エンタプライズ発信〜メールマガジン【№81】 2018. 1
1世紀以上にわたって西洋医学が医療の先端を走ってきましたが、漢方薬や鍼灸などの伝統医療が、今春の世界保健機関(WHO)の総会で医療基準として認定される方向であることが新年明け報道されました。これまでWHOで扱う医療の統計が西洋に偏り、伝統医療を本軸としているアジアなどの統計がほとんど取られていないとされる医療の「情報格差」を埋めることが目的です。WHOに公式に認められれば、世界の優秀な研究者による科学的な調査のもと、伝統医療および漢方などの有効性も検討でき、その成果は患者に大きく還元されます。加えてそのムーブメントは日本の代替相補伝統医療の地位向上に役立ちますし、統合医療への道筋が大きく前進する可能性が高まります。西洋と東洋、彼我の医療概念・戦略は大きくかけ離れています。しかし本号のコラム(“こころ” と “からだ” … 臨床にモノ思う)で保井志之氏が記述するように、「代替療法といわれている自然治癒力を引き出すことを主な目的としている療法では、様々なアプローチで治癒力を引き出そうとします。東洋医学の鍼灸では自然治癒力を引き出すために気の流れを整えます。カイロプラクティックでは神経の伝達を整えます。あるいは食事療法や漢方、サプリメントなどでは過剰な食事を制限したり、不足がちな栄養を補ったりして自然治癒力を活性化します」という生体エネルギー論が西洋医学に敷衍する日がくれば、いよいよ東西医療の合流点である統合医療の確立が実現する見通しが立ちます。まだいわば序章の段階ですが、期待に胸が膨らんでくる時がそう遠く感じなくなりました。この新年に曙光あり。
★☆★━━━━━━━━━━■ CONTENTS ■━━━━━━━━━━━★☆★
【1】新連載 『ひとりあんま気功』〜自分で押すのが一番効く
【2】老いない人の健康術 〜免疫と水素〜
【3】エネルギー医学の将来〜点と点からの発展性
【4】“こころ” と “からだ”……臨床にモノ思う。
【5】伝統医学をシルクロードに求めて 〜くらしのなかの中医学〜
【6】根拠に基づく腰痛の原因と治療 《腰痛治療の新常識》
【7】N・E・W・S
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◆新連載◆
『ひとりあんま気功』〜自分で押すのが一番効く
孫 維良(東京中医学研究所所長)
中国には「三分の治療、七分の養生」という言葉があります。また「病気は自分でつくったものだから自分で治す」という考え方があります。前者は文字の示すとおりで後者はたとえば眼精疲労や肩こりは長時間にわたってパソコンを操作して目を酷使している人が、休みの日もテレビばかり見ているような生活を続けていると目の疲れはひどくなります。動揺にパソコン操作の間に肩の筋肉に負担の大きい悪い姿勢を続けていると肩こりになりやすくなります。このような悪習慣は自分でつくりだしているので、これは自分の力で少しずるつ治していかなければなりません。
実際、中国人はその努力を積み重ねてきました。私が知っているだけでも、何百人も「ひとりあんま気功」というセルフケアによって病気を克服し、健康を取り戻すことに成功しました。ひとりあんま気功は中国で約三千年の歴史があり、多くの人に試され、磨き抜かれてきた養生法なのです。
ひとりあんまの最大の利点は副作用がないことです。また好きな時間、好きな場所を選んで行えます。会社や通勤電車の中でも行えるものもたくさんあります。読者も実際に試してみるとわかりますが、技術の拙い治療家にあんまをしてもらうと痛いことが多くあまり効かないというケースがありますが、ひとりあんまは自分の手で操作するので力の入れ具合は自分で加減できます。症状が軽くなったどうかも自分の体が答えてくれます。つまり、ひとりあんまは自分の体と対話しながら、じっくり治療に取り組むことができます。患者さんだけのオーダーメイドの治療法と言えます。
