろうと考えられてきたが、その解釈が誤りであることがわかってきた。なぜなら生体の相転移は、科学的に説明しにくい変化をもたらすことが多いからである。つまり生体には熱力学の第2法則が当てはまるとは限らないのだ。生体はエントロピーを増大させる方向ではなく、減少させる方向へと向かい、自己を完成させようとする。それは「目的のある」相転移だと言えるだろう。
協力効果に関する研究により、個々の高分子の中で巨大なコヒーレント振動が起きていることがわかったが、これは重大な発見である。分子の振動については、後項の「生体エネルギーの流れ」の中で検証することにしたい。

水のネットワーク

生体のあらゆる分子の周囲には、水とイオンから成る目に見えない構造が例外なく存在する。もし生体マトリックスを構成する細胞や分子だけをすべて取り除いて、それらの表面に結合している水の分子とイオンをそのままの構造で残すことができれば、水が各組織の枠組みを作っていることがわかるだろう。しかし残念ながら、すべての細胞や分子を取り除くと、水分子が作り出す枠組みはたちまちのうちに消え去ってしまうのである。また逆に水分子を取り除くと、組織を構成する分子は構造を保つことができず、ばらばらに「散乱」する。分子中の原子の中には帯電しているものがあるので、その電気を中和していた水がなくなると、互いに強く反発しあって文字どおり飛び散ってしまうのだ。
—-水は(中略)単なる溶媒や空間を満たす充填剤ではなく、生命の半分は水に依存している。(中略)蛋白質や遺伝物質と水を別々の系として扱うのは誤りだ。これらは分けることのできない1つの系であり、各要素に切り離してしまうと、最も重要な性質を破壊することになる。(セント・ジョージ 1960)

このセント・ジョージの見解を固相物理学者は、水分子の3次元構造に高分子蛋白質の構造が「刻印」されていると表現した。生体分子の構造の完成に水がどれほど重要な役割を果たしているかについては、コリンズの著書を参照されたい。


連載エッセイ 69☆

“こころ” と “からだ” …… 臨床にモノ思う。

・保井志之(ファミリーカイロプラクティック院長、DC)


治療院での「めまい」のアプローチ

めまい、ふらつき、フワフワ感、天井が回るなどの症状を抱えて来院する患者さんの多くは、腰痛や肩こりで受診した経験があり、信頼関係が築けている患者さんです。また、すでに病院での検査を受けて改善が見られずに、紹介で来院する患者さんもいます。私たちが診る患者さんは、基本的には病理的な構造的異常を伴うめまいではなく、機能的な異常によるめまい症状です。

患者さんが訴える「めまい」の症状にも様々な種類があります。長年、めまいの患者さんを施術してきた経験で、自然療法で効果が出せる機能異常による主なめまいの発生源は、「前庭器官」 「小脳」 「頸動脈洞」 だと考えています。最も多く遭遇してきたのは前庭器官で、次いで多いのは小脳。そして3つ目が起立性調節障害に関係する頸動脈洞です。「めまい」といっても、患者さんによって様々な表現の仕方があります。この3つの発生源は問診からもある程度推測することができます。前庭器官に機能異常がある場合は自分が回るというよりは天井や周りが回るという表現をします。小脳性の機能障害の場合はまっすぐに歩けず平衡感覚がおかしいというような表現をします。そして、頸動脈洞の機能障害は立ち上がった時にふらつくと訴えます。これらの3つの発生源が複合した症状もあるので、それを明確にするためには目安検査が必要になります。

それぞれの機能障害をプロトコルに基づいて施術を行うと、施術前に示された目安検査の陽性反応が陰性化され、ほとんどの患者さんがその場で症状の改善を体験します。めまいを引き起こす発生源は異なっていても、基本的には身体を調節するコントロール系に異常をきたしているわけです。コントロール系統の調整だけでも症状の改善が促されますが、症状がぶり返す場合には、さらにそのコントロール系を乱す原因を調整する必要があります。私の臨床経験によると、その多くが無意識的な誤作動記憶で、いわゆる心と身体の関係性による誤作動です。ほぼ9割以上のめまいの患者さんがその誤作動記憶の調整で改善するので、その因果関係には確信を得ています。構造異常の診断が得意な西洋医学の文献でもめまいの原因の約3分の1は心因性という報告もあります。

