エンタプライズ発信〜メールマガジン【№128】 2021. 12

現在は落ち着きをみせているコロナ禍であるとはいえ、この師走における忘年会の開催は、約70%の会社・組織が休会する方向という報道がありました。今年1年、週末・休日にはオンライン飲み会が多く開かれたことから、忘年会もリアル対面式ではなく遠隔で、という流れは昨年同様変わっていないようです。リアル飲み会とオンライン飲み会を行う際の平均実施時間などをリサーチした調査会社によると、リアルな場での飲み会では通常「3時間以上」と回答した人が約46%いたことに対して、オンラインで飲み会のケースでは「3時間以上」と答えた人が約53%と、遠隔ゆえなのかわずかに上回る結果でした。また、全体の約6割の人がオンライン飲み会では「ついつい飲みすぎてしまう」と回答したことから、自宅で気軽に実施できるオンライン飲み会は、そのぶん周りを気にする必要が少なく、ふだんよりお酒を飲みすぎてしまう人が多くなる傾向が見受けられます。閉会したらすぐに眠れるという安堵感があるのでしょうか…。いずれにしても、長時間になりがちと言っても感染機会がないのですから安全な飲み会と言えます。片や、リアル忘年会を行う際には、年末・年始にかけて65歳以下のワクチンの抗体価が減少するタイミングと重なることが懸念されています。感染予防効果は時間とともに薄れてくるので、感染対策を緩めてしまうと第6波の引き金になりかねません。また忘年会以外にも、正月の親戚の集まりも懸念材料です。現在、新規感染者数が抑えられている状況が続いているので、油断して感染対策を怠る人も出てくるかもしれません。一部の国では、ワクチン接種から4〜6か月経過するとブレイクスルー感染がみられます。また進行中のオミクロン株の拡散も脅威となりかねません。今日、まだ新型コロナウイルスが消えたわけではなく「くすぶっている」状態だと専門家は言います。いつまた感染が拡大するか分からないということを認識し、感染対策をやめないことが大事です。とまれ、皆様には無病息災で佳き新年を迎えられますよう祈念いたしております。

★☆★━━━━━━━■ CONTENTS ■━━━━━━━━━━★☆★

【1】 エネルギー医学の将来〜点と点からの発展性
【2】 “こころ” と “からだ”……臨床にモノ思う
【3】 からだの外から内を知る〜現代社会の身近な健康科学〜
【4】 円熟したプロフェッショナルになるための
バウンダリー・マネジメント・スキル
【5】 N・E・W・S


連載vol.86

エネルギー医学の将来 〜点と点からの発展性

<小社編集部編>

結 論(つづき)

・鍼療法から得たヒント
東洋医学と西洋医学の間には、思想的に大きな隔たりがある。両者の隔たりの原因はどこにあるのだろうか。またこの隔たりを埋める理論はあるのだろうか。
過去数百年の西洋医学では生体をそれぞれの要素に分ける還元論的研究が主流だった。他方、数千年という歴史をもつ東洋医学は目に見えないエネルギーが生体の形状や機能をコントロールしているという思想を基盤としている。東洋医学では、生体の内外に存在するエネルギーを「気」と呼んでいるが、名称こそ違え、東洋の伝統療法には気と共通の概念が認められる。しかしこのエネルギーを測定する方法がないために、経験と直感に頼る東洋医学は、西洋医学とは別物と見なされてきた。自然界の目に見えない力に対して、人は言い知れぬ恐れを抱くものである。