そのほかに症状によっては毎日のように治療をする方がよいこともありますが、治療院には休診日があります。またそうそう頻繁に行けるはずがありません。しかしひとりあんまは休まず毎日できます。1年365日、病気の最良の癒し手、すなわち自分の手ほど頼りになるパートナーはいないのが大きなメリットになります。読者自身にも有用なセルフケア術となり、患者さんには毎日のメンテナンスとして指導し活用できるならば幸甚です。
あんまが治療法として確立したのは少なくとも今から三千年ほど前に初歩的に始まったことは、殷の遺跡の象形文字によって明らかにされています。魏の時代(220-265)には皇帝のための医院にあんま科が設けられ、唐の時代(618‐907)には医者を養成する専門機関であんまを教えていたほどなのです。
気功も大変古い歴史を持っています。周(紀元前1120-722)の時代に銅器に気功をしている人々の姿が描かれています。やがて春秋戦国時代(同722-221)になると気功で病気を治療する試みが始まっています。また同時代の儒教と道教にも気功様式が取り入れられ独自の発展をしています。
次号では、あんまと気功がなぜ組み合わさったのかについてその背景を記していきます。
⑧
老いない人の健康術 〜免疫と水素〜
* 安保 徹(元新潟大学名誉教授)
* 太田成男(日本医科大学教授)
赤血球にミトコンドリアがない理由
[安保] ミトコンドリアがエネルギーを作った理由が、酸素を解毒するためだったとは面白いですね。生命のしくみは本当に不思議なことが多い。
今の話を聞いて、昔リンパ球の研究をしていたころのことを思い出しました。いろいろ採血した血液からリンパ球を分離しては保存していたのですが、その中に死後4日経過した血液がありました。その血液中のリンパ球を調べてみたら、なんと生存率が100%だったのです。
リンパ球は免疫細胞でふだんは休んでいます。そして免疫反応を起こす原因となる抗原が来たときに分裂して働き始めるのですが、死後4日経っても休んだ状態で生き続けていたわけですね。
ミトコンドリアの多い細胞は次々に死んでいくけど、ミトコンドリアの少ないリンパ球は全部生き残っていたからびっくりです。無酸素で生きる細胞の世界もあるんだなあとつくづく思いました。死なないと言えば赤血球も生き続けますよね。
[太田] 赤血球はミトコンドリアがないですから。すべての細胞はミトコンドリアを持っていると、ついわかりやすく言ってしまいがちなのですが、正確に言うと赤血球はミトコンドリアを持っていないんですね。
[安保] 鶏の採血をして赤血球を調べていたとき、核があるのにミトコンドリアがないから不思議に思ったことがあります。酸素を運ぶために重要な役割を持つ赤血球に、ミトコンドリアがないというのは面白いですね。酸素を運びながら赤血球はエネルギーを解糖系で作っている。
[太田] 赤血球の役割は単純に酸素を運ぶことだけです。だから赤血球が酸素を運んでいる途中に自分で酸素を使ってしまったりするとまずいですよね。
[安保] なるほど。繁盛する酒屋の主人はお酒を飲めない人が多いそうだけど、それと同じだね。
[太田] そうそう、自分で飲んじゃったら商売にならないですね。(笑い)
自律神経はエネルギー消費と
エネルギー蓄積の変換スイッチ
[安保] 話は変わりますが、免疫の研究で自律神経や内分泌のさまざまな働きを考察してみると、結局エネルギーを使ったり蓄えたりするためのスイッチのような役割をしているように思えます。
交感神経の働きはそもそもエネルギーの消費ですよね。われわれが活動するということは結局エネルギーを消費することでしょ。休息は消費したエネルギーを再び蓄えるための準備期間です。睡眠をとったり、食後の消化管活動は休息にあたりますが、これらはすべて副交感神経の支配下です。