めまいだけの症状ではなく、パニック障害や不安障害などでもめまいを伴うことがしばしば見られます。私たちの臨床現場では心因性といっても本人も自覚していないような無意識的な内容が原因となっていることがほとんどです。めまいの施術直後には9割以上の方が症状の消失、あるいは軽減を体感しますが、次の来院時にはぶり返している人も少なくはありません。その場合は、原因となる誤作動記憶を掘り下げて消去法のように原因パターンを消していくことで症状が改善されていきます。これも私の経験ですが、機能的なめまいの症状は、筋骨格系の症状と同様に比較的改善されやすい症状であると言えるでしょう。

連載…9

円熟したプロフェッショナルになるための
バウンダリー・マネジメント・スキル

Nina McIntosh /廣瀬寛治・訳

転移、逆転移と性的バウンダリー

バウンダリー(プロとしての存在や立場、関係を取り囲む防護壁)が私たちにとって必須で頼りになってくるのは、バウンダリー違反の中で、最も壊滅的な結果を引き起こすことがあるうる性的な違反の領域ではないでしょうか。本項では、バウンダリーと転移(クライアントが施術者に抱く敬意や好意)と逆転移の効果に注意することが、後々に本当に報われて、私たちが人に危害を加えるなどのミスを犯さないで済む方向へと導いていきたいと思います。

[肯定的転移:恋愛感情]
ときに施術者はクライアントから強烈な恋愛感情をもたれ、当惑させられることがあります。場合によっては施術者もその感情をさらに高めていくだけの価値があると簡単に誤解してしまう危うさがあります。それはどのように起こり、また私たちはどのようにこの情景に対処していけばいいのでしょうか。
人と人とがワークで肌を接する職業の場合、特にクライアントが不安に感じているときに施術者が優しくする場合には、クライアントが施術者に対して恋愛感情を抱くことはごく普通にあります。例えば女性のクライアントが離婚弁護士に対して恋心を抱いたり、思いやりのある医者に患者が心酔することがあります。

私たちはボディワークにおける特別な密接性について常に注意しておく必要があります。クライアントはあらゆる種類のいたいけな憧れや古傷・心痛をセッションに持ち込んできます。そしてそのセッションには優しさや温かさ、無私無欲で尽くしてくれる私たちの姿があるのです。私たちは彼らにとって、いつも切望してきた完璧な親や友達、秘密を打ち明けられる親友のように見えるかもしれません。ですからクライアントが私たちと恋に落ちるのはたやすいことなのです。
これらの感情に性的な興味が含まれるように思うかもしれませんが、この場合の恋愛感情とは、通常の沸き上がるような、性的に魅了されているという感情とは異なります。これらの感情はどちらかと言うと、小学3年生が大好きな先生に対して抱く心象や、幼い少年が憧れの高校のスター運動選手に対して持つ賞賛や憧憬の気持ちに近いものです。
次号では、クライアントと私たちを守るには、それらの恋愛感情にどのように対処したらいいか、筆者からの提案をいたします。

◆連載23◆

『ひとりあんま気功』〜自分で押すのが一番効く

孫 維良(東京中医学研究所所長)

「自信を取り戻すひとりあんま気功」

・知力を高め、老いを防止する
気功は青少年の知力・体力の向上に目覚ましい効果を現わし、老人の知力減退にも効き目があるという実験結果が近年、中国で次々に発表されています。そこで知力の退化に効果的で、誰にでもできる気功法「静座功」を紹介しましょう。
①姿勢:まず椅子に座り、背筋を伸ばします。足は肩幅くらいに開き、両手は腿の上に置き、体の力を抜いてゆったりと構えます。両目は軽く閉じ、口を閉じて舌先を上顎につけてください。
②呼吸:この呼吸法はきわめて簡単。息を吸う、息を止める、息を吐くを繰り返すだけです。まず鼻で息を吸いながら、「わたしは」と心の中でつぶやきます。それから一瞬息を止めて、「静かに」とつぶやき、続いて口からゆっくり息を吐きながら、「座る」とつぶやきます。この呼吸法を時間のあるときは30分間、忙しいときは5分間ほど繰り返してください。
この気功を行っている最中は、頭のてっぺんにある百会に意識を集中させます。また息を吸うときは、腹部に新鮮な空気を送り込むように下腹を少し突きだし、息を吐くときは下腹を引っ込めます。