しかし、今では生体のエネルギーを測定する技術が開発され、西洋でも数十年前から「エネルギー医学」が広まってきている。鍼師が考案した気の流れに働きかける手法は、西洋のエネルギー医学の発展に大きく寄与している。鍼療法の手法および原理を科学的に証明しようとする研究が進み、実験で試すことのできる仮説も生まれてきた。
鍼と西洋医学は、まったく異なる手法に見えるが、根本的なところでつながっているようだ。鍼療法の研究の中で、臨床的に重要な問題との共通点が発見され、また現代医学ではサイバネティクスや情報理論を生物に応用して、生理学的統合システムという東洋医学に通じる概念が生まれているのである。卓越した生理学者であるアドルフ(adolph)も、生理学的統合にきわめて注目していた。また生物は複数のシステムが単純につながりあった線形のシステムではなく、複雑につながりあった非線形のシステムであることも報告されている。このことは臨床的にきわめて重要だ。非線形のシステムでは少しのずれが大きな変化につながるからである。
そして東洋医学と西洋医学で認められる多くの現象は、生体マトリックスという共通の概念で説明できることがわかった。だがしかし、生体マトリックスは、学問領域の枠を超えた概念であるが、いまの生物学や医学の研究姿勢や、科学者同士の交流の在り方から見て、集約的研究が行われるのは未だむずかしそうである。(了)
(出典『エネルギー療法と潜在能力』 小社刊 2005 )


連載エッセイ 95☆

“こころ” と “からだ” …… 臨床にモノ思う。

・保井志之(ファミリーカイロプラクティック院長、DC)


適応力(信頼関係)が治癒力を引き出す

<心の「エゴ」が動くとき>
治療者として臨床現場で活躍している人であれば、治療法云々以前に患者さんとの信頼関係、ラポールは「治癒力」を引き出す上でとても大切だということは感じていると思います。しかしながら「信頼関係」が大事だと分かりつつも、治療者としての治療法に対する強い「信念」は大切に持ち続けていたいものです。でも、それが強ければ強いほど、「信頼関係」に影響を及ぼすことがあります。その影響とは、治療ができる、自分は治せるという自尊心や自負心に関係するのですが、心のどこかに <自分が正しいということを解ってもらいたい> という心の「エゴ」が動くときがあります。
患者さんにとっては症状が改善することは最も重要な課題であり、そのための来院で、治療者が伝えていることが正しいかどうかよりも、むしろ患者さんが考えていることが正しいということを認めてもらいたいということの方が、患者さんにとっては重要課題である場合が多いのです。それは、頭では理解しつつも時折、油断をすると、ついついその「エゴ」が現れます。私も40年近く臨床を通して多くの患者さんに接して、まだまだ修行過程だなと反省しています。

<いつまで経っても修行半ば…>
皮肉なもので、治療者の成功体験が多ければ多いほど、自身の「傲慢さ」が知らず知らずのうちに出てくるようです。頭ではその「エゴ」を認識してコントロールしなくてはと思いつつも、ついつい「エゴのスイッチ」が入ってしまい、「いらぬことを言ってしまったかな…」と反省。私は治療法や臨床を教える立場なのだから、常日頃からそのようなことは他の勉強仲間にも伝えつつも、「いつまで経っても修行半ば…」という感じの今日この頃です。
治すことにこだわり続けている私のような治療家は、治療後すぐに症状が改善するということを目標にしており、症状の種類にもよりますが、多くの患者さんがその場で痛みが消失したり、軽減したりするケースが控えめに言っても9割以上あります。そのような改善率で臨床を進めていると、その場で、何も変化を感じない患者さんに遭遇すると、私の心の中で「そんなはずはない…」という「エゴ」が見え隠れします。治療後の変化を感じてもらえないのは、まだまだ自分の力不足、と謙虚に、真摯に受け止めることができればいいのですが、心の奥では問題の矛先を自分ではなく患者さんに向けている自分がいるようです。

<治療者の「適応力」が患者さんへの「治癒力」>
もちろん、すべての患者さんを100%満足させることはできないし、治療をする前から、おそらくこの患者さんは、治療を終えても満足されないタイプだなと予測しつつも、喜んでもらえないとやはり残念に思いますし、どのようなアプローチでチャレンジすれば良かったのかと振り返ります。肝心なのは同じような症状を抱えていても患者さんそれぞれのストーリーがあり、そのストーリーをしっかりと聞いて、できるだけ患者さんの立場でそれを理解することです。私はそのことを患者さんに対する「適応力」と呼んでおり、様々な患者さんに臨機応変に適応する力量が問われているのだと考えています。そして、治療者の「適応力」が患者さんへの「治癒力」にも関係すると考えています。
治療家の中には、治療法の技術技能よりも、患者さんとの「適応力」、すなわち信頼関係を構築することに秀でた治療家は少なくはないと思います。おそらくそのような治療家の治療院には多くの患者さんが頼りにするでしょうし、治療技術云々よりも、治療者としての在り方に心惹かれているのだと思います。私はまだまだ修行半ばで、その在り方を学び続けています。