交感神経と副交感神経の対照的な働きは「活動」と「休息」という捉え方ができますが、これをもっと突き詰めれば、エネルギーの消費と蓄積のスイッチを入れるための方策と考えられます。いかが思われますか。(この項つづく)
連載vol.39
エネルギー医学の将来 〜点と点からの発展性
<小社編集部編>
直感と洞察力
補完医学のセラピストたちは、昔からエネルギーや情報伝達系を治療に応用してきたが、価値のある興味深い発見を、科学者たちと共通の研究テーマとすることができなかった。セラピストたちは、自らの発見を証明する科学的根拠や理論がないと錯覚しており、そのために治療は直感と洞察力に頼るしかないとか、どれだけ優れた発見でも決して科学として認められないだろうと諦めてきたのである。
直感や直感的発見は邪道ではない。偉大なる発見は直感によってもたらされてきたのだ。どんな研究にせよ、洞察力がなければ迷路から抜け出せないことは、ベテランの研究者なら誰もが認めるだろう。しかし直感を頼りにしているセラピストの中には、自分自身の発見や経験を科学的に表現できない人が多い。けれどもそれは、彼らの重要な発見を説明したり、試したりする科学的領域が存在しなかっただけのことなのだ。ところが時代は変わった。
生体のオペレーティングシステム
私がいま書こうとすることは、生体の種々の構成要素とそれらの相互作用が一種の「オペレーティングシステム」をつくり出しているという話である。オペレーティングシステム、つまりコンピュータのOSのように、生物のあらゆるレベルでの反応や活動を調整しコントロールする陰のシステムについての話だ。
生物の反応や活動というのは、知覚、運動、組織の形成・再形成、意識および生理学的機能と、これらによって生まれるパフォーマンスや健康のことである。補完医学では生体の不思議な特性に働きかける有効な治療法が多数開発されてきたが、先に述べたとおりその特性が何者なのかを説明するのに苦しみ続けてきた。
生命に謎に迫る探求は、氷山に例えることができる。目の前の患者は、姿かたちが見える氷山の一角に過ぎない。氷山の大半は海の中に隠れているものだが、患者の体の中にもさまざまな性質や機能が隠れている。その隠れた部分は、氷山という例えでは到底表現できないほど、また一般的な理論では説明がつかないほど複雑で深い意味を持っているのだ。
一般に私たちは、内なるオペレーティングシステムの存在に気づいていない。それは意識によって認識できる世界が、全体のほんの一部にすぎないからだ。私たちが生体のオペレーティングシステムの驚異的な機能を思い知らされるのは、特別な出来事に遭遇したときだけである。たとえば原因不明の不治の病や障害に見舞われたときや生命の危機にさらされたとき、あるいは誰かと直感的に心が深く通じ合ったときなどだ。この現実をパラダイムに反するからと否定する医学は、生体全体を見る大局的な視点を欠いているために、数々の重要な医学的問題を解決することができないであろう。(つづく)(出典『エネルギー療法と潜在能力』(小社刊))
連載エッセイ ㊾☆
“こころ” と “からだ” …… 臨床にモノ思う。
・保井志之(ファミリーカイロプラクティック院長、DC)
自然療法の本質 (前編)
「自然療法」という言葉には様々な定義があります。米国にはDoctor of Naturopathyという学位を修得できるNaturopathy(ナチュロパシー)の大学もあります。そのような体系化された学問だけでなく、「自然治癒とは何か」「治る人と治らない人の違いは何か」などの本質的な意味を含めて、治療者が施す「自然療法の本質」について語りたいと思います。
基本的に遺伝的な疾患を持っていない限り、ほとんどの人は「治る力」を持ち備えているという前提があります。言い換えると、人間の身体はケガや病気を自然に修復できるように創られているという原理原則があることです。しかしながら、多くの人々が、肉体的にも精神的にも何らかの慢性症状を抱えています。その原因は何でしょうか?