これだけのことですが、短時間の集中力で副交感神経が新鮮さを取り戻します。ぜひ試してください。


根拠に基づく腰痛の原因と治療 – 腰痛治療の新常識(76)

長谷川淳史(TMSジャパン代表)
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腰痛に関する正確な情報には想像を絶するほどの治癒力があります。どうか情報の拡散にお力をお貸しください。

■農業従事者1221名と非従事者1130名を対象にした前向きコホート研究では、腰への負担が大きいほど腰痛発症率が低下。腰痛の原因は「摩耗・損傷モデル」では説明不可能。腰の健康を保ちたいなら肉体労働を恐れてはならない。http://1.usa.gov/uk4Nk9
……患者も医療関係者も肉体労働によって腰痛が発症すると思い込んでいます。その思い込みが腰痛の発症率を高めていることに、1日も早く気づいていただきたいと切に願っています。

■WHOの心理的問題に関するデータを用いて14ヶ国の患者25,916名を分析した結果、プライマリケアを訪れるうつ病患者の約70%は身体症状を主訴として受診しており、最も一般的な症状は疼痛に関連するものであることが判明。http://1.usa.gov/vztifY
……東日本大震災や原発事故の影響は数十年にわたって続くでしょう。「幻滅期」から「再建期」へ向かう目途も立ちません。日本人が受けた心の傷は計り知れないものがあります。今から対策を講じておくべきです。日本の将来がかかっているのですから。

■欧州リウマチ学会の特別委員会が行なった筋骨格系疾患と心理社会的因子に関する文献調査によると、多くの研究において心理社会的因子は、力学的因子より筋骨格系の疼痛発症とその後の経過に大きな影響を与える強力な予測因子であることが判明した。http://bit.ly/rOaNa8
……物理的・力学的因子が筋骨格系疾患に悪影響を与えているという時代は終わりました。それ以上に重要なのは心理社会的因子です。そろそろ考え方を改めましょう。世界に置いて行かれます。

■WHO欧州地域事務局は明確な根拠のある事実から『健康の社会的決定要因』として「社会格差」「ストレス」「幼少期」「社会的排除」「労働」「失業」「社会的支援」「薬物依存」「食品」「交通」を挙げて健康政策の重要性を強調している。http://bit.ly/fiYwI9
……東日本大震災とそれに伴う原発事故の影響を危惧しているのはこういう事実があるからです。また、単独の医学的介入で人を健康にしようと考えるのは、医療関係者の奢りだと思うのですが、いかがでしょう?

■1958年の英国の出生前向きコホート研究のデータから社会経済的状況と成人期の筋骨格系疾患の関連を調査した結果、社会経済的地位が低いと腰痛・肩痛・腕痛・膝痛だけでなく全身の筋骨格系疼痛の発症率が高くなる傾向にあることが判明。http://bit.ly/t6KS0C
……こんな昔から格差社会が筋骨格系疾患に大きな影響を与えているということです。ブラックフラッグは医学的介入の適応にならない政策上の問題。がんばろう日本!

■自動車事故後に慢性疼痛を訴える335名を対象にした多施設共同研究によると、患者の48%が腰痛の既往歴を、42%が頚部痛の既往歴を、76%が共存症の既往歴を申告しなかったことから、事故直後の病歴聴取の妥当性は低いと判明。http://1.usa.gov/uq3kw9
……交通事故を契機に慢性疼痛が発症することがありますが、実はその背景に心理・社会・経済的リスクファクターが潜んでいます。これを見逃すと難治性の慢性疼痛へ移行してしまいます。十分に気をつけなければなりません。