連載 第17回

からだの外から内を知る 〜現代社会の身近な健康科学〜

安達 和俊 (醫王堂カイロプラクティック院長・DC)

4)睡 眠

b)「眠り」のリズムの不調
前号で記した自律神経系の不調とともに、さらに睡眠障害の元となるストレスについて、ハンス・セリエ博士は、「ホルモンは睡眠と闘い、短期間の作業中にも警戒を強める傾向があります。そのためホルモンは1日中用いる必要はありません。ホルモンが過剰にかつ夜中に回ると、ちょうどエフェドリン錠を服用したときのように、覚醒度が強く維持されてしまいます(エフェドリンは化学的にアドレナリンと関係が深い)。不眠にはもともと化学的な基盤があるので、一度発見したあとでは説得などで簡単に取り除けるものではないのです。夜、寝床に入ってから、その発現にうろたえるのでは遅すぎるのです」と述べています。
そして、その対策として「自己表現のため最短コースを選んで、それ以外あるいはそれ以上は夢中になったり熱中しないことです。とくに日暮れに近くなってからあまりに緊張するとストレス反応は夜まで持ち越されやすいのです」と強調しています。興奮していたり、神経が高ぶったりしていたのでは寝つけるはずもないからです。そうした傾向にある人はもちろん、われわれ皆、日々の生活にあたって十分留意したい言葉ではないでしょうか。(了)

連載…35

円熟したプロフェッショナルになるための
バウンダリー・マネジメント・スキル

Nina McIntosh /廣瀬寛治・訳

問題に巻き込まれないために

・訴訟や倫理に関わる苦情
何が倫理に沿っているのかという認識は、一般的なルールによって決めることはできません。それはあなたとクライアントとの関係によって判断されるのです。もしあなたが倫理に関するルールを破ったとするなら、あなたはバウンダリー(プロとしての存在や立場、関係を取り囲む防護壁)を超えているのです。したがってあなたがプロとしてのフレームワークやバウンダリーを破らずに業務に徹すれば、問題に巻き込まれることはないと断言できます。

施術者に対する倫理的な苦情や訴訟のうち、大部分は技術に関するノウハウではなく、クライアントに対する思いやりに関わるものです。メディカル紙に載ったリサーチによると、医者が診察を手短に済ませようとしていると感じたり、質問に答えなかったり、業務に対しルーズなっていると患者が感じたときが、いちばん医者が訴えられる状況にあると報告しています。
われわれ施術者は、不平不満をもっているクライアントに対して、プロらしく、思いやりをもって接する必要があります。来院したクライアントが何か落胆していたり、妙に怒っている気配があるときに対応し損なったりすると状況を悪化させます。クライアントは腹を立てていなければ苦情など告げません。多くのケースで訴えを起こされた施術者たちは、ごく普通の倫理規定に従って行動していたにもかかわらず、クライアントの感情に無関心な様子だったり、無意識のうちに彼らを感情的に突き放したりしたことで怒らせることがあるのです。
クライアントがあなたに対して口汚なかったり、困らせたりしないのであれば、問題解決のためのいちばん良い方法は、たとえあなたが一切間違いを起こしていないと思っても、彼らに本心を話してもらい、あなたが彼らを満足させられなかったことを後悔していると話せばよいと思います。

マニュアルセラピーに対する社会的な評価は上がってきています。業界が成長していくにつれ、バウンダリーを尊重し、私たちもクライアントにとっても利益になり、ひいては業界のイメージを向上させていくための新たな力や強さを身につけていくことができるのです。(了)
(出所:『エデュケーティド・ハート』The Educated Heart Professional Boundaries for the Massage Therapists,2nd ed. )