人は誰でも生きていく上で、生物学的、あるいは生化学的にバランスの良い栄養素は大切です。また、健全な肉体を維持するためには適度な運動も大切です。さらには調和された心身を維持するためには社会的にも精神的にも健全な人間関係は必要不可欠です。このような領域を大きく分けると「栄養面」「肉体面」「心理面」に分けることができるでしょう。
しかしながら、人間の身体や精神は分離分割されるものではなく、常にこれらの領域を統合し調和することで健康が維持されています。どの領域も、なくてはならない側面です。もしも、これらの側面に問題がある場合、西洋医学では足りないものを基準値に見合うように補う、不要なものを攻撃する、あるいは構造学的に正常に戻すというダイレクトな手法が施され、その上で自然治癒力が発揮されることになります。
その一方で、代替療法といわれている自然治癒力を引き出すことを主な目的としている療法では、様々なアプローチで治癒力を引き出そうとします。東洋医学の鍼灸では自然治癒力を引き出すために「気の流れ」を整えます。カイロプラクティックでは「神経の伝達」を整えます。あるいは食事療法や漢方、サプリメントなどでは、過剰な食事を制限したり、不足がちな栄養を補ったりして自然治癒力を活性化します。
自然治癒力を制限しているものは様々ですが、基本的には目には見えないモノによって影響を受けています。例えば身体の働きをコントロールしている脳・神経系の「神経の伝達」は電気信号のようなもので、目で確認することはできません。目には見えない神経系が発する信号は、脳、脊髄を経由して、様々な臓器に「働き」のメッセージを伝達します。
もしも、内臓や膝に関係する筋肉の一部の働きが悪くなるとどうなるでしょうか?胃腸などの自律神経系への神経の流れが過剰になったり不足になったりすると、胃腸の働きが悪くなり、胃痛や下痢、便秘などの症状を生じるかもしれません。また、膝に関係する筋肉への神経伝達に誤作動が生じると、関節がうまく噛み合わなくなって痛みなどの症状が生じてしまうでしょう。(後編につづく)
《連載63》
伝統医学をシルクロードに求めて
池上正治(作家・翻訳家)
「すぐそこです、すぐ」
この「すぐそこ」のあと、道路を3本も通り過ぎてから彼は私を地下鉄の駅へと案内した。彼の家は東京都心にではなく郊外にあった。地下鉄に乗らなければならない。彼は窓口ではなく、直接改札口へ行くと回数券を取り出した。どうやら彼は地下鉄の常連らしい。彼のあとについていき地下鉄に乗った。
長く大きな車両は満員の人で、空席はなかった。私たちは立っているしかなかった。車内は人の多さのわりに静かだった。
座席にかけている人は、新聞を読んでいる人があり、目を閉じて神(しん)を養う人がある。立っている人も大声で話したりはしない—。
以上は湛容女史によるエッセイ「日本一青年」の一節である。『人、中年に到る』などの書で社会派として知られる彼女は、10年ほど前に日本を訪れている。その際、わが家を家庭訪問してもらった。作家の代表団として海外に出た中国人にとって、一般の個人の家庭に踏み込む機会はまずない。
さすがにベストセラーを出している社会派作家の観察眼には鋭いものがあった。軽い昼食をはさんでの約半日、往復の車中のこと、わが家で紹介した数人の友人のこと(女房は中国へ行って不在だった)、食事や会話の内容のことなど、メモというものを少しもとらない彼女だが、克明に記憶していた。それは日本を離れないうちに京都でくだんの原稿となり、3か月後には北京の文芸雑誌に発表された。
閉目養神(目を閉じ神を養う)と言えば医学の専門用語である。「心のまど」である目を閉じることにより、外界からの情報や誘惑をシャットアウトする。それにゆったりとした腹式呼吸を組み合わせれば、人間の思惟を司る神(しん)は、静まり、安らかとなる。
このこと自体は特に医学的見解というより、かなり常識的な考え、処置として無意識のうちに実行しているのかもしれない。むしろ閉目養神などという難解な専門用語が、中国語のエッセイの中に散りばめられていることが大きな驚きであった。しかも地下鉄の中の単なる「まどろみ」を表現するものとしてそれは用いられていた。
来日5年のフランス人カメラマンが地下鉄での眠りをテーマにして写真を撮り、個展を開いた。どうやら日本人はまどろみの天才らしい。それは生活の密度、行動半径の大きさ、車内の安全などと関係がありそうだ。
根拠に基づく腰痛の原因と治療 – 腰痛治療の新常識(56)
長谷川淳史(TMSジャパン代表)