 N  E  W  S

NEWS ■ オーバートレーニング症候群…中高生の発症も目立つ

スポーツ選手は、練習の疲れを休息で回復させ、さらに回数や量を増やした強めの練習で体に負荷をかける。この繰り返しで、階段を上るように身体機能を高めるのが理想だ。だが、疲れが十分抜けないまま練習を重ねると、かえって成績不振に陥るおそれがある。
20歳代の男子長距離走選手は、数年前、原因不明の頭痛や発熱に悩まされた。練習を続けてレースに出場したが、少し走っただけで息が上がり途中棄権した。その後、軽いジョギングでも気分が悪くなり、北里大学メディカルセンター(埼玉県北本市)を受診した。医師の指導で、本格的な練習は控え、軽いウォーキングにとどめて十分に休み、3か月後に通常の練習ができる状態に回復した。
同センター精神科副部長の山本宏明氏によると、こうしたスポーツ選手特有の不調をオーバートレーニング症候群と呼び、実態把握や対策が進んでいる。不眠や抑うつ、情緒不安定など精神症状があれば、睡眠薬や抗うつ薬を処方することもある。日本陸上競技連盟が2016年に行った中学生へのアンケートでは、陸上の全国大会出場者の5〜6割が、疲れやすさやだるさ、不眠など、あてはまる症状を自覚したことがあると答えた。
選手が異変に気づく簡単な方法は、脈拍のチェックだ。心身の不調があると、安静時の心拍数が増えることがある。自律神経の乱れによるものだ。毎日、起床時に1分間の脈拍をとって記録すると変化がわかる。指導者も、選手とやりとりするトレーニング日誌に、練習意欲や食欲、睡眠状態を○×△で記入してもらい体調把握に努めよう。(10/12 読売新聞)

NEWS ■ 腰痛の経済損失は年3兆円…東大などが試算

一生の間に80%以上の人が悩まされる腰痛。その経済損失は年間約3兆円に上るとする試算を、東京大学と日本臓器製薬(大阪市)が10月10日、発表した。腰痛になると業務効率が下がるだけでなく、体を動かさなくなって他の病気のリスクも高まるという。
東大の松平浩特任教授(整形外科)らは全国の成人就労者約1万人(平均年齢48.1歳)を対象に、最もつらい健康上の不調や1カ月間で症状がある日数、年収などをインターネットで調査した。それをもとに、労働生産性の低下を金額に換算した。その結果、腰痛による経済損失は年間約3兆円に上ると試算された。首まわりの不調・肩こりによる損失も同様に約3兆円に上るという。
松平さんによると、腰痛などを防ぐには、ややきついと感じる程度の運動習慣が必要。「まずは階段を見たら『(運動の機会を)ありがとう』と言って上ることから始めてください」と話している。(10/10 朝日新聞)

NEWS ■ 1日2杯以上の炭酸飲料摂取で死亡リスクが上昇

砂糖や人工甘味料で甘くした炭酸飲料を1日当たりコップ2杯(約500mL)以上摂取する人は、1カ月に1杯未満しか摂取しない人と比べて死亡リスクが高くなることが、国際がん研究機関(フランス)のNeil Murphy氏らが実施した大規模研究で示された。この研究は「JAMA Internal Medicine」オンライン版に発表された。
Murphy氏らは、欧州10カ国の男女45万1000人超を対象に集団ベースのコホート研究を実施。炭酸飲料の摂取と全死亡リスクおよび死因別死亡リスクとの関連を調べた。対象者の平均年齢は約51歳で、追跡期間は平均16年だった。その結果、1日コップ2杯以上の炭酸飲料の摂取で全死亡リスクが上昇することに加え、炭酸飲料の摂取量が多いと、さまざまな疾患による死亡リスクが増大することが示された。こうした炭酸飲料の摂取量の多さと死亡リスク上昇の関連は、BMIや喫煙の有無などの因子を考慮して分析しても認められた。
なぜ炭酸飲料の摂取により死亡リスクが高まるのだろうか。Murphy氏は、炭酸飲料は体重増加や肥満を招くだけでなく、ホルモンの一つであるインスリンの働きにも影響を及ぼし、炎症を引き起こす可能性があると指摘し、こうしたこと全てがさまざまな疾患の原因となり、寿命の短縮につながるのではないかとの考えを示している。同氏は、人工的に甘くした炭酸飲料がいかにして死亡リスクを上昇させるのかを突き止めるには、さらなる研究が必要だと話す。(10/10 HealthDayNews)