 N  E  W  S

NEWS ■2割負担の調整=75歳以上の医療費引き上げ―政府

政府は12月10日までに、一定以上の収入のある75歳以上の高齢者の医療費について、窓口負担を1割から2割に引き上げる時期を2022年10月からとする方向で調整に入った。今年6月に成立した医療制度改革関連法を受けた措置で、年末の予算編成で正式決定する。
同法では2割引き上げの時期を22年10月から23年3月の間と定めており、政府は開始時期を調整していた。ただ、来夏に参院選を控えているため、与党内から新たな高齢者の負担増に慎重論が出る可能性もあり、流動的な要素も大きい。
75歳以上の後期高齢者の窓口負担は現在原則1割負担で、現役並みの所得(単身世帯では年収383万円以上)のある人は3割を負担している。それを、単身世帯で年収200万円以上、夫婦世帯で年収計320万円以上の場合は2割負担に引き上げる。施行後3年間は激変緩和措置を講じる。
(12/10時事通信社)

NEWS ■身体活動は膝の痛みのリスク因子でない

熱心にランニングを続けている米デューク大学医療センターのKim Huffman氏は、よく人から「そんなに走っていたらそのうち膝を痛める」としばしば忠告される。しかし彼女は「その忠告には根拠がない」と言う。彼女のこの考え方を支持する、英サウサンプトン大学のLucy S. Gates氏らの研究結果が、「Arthritis and Rheumatology」に掲載された。運動量と膝関節のトラブルとの間に関連は認められなかったという。
新たに報告された研究では6件のコホート研究のデータを統合。身体活動と変形性膝関節症(膝OA)との関連を検討した。研究参加者計5,065人を5〜12年間追跡した検討の結果、身体活動による運動強度と運動時間のいずれも、膝OAの発症やOA関連の膝の痛み、画像所見との間に有意な関連が認められなかった。
Huffman氏によると、運動はむしろ膝を保護するように作用するという。具体的には以下のような作用メカニズムが考えられるとのことだ。
・膝の曲げ伸ばしに伴い膝関節まわりの循環が良くなり、栄養が行き渡る
・運動によって代謝が改善し、膝関節の炎症が抑制される
・運動により体重が減ると膝の負担が減る
・運動で膝まわりの筋肉が強化されて膝が安定し、けがのリスクが減る
「膝関節の使い過ぎが膝の痛みの原因ではないと言って良い。膝の痛みはけがとの関連で生じるのであって、痛みを生じるリスクはおそらく肥満や遺伝的背景が関連しているのではないか」とHuffman氏は解説。その上で、膝の痛みを防ぐ最適な方法として、膝のけがのリスクが少ない運動を行うことを推奨している。
Mandelbaum氏は「身体活動は身体的・精神的健康の維持に不可欠であり、生活の質(QOL)の向上に中心的な役割を果たす。さらに、不安感の抑制、気分の改善、糖尿病・肥満・高血圧・冠状動脈疾患のリスク低下などをもたらし、それらの結果、長寿にもつながる」とも語っている。
(12/9 HealthDayNews=部分)