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腰痛に関する正確な情報には想像を絶するほどの治癒力があります。どうか情報の拡散にお力をお貸しください。
■腰痛発症から2週間未満の労災患者を担当している医師724名を対象に、腰痛診療ガイドラインの遵守状況を調査した世界初の研究によって、医師たちはエビデンスに基づく腰痛治療の実施段階で立ち往生していることが判明。http://goo.gl/fk3zp4
……カナダのブリティッシュコロンビア州で行なわれた研究ですが、世界各国がエビデンスに基づく腰痛診療ガイドラインを発表し、専門家の間でも広くコンセンサスが得られているにもかかわらず、ガイドラインの勧告を受け入れるのは難しいようです。しかも、ブリティッシュコロンビア州の労災補償システムは、ガイドラインに従うよう強制する絶対的な力を持っていて、無益な診断や治療費用は補償されなかった可能性があるというから驚きです。患者の利益を最優先に考えればそこまで抵抗する理由はないはずなのに。
■腰痛による就労障害の流行は急速に出現した。腰部損傷という伝統的な治療モデルが「痛みに対する恐怖」「活動に対する恐怖」「肉体労働に対する恐怖」を植え付け、長期就労障害のパターンとなるひとつの社会現象と言える。http://goo.gl/C27Ql9
……慢性腰痛に関係した就労障害は、過去数十年で徐々に増加したのではなく、ほんの1世代の間に突如として増えました。かといって重篤な脊椎疾患の増加はまったく起きていません。こんな短期間にいったい何が変わったのかというと、腰痛に対する個人・医学界・社会の反応です。損傷が治癒し、症状が緩和するまで安静にし、できるだけ活動を避けるよう勧める根拠のない治療モデルが問題をこじらせてしまったのです。
■欠陥のある時代遅れの損傷モデルから生物心理社会的モデルで主導的役割を果たした英国では、腰痛関連の就労障害給付が1970年代末から1990年代初頭までに208%増加したが、1990年代半ばから42%減少した。http://goo.gl/C27Ql9
……これは主に長期就労障害給付を受ける腰痛患者数が減少したことによるものですが、腰痛に対する社会通念の変化と関係があると考えられています。いずれにしろ、英国では腰痛に対する社会的な反応の仕方が急激に変化したのは事実です。
■11〜15歳の502名を対象に1年間追跡した前向きコホート研究によれば、思春期における腰痛の危険因子は「成長速度が速い」「喫煙」「学業とアルバイトの両立」「ハムストリング筋が硬い」「大腿四頭筋が硬い」だった。http://goo.gl/pFbDXH
……バックパックが子どもたちの腰痛の原因だとする説によって世界中のメディアが大騒ぎしたことがあります。つまり、バックパックを使用している学生は、筋肉および靭帯の断裂、椎間板の損傷、脊椎の歪み、脊柱側彎症など、生涯にわたる腰痛の危険に曝されていると報道したのです。しかしこの説を支持するエビデンス(科学的根拠)はありません。カナダのモントリオールで行なわれたこの研究では、成長速度やアルバイトは変えられないとしても、禁煙と大腿筋の柔軟性を獲得することで思春期の腰痛を予防できる可能性が見い出されました。
N E W S
2040年に単身世帯が1994万人に上り、一般世帯全体の4割近くを占める見通しであることが1月12日、厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所がまとめた世帯数の全国推計で分かった。一度も結婚したことのない65歳以上が男女ともに急増し、単身世帯に占める65歳以上は896万人で45%に達する見込み。同研究所の担当者は「少子化で2世代同居や3世代同居の家族形態が減る中、1980年代以降に未婚が珍しくなくなった世代が高齢期に入るため、高齢者の独居率が高まる」とみている。(1/12 時事通信)
休日前に夜更かしして、昼過ぎまで長寝する。平日仕事で忙しい人たちにとっては至福の時だが、寝る時刻や睡眠時間が平日と休日で大幅にずれると体内時計がずれてしまう。こうしたことを長年積み重ねると、心身に思わぬ不調を招く。
こうしたずれを「社会的ジェットラグ(時差ボケ)」という。週末の長寝で体内時計が30〜45分後ろにずれるという。国立精神・神経医療研究センターの北村真吾室長は「毎週末、弾丸海外ツアーをするようなもの」と話す。