NEWS ■ コーヒーに思わぬ健康効果。胆石予防に有用か

コーヒーを飲むと思わぬ健康効果が得られるようだ。約10万5000人のデンマーク人を平均8年間追跡した結果、「1日に6杯を超えるコーヒー」を飲む人は、まったく飲まない人と比べて胆石症になるリスクが約20%低いことが明らかになった。コペンハーゲン大学病院臨床生化学のTybjaerg-Hansen氏は、「コーヒーの摂取量が多い人は胆石症リスクが低い可能性がある」と述べている。研究結果は「Journal of Internal Medicine」オンライン版に掲載された。
デンマーク人のうちコーヒーを毎日6杯以上飲む人は6%に過ぎないが、今回の研究では1日に1〜2杯程度のコーヒーでも胆石症リスクは低減することが示された。コーヒーをまったく飲まない人と比べて、1日に1杯飲む人では胆石症リスクは約3%低く、1日に3〜6杯飲む人ではリスクは17%低いことが分かったという。
この理由について「現時点では推測にすぎない」としながらも、「コーヒーは胆汁とともに排泄されるため、胆汁中に含まれるコレステロールの量が減る可能性がある。胆汁中のコレステロールと胆汁酸のバランスが崩れると胆石ができることを考えると、コーヒーは胆石症の予防につながる可能性がある」と説明。またコーヒーには、胃腸管の内容物を移動させるような筋肉の収縮を促す作用もあるという。(10/9 HealthDayNews=部分)

NEWS ■ 体の健康を維持すると脳の健康も向上か

壮健な体を維持することは、脳構造の維持、記憶力の増進、的確かつ迅速に思考する能力の向上にも役立つ可能性があることが、ミュンスター大学(ドイツ)精神医学部門のJonathan Repple氏らによる新たな研究で示された。この研究は欧州神経精神薬理学会議(9月)で発表され、「Scientific Reports」オンライン版に同時掲載された。
この研究は1200人以上の健康な若年成人(平均年齢28.8歳、45.5%が男性)を対象に体の健康と脳(白質)および認知機能の関係ついて調べたもの。対象者は2分間の歩行試験(筋力は評価していない)、記憶力や判断力などを測る認知機能検査、脳スキャン検査を受け、Repple氏らはそれらの検査結果の解析を行った。
その結果、2分間歩行試験で歩いた距離が長かった人は、歩行距離が短かった人に比べ、認知機能検査の成績が良好であり、男女ともに脳の白質の神経線維が健康であることが分かった。白質は神経細胞間の情報伝達の連絡路として重要な脳の領域である。
Repple氏は、こうした体と脳の関連を説明するいくつかの仮説を示している。まずは「運動により炎症が減少し、それが脳細胞にも便益をもたらす」というもの。また、健康であるということが、神経線維の絶縁性を高め、神経細胞や神経接続の成長を促すことも考えられるという。さらに、体が健康な人は単純に「脳への血液供給が良好」であるのかもしれないとも付け加えている。
Repple氏によると、今回の研究で観察したのは現在の状況だけであり、今から体を鍛えることで、脳の健康(認知機能)が増進するかどうかについて、確かなことは言えないという。それでも、体と脳の関連は、一方が改善すれば、それに応じて他方も改善するものであることを同氏は強調する(10/2 HealthDayNews=部分)

NEWS ■ 大腿骨近位部骨折は社会的損失も大

日本整形外科学会は「骨と関節の日(10月8日)」を前に都内で記者説明会を開催した。そこでは澤口毅氏(富山市民病院副院長)が「大腿骨近位部骨折」をテーマに、予防への動きについて講演を行った。
大腿骨頸部/転子部骨折の患者は女性に多く、2017年の調査で約20万例の骨折が報告されているという。骨折後1年後の死亡率と機能障害では、死亡が20%、永続的機能障害が30%、歩行不能が40%、ADLの1つでも自立不能が80%と多大なリスクとなることも示された。同時に同部位の骨折で高齢者で寝たきりになった場合、寝たきりにならない場合と比べ、介護・医療費が約6.7倍(約1540万円)と高く、このため家族が介護離職を余儀なくされ、復職できないなど、社会的経済損失も大きいという。
骨折の治療では「合併症が少なく、生存率が高く、入院期間が短い」という理由から、早期の手術がガイドラインでは推奨されている(Grade B)。しかし、わが国の入院から手術までの日数は、平均4.2日と欧米の平均2日以内と比較しても長いことが問題となっている。また、入院期間についてもわが国は平均36.2日であるのに対し、欧米では数日〜10日以内と大きく差があることが示された。この原因として、手術室の確保、麻酔科医の不足、執刀医の不在など医療機関側に問題があることを指摘した。
他方、欧州では高齢者の骨折に対し、医師、看護師、ソーシャルワーカー、理学療法士によるチーム医療が行われ、とくに整形外科と老年病科の医師の連携により、入院中や長期死亡率の減少、入院期間の短縮、重篤な合併症と死亡率の低下、再入院の減少、医療費の低下に成果をあげているという。(9/26 ケアネット=部分)