NEWS ■「家庭血圧」は「病院血圧」よりもリスクに役立つ

「診察室や健診で測定される随時血圧よりも、家庭血圧の方が脳卒中の発症リスクと強く関連することが研究で明らかになっています」—こう話すのは、10年以上も家庭血圧や薬物療法を研究している東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の佐藤倫広助教。同氏は1986年に開始された大迫研究の解析に関わっている。
大迫研究では、①診察室や健診で測定した血圧(随時血圧)、②家庭血圧、③24時間血圧の3種類の血圧で研究対象者を詳細に分類し、脳卒中発症リスクを比較。すると、①〜③が全て非高血圧だった人に比べ、①のみ高血圧だった人の脳卒中発症リスクは明瞭に高くはなかった。一方、①が高血圧で②と③が高血圧の「部分白衣高血圧」は脳卒中発症リスクが約2倍だった。また①が非高血圧であっても、②または③が高血圧の「部分仮面高血圧」の脳卒中発症リスクも高かった。つまり、診察室や健診での血圧が高血圧かどうかにかかわらず、医療環境下ではない状況で測定される血圧が大切だということ。
「さらに24時間血圧は1日の血圧の変動が見られるものの、現状は専門の医療機関でないと測定できない上、測定日だけの血圧情報です。一方、家庭血圧は血圧を自分で連日測定できることが強み。脳卒中の発症リスクを正確に予測でき、かつ血圧の季節変動や加齢に伴う血圧の上昇をより手軽に把握できます」と言う。
家庭血圧と随時血圧を直接比較した別の大迫研究の結果でも、家庭血圧の上昇に伴い脳卒中リスクが上昇したが、随時血圧と脳卒中リスクは強く関連していなかった。
(12/1 日刊ゲンダイヘルスケア=部分)

NEWS ■ 反復性片頭痛に対するスマホベースの音楽介入

片頭痛は、世界中で多くの患者が苦しんでいる疾患の1つである。従来の予防薬や行動に基づく介入は、片頭痛発作の予防的治療として用いられてきた。しかし、原発性頭痛障害患者に対する代替介入のベネフィットについては、十分に調査されていなかった。フランス・CHU La Reunion-GHSRのGuilhem Parlongue氏らは、反復性片頭痛に対する患者の自己管理による音楽介入の影響について調査するため、パイロット研究を実施した。Complementary Therapies in Medicine誌オンライン版での報告。
対象は、反復性片頭痛患者20例(女性:17例、平均年齢:42歳)。患者は、治療開始前に頭痛の重症度、頭痛に関連する不安や抑うつなどの精神病理学的症状および機能障害に関する情報を評価され、薬物摂取に関するレポートを提出した。介入期間3ヵ月の間に、1〜2回/日の音楽セッション(Uシークエンスベースの音楽)を15回/月以上実施した。主な結果は以下のとおり。
・介入後、片頭痛発作の頻度に有意な減少が認められた(MDiff=-2.8、p=0.01)
・片頭痛発作の頻度が50%以上減少したと報告した患者は10例であった
・薬物摂取量(MDiff=-2.85、p=0.02)、片頭痛発作の持続時間(MDiff=-5.45、p=0.002)、不安症状(MDiff=-1.65[2.88]、p=0.02)、抑うつ症状(MDiff=-2.45[3.5]、p=0.002)の有意な減少も認められた

著者らは「音楽介入は、片頭痛発作の有意な減少に寄与する可能性が示唆された。さらなる調査のためにも、十分管理された臨床試験が求められる」としている。
(12/1 ケアネット=部分)

NEWS ■「がん患者のリハビリの大切さ」瀬戸内寂聴さん

今年、作家で僧侶の瀬戸内寂聴さん(99)が胆のうがんで死去。月刊「文藝春秋」が2015年に掲載したインタビュー記事を引き合いに中川恵一氏(東大医学部附属病院放射線科准教授)が記述する。
—-がん細胞は、全身の脂肪や筋肉を分解し、糖を取り込んで増殖。これによって引き起こされる栄養障害ががん悪液質で、がん患者が痩せるゆえんです。術後の寝たきりで筋力が低下した上、がん悪液質のダブルパンチでは、少し動いただけで多くのエネルギーが消費されて疲れやすく、疲れやすいから動かない。動かないから余計に体力が低下するという悪循環に陥るのです。
手術前の自宅療養から数えて4カ月ほど寝たきりで、術後1週間で退院したときは体重が8キロ減り、一人では歩くこともできなかったそうです。ベッドで1分間も座っていられず、食事も横になったままだったといいます。寂聴さんは「リハビリは決して裏切らない」と断言しています。高齢社会の今、高齢でがんの治療を始めることは珍しくありません。寂聴さんの前向きさは、頭に入れておくべきでしょう。
がんの治療は、手術のほか放射線と化学療法もあります。放射線と化学療法なら、治療中からリハビリをする方がより効果的です。理想は、週150分以上の中等度の有酸素運動と1日おきの筋肉トレーニングですが、メニューは療法士やリハビリのスタッフが組んでくれるので、とにかく継続すること。がん患者は「体を休める」から「体を動かす、鍛える」時代なのです。
(11/27 日刊ゲンダイヘルスケア=一部改変)