海外の研究で、ずれが大きい人ほど糖尿病や心血管の病気につながる肥満や、うつなどのリスクが高くなるとする報告がある。夏に標準時間を早めるサマータイム制度は、切り替え前後に心筋梗塞や脳梗塞の発症、交通事故のリスクが増えるという研究もある。(1/10 朝日新聞)
温泉の源泉数と湧出量で日本一を誇る大分県。入浴だけでなく温泉水を飲む「飲泉」の魅力も知ってもらおうと、県薬剤師会が県内の飲泉所を紹介する本を作った。温泉が生活に溶け込んだ「おんせん県おおいたの飲泉スポット30」。県内の飲泉許可施設から30カ所を選び、泉質や味、適応症と禁忌症などを写真付きで紹介。1日の飲用許容量や衛生面での留意点もまとめた。非売品で、観光施設や各種学校、図書館に置く予定だ。
飲泉本を監修した由佐悠紀京都大名誉教授によると、水が貴重な欧州では入浴より飲用が主流という温泉地は少なくないが、日本では、有名な別府温泉の文献にも飲泉の記述は見当たらない。由佐教授は、日本は良質な水に恵まれているため、日常的に温泉を飲む習慣がなかったのではと推測する。
一方、由佐教授の話では、8世紀ごろ編さんされたとされる豊後国風土記に、現在の塚野鉱泉の辺りから「酒水」が湧き、人々は皮膚病の治療に使っていたとの記述がある。味は酸っぱいと書かれているという。(1/9 時事通信)
手足の震え、こわばりなどの運動障害が出るパーキンソン病の患者は、血液中のカフェイン濃度が健康な人に比べて低いとの研究報告を、順天堂大のグループが1月3日付の米国神経学会誌オンライン版に発表した。研究グループは「他の病気との鑑別が難しかった早期患者も、簡便な血液検査で迅速に診断、治療できるようになる」としている。
コーヒー1日1-2杯程度のカフェイン摂取がパーキンソン病の発症予防に有効だとする研究報告が2000年代から相次ぎ、そのメカニズムを解明する目的で今回の研究が行われた。
パーキンソン病の患者108人と健康な31人から採血。カフェインやカフェインの代謝に伴って生じる物質の血中濃度を比較したところ、患者のカフェイン濃度は健康な人の3割程度と低かった。健康な人はカフェイン摂取量に比例して血中濃度が高かったが、患者では摂取量と血中濃度の相関が弱かった。研究グループの斉木臣二准教授(脳神経内科)は「パーキンソン病患者は腸からのカフェインの吸収障害が起きていると想定される」と話す。(1/4 読売新聞)
1回あたり10分程度の単発の運動で脳機能を少なくとも一時的には向上させることができるかもしれないというカナダ・ウェスタンオンタリオ大学の研究者らによる報告。これまでの研究では、20分間運動を行うか、24週間を超える長期間の運動を行う事によって脳機能の健全性に寄与できるという報告が成されていたが、本研究では10分間であっても有酸素運動を行うことでヒトの問題解決機能や集中力などが改善できる可能性があるようだという。
時間がなくて長時間運動出来なかったり、身体機能が十分でなくて運動できなかったりする人にとって、この研究成果は朗報であろう。少し高い強度でウォーキングしたりサイクリングしたりするだけで、しかも短時間、単発の運動であっても、速効性のある効果が見られるというのである。
研究期間中、参加者は座って雑誌を読むか、10分間の中〜高強度の運動をステーショナリーバイク上で行うか、どちらかに割り当てられた。それぞれの10分間のセッションに引き続いて、研究者らは参加者に視線移動を要する認知機能試験を課し、視線追跡装置を用いて参加者の反応時間を計測した。この試験は脳の意思決定や抑制などの実行機能に関わる部位に負荷をかけるようにデザインされたものであった。
運動グループでは、直後の脳機能で速効的に改善が見られていた。反応はより正確であり、かつ反応速度も最大で50ミリ秒、運動前試験の結果に比べて速くなっていたのである。この度合いは少なそうに見えるかもしれないが、数値を認知機能で換算すると、いくつかの事例によっては14%のパーフォーマンス増大が見られたことを意味しているのである。(12/27 tms-net)
裸眼視力が1.0未満の小中学生の割合が過去最高になっていることが、文部科学省が12月22日に発表した学校保健統計調査でわかった。文科省は、長時間にわたってスマートフォンやゲーム機を近くで見続ける、生活習慣の影響が出たとみている。
調査は毎年実施しており、全国各地の幼稚園や小中高校を抽出し、5〜17歳の子どもの健康診断の結果を集計している。その結果、今年度は視力が1.0未満の子どもは小学校が32.46%、中学校が56.33%と過去最高を記録。高校生も最高だった昨年度(65.99%)より減ったものの、62.30%だった。30年前と比べると小学生は12.92ポイント、中学生は17.91ポイント、高校生は8.88ポイント増えた。