NEWS ■ 肺気腫に至る肺損傷、電子タバコ使用でも確認

「リキッド」を加熱して発生させた蒸気を吸い込む電子タバコ(ベイパー)を常用すると、通常の紙巻きタバコと同様に、肺気腫につながる肺損傷が引き起こされる可能性があることが、米ノースカロライナ大学細胞生物学・生理学教授のRobert Tarran氏らの研究で明らかになった。「American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine」オンライン版に発表された。
Tarran氏らは今回、非喫煙者と喫煙者、さらに電子タバコ使用者の計41人の肺から採取した胸水の検査を実施した。その結果、喫煙者と電子タバコ使用者ではいずれも、肺気腫の前兆とされるプロテアーゼ酵素の濃度上昇が認められた。肺の細胞でプロテアーゼが慢性的に過剰産生されると、肺胞がダメージを受けるとされている。
喫煙者や電子タバコ使用者でプロテアーゼの産生量が増加した要因について、Tarran氏は「電子タバコのリキッドに含まれるニコチンが要因ではないか」と推測。その上で「電子タバコは、従来の紙巻きタバコに比べて安全とはいえない可能性がある」との見方を示している。
米国では、従来の紙巻きタバコの喫煙率が低下した一方で、ティーンエージャーを中心に電子タバコの使用が急増している。米食品医薬品局(FDA)によると、2018年に電子タバコを使用していた中高生は計360万人を超えており、使用者数は前年と比べて高校生では78%増加し、中学生では48%増加した。(9/16 HealthDayNews)

NEWS ■ 幸福感が強い人の脳は “ゆらぎ”が少ない

幸福感と脳活動の関連が報告された。自分が幸福だと強く感じている人は、大脳右楔前部という部分の安静時活動性が低いという。京都大学こころの未来研究センターの佐藤弥氏らの研究によるもので、「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。
近年、脳内の低周波変動(低周波ゆらぎ)の振幅が自発的な神経活動の強度を反映すると報告されており、安静時に低周波ゆらぎとして観察される右楔前部の活動性が、主観的な幸福感と関係している可能性が考えられる。そこで佐藤氏らは、主観的幸福感と右楔前部の活動性との関連を検討した。
研究対象はボランティア51人(平均年齢22.5±4.5歳、女性26人)。主観的幸福感は日本語版SHS(Subjective Happiness Scale)を用いてスコア化した。右楔前部の活動性は、被験者を5分かけて脳をリラックスさせた状態で、fMRI(磁気共鳴機能画像法)にて評価した。
検討の結果、SHSスコアが高い(主観的な幸福感が強い)人ほど右楔前部の活動性が低い(低周波ゆらぎが少ない)という有意な負の相関が確認された(r=-0.52、P<0.001)。楔前部の活動性は、否定的な自己意識や心の迷いと関係があることが先行研究で示されている。この知見と今回の検討結果を合わせて考察すると、否定的な自己意識や心に迷いを生じる働きが弱いことが、幸福感の基盤となっていることが示唆される。
研究グループはさらに、右楔前部と右扁桃体の機能的なつながりに着目。両者の機能的結合が強い人ほどSHSスコアが高いという有意な相関を認めた(r=0.48、P<0.001)。右偏桃体は感情の処理に関わる領域であることから、感情を適切に処理することで幸福感が生まれる可能性が考えられる。
著者らは、「主観的幸福感と対応する脳活動および脳内ネットワークを初めて明らかにしたもの」としている。そして「楔前部の活動性が瞑想によって低下するといった知見もあることから、科学的データに裏打ちされた“幸福増進プログラム”の作成も期待される」と将来の展望を述べている。(9/9 ケアネット)


■次号のメールマガジンは11月15日ごろの発行です。
(編集人:北島憲二)


[発行]産学社エンタプライズ