NEWS ■「健康のために歩く」をアプリで楽しく

外来診察をしていると、「健康のためにはどんな運動をすればよいですか」と聞かれる機会が多々あります。私はそんなとき、「まずは歩くことからです。スマホの歩数カウントアプリを使って、毎日の歩数を記録してみましょうか」と、お答えしています。
歩行に関する研究は世界中でされており、歩行で得られるさまざまなメリットが解明されてきました。米国の一般的な40歳以上の人々を対象にした、1日の歩数が4000歩の群と8000歩の群の比較では、8000歩群で死亡リスクが半減したという研究は知っている人も多いかもしれません。
日本の研究では、群馬県中之条町で行われた「中之条研究」が有名です。65歳以上の人を対象に15年以上も追跡し、歩数と疾患リスクの関係性など、さまざまな項目のデータを集めたものです。糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満の4疾患の併発を、動脈硬化につながる「死のカルテット」と呼びますが、このうち糖尿病、高血圧、脂質異常症は1日8000歩(中強度以上運動20分を含む)で、肥満は1日1万2000歩(中強度以上の運動40分を含む)で予防できることが明らかになりました。
しかし、ただ歩けと言われても、継続するのは難しいものです。そこでお薦めなのが、スマホアプリによる歩数管理です。ほとんどのスマホには、加速度計が内蔵されており、毎日の歩数をカウントしグラフ化してくれます。毎日確認する習慣をつけるだけでも、目に見える形で成果を確認できて、やる気の維持につながります。ご自身にあったアプリをお供に、ぜひ皆さんにも、楽しみながら健康になっていただきたいと思います。=渡邉昂汰:内科専攻医・名古屋市立大学公衆衛生教室研究員
(11/26 時事メディカル=部分)

NEWS ■週に5時間の運動でがんリスクが低下

人々が1週間に5時間程度、適度な強度の運動を続けることで、米国で1年間に4万6000件以上の新たながんの発症を抑制できるとする推計結果が報告された。米国がん協会(ACS)のAdair Minihan氏らの研究によるもので、詳細は「Medicine & Science in Sports & Exercise」に掲載された。
この研究は、米国がん統計データベースと米国国民健康栄養調査から、性別、年齢、人種/民族、および州ごとのがん罹患率などのデータを抽出し、身体活動が不足していることに関連する発がん状況への影響を検討したもの。
ACSは、がん予防のために週5時間の中強度の運動を推奨しているが、データ解析の結果、2013〜2016年に30歳以上の米国成人が発症した全てのがん(非黒色腫皮膚がんは除く)の3%(95%信頼区間2.9〜3.0%)は、この推奨を満たしていないことに起因するものと推計された。1年当たりでは平均4万6356件だった。
性別で比較すると、男性は1年当たり1万4277人、女性は同3万2089人が、身体活動の不足によりがんを発症していると推計され、男性よりも女性において、身体活動不足の影響が大きく現れている可能性が示された。がんの部位別に見ると、胃がん発症への身体活動不足の人口寄与割合(PAF)は16.9%、子宮内膜がんは同11.9%、腎臓がんは11.0%、大腸がんは9.3%、食道がんは8.1%、乳がんは6.5%、膀胱がんは3.9%となった。
著者らは「多くの米国人は身体活動量を維持することが困難な状況にある」と述べ、その理由として、運動をする機会の減少とコスト負担を挙げている。例えば、屋外で安全に運動を行える環境が限られており、スポーツジムを利用したり自宅にマシンを設置するにも少なくない負担が発生する。Minihan氏によると、このような障壁は特に黒人や低所得者などの特定のグループでより顕著に認められるという。
(11/23 HealthDayNews=部分)


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(編集人:北島憲二)


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