また、「耳疾患」の子どもは小中高で6〜2%台で、いずれも過去最高だった。疾患の内訳まで集計していないため増加の原因は不明だが、日本耳鼻咽喉科学会によると、耳あかが詰まる耳垢栓塞は小中学生で増えており、原因を調べる方針という。(12/22 朝日新聞)
ウォーキングでもたらされる有益な心肺機能効果は、大気汚染度の高い商業街路を短時間でも通過すると阻害されることが、英国国立心臓・肺研究所のRudy Sinharay氏らによる無作為化クロスオーバー試験によって明らかにされた。検討は、通常速度のウォーキングにおいて大気汚染が健康に与える有害作用を示した初の試験だという。同結果は慢性閉塞性肺疾患(COPD)や虚血性心疾患の患者、健康な人を問わず認められ、虚血性心疾患患者については、薬物の使用で高い大気汚染の有害作用を減じる可能性が示されたが、著者は、「このような健康への悪影響を考慮して、商業街路の大気汚染度の規制を目指す政策が必要だ」とまとめている。Lancet誌オンライン版2017年12月5日号掲載の報告。
被験者を無作為に2群に分け、一方はロンドン中心部のオックスフォード・ストリートを、もう一方は都市公園内(ハイドパーク)を、2時間ずつウォーキングした。その際に、黒色炭素、微小粒子状物質(PM)、超微粒子、二酸化窒素(NO2)の各濃度をセッションごとに測定した。被験者は、COPD患者40例、虚血性心疾患患者は39例、健康ボランティア40例だった。黒色炭素、NO2、PM10、PM2.5、超微粒子濃度は、いずれもオックスフォード・ストリートがハイドパークに比べて高値だった。
COPD患者において、オックスフォード・ストリートのウォーキング後では、ハイドパークのウォーキング後に比べ、咳(オッズ比[OR]:1.95、p<0.1)、喀痰(同:3.15、p<0.05)、息切れ(同:1.86、p<0.1)、呼気性喘鳴(同:4.00、p<0.05)の報告が有意に増加した。
疾患の有無にかかわらず被験者全員が、ハイドパークのウォーキングにより1秒量(FEV1)や努力肺活量(FVC)の肺機能が改善し、脈波伝播速度(PWV)や増大係数(AI)の減少が、最大26時間後まで継続した。
一方でオックスフォード・ストリートのウォーキングでは、COPD患者で、FEV1やFVCの減少、5Hzにおける呼吸抵抗(R5)や20Hzにおける呼吸抵抗(R20)の増加について、ウォーキング中のNO2、超微粒子、PM2.5の濃度上昇との関連が認められた。また、PWVやAIの増加も、NO2や超微粒子の濃度上昇と関連していた。健康ボランティアにおいても、PWVやAIについて、黒色炭素、超微粒子濃度との関連が認められた。(12/16 CareNet=一部を収載)
冬は部屋の温度が低いと血がかたまりやすくなり、心筋梗塞などを起こす危険性が増す。高齢者を対象としたそんな調査結果を奈良県立医科大の研究チームがまとめた。室温が低い部屋で長い時間をすごしている人は血液をかためる血小板が多くなっていた。
奈良県明日香村や香芝市などに住む60歳以上の男女に協力してもらい、冬の時期に約1100人(平均72歳)から血液を採取。長時間すごす部屋や寝室の温度を測り、起きているときの平均的な室内温度と血小板数との関係を調べた。血小板は、けがをしたときなどに出血を止める働きがあるが、多すぎると血栓ができやすくなる。
部屋の温度に応じて参加者を、寒め(平均11.7度)、中間(同16.2度)、暖かめ(同20.1度)の三つに分けて分析すると、寒めの部屋で過ごす人の血小板数の平均値は1マイクロリットルあたり約23万9千で、暖かめの部屋ですごす人より5%ほど多かった。
値はいずれも正常とされる範囲内だったが、正常レベルでも値が高めだと心筋梗塞などで亡くなるリスクが上がるとする海外の研究をもとに計算すると、「寒め」の人は「暖かめ」の人より、同様の死亡リスクが18%高かった。
チームの佐伯圭吾教授(疫学)は「暖房費を節約しようと寒くてもがまんする高齢者もいるかもしれない。でも、長くすごす部屋だけでも暖かくすれば、心筋梗塞や脳梗塞を防げる可能性がある」と話す。(12/16 朝日新聞)
■2018年、あけましておめでとうございます。読者諸兄の穏やか1年を心より願っております。今年もご講読よろしくお願いいたします。(編集人:北島憲二)
■次号のメールマガジンは2018年2月10日ごろの発行です。
[発行]産学社エンタプライズ