エンタプライズ発信〜メールマガジン【№80】 2017. 12
休日に日がな1日テレビを見ていると、景気が良くなったのかCMの多さが目につきます。通信販売も多数あり、その一つに便秘解消を大々的にうたう “爽快” なものもありました。人知れず悩む人も多い便秘。便秘は有病率が高く、その診断は客観的な評価がむずかしく、治療に対する患者の満足度も低い疾患だと言われています。そんな現状を変えようと、消化器内科医らで組織する慢性便秘の診断・治療研究会が、日本初となる便秘のガイドライン『慢性便秘症診療ガイドライン』を作成しました。これによると、便秘に悩む人の中には「毎日排便しないといけないと思っている人も少なくないが、週に3回程度の排便でも、腹痛や腹部膨満感、残便感などがなければ問題はない」と記してあります。ではひどい便秘の対策はと言うと、適切な食事と運動、なかんずくヨーグルトなどのプロバイオティクスや食物繊維の摂取、腹壁マッサージは手軽にできる方法として知られていますが、ガイドラインでは、これらの方法は積極的に勧めるほどでない「弱い推奨」にとどまっています。食物繊維については「過剰摂取は便秘を増悪する」とし、菜食志向で多く摂取すればいいというものでもないようです。さらに運動や腹壁マッサージも科学的根拠のレベルは低いとし、「やらないよりはやった方がいい」とコメントしています。結果、最良の治療は医師にかかり服用薬をもってするのがベストと括っています。宿便性腸穿孔など高齢者の便秘は命にかかわることが最近の研究で分かってきています。テレビCMで宣伝するサプリメントなどの有用性はさておき、腸は第2の脳と言われますから規律性のある生活習慣を送りながら健全な排便の工夫を意識していきたいものです。
★☆★━━━━━━━━━━■ CONTENTS ■━━━━━━━━━━━★☆★
【1】老いない人の健康術 〜免疫と水素〜
【2】エネルギー医学の将来〜点と点からの発展性
【3】“こころ” と “からだ”……臨床にモノ思う。
【4】伝統医学をシルクロードに求めて 〜くらしのなかの中医学〜
【5】根拠に基づく腰痛の原因と治療 《腰痛治療の新常識》
【6】N・E・W・S
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Topics
11月28日、日本カイロプラクティック登録機構(JCR)から厚生労働省医政局医事課に総数525名の登録者名簿(カイロプラクター名簿)が提出されました。遠山清彦JCR理事長から厚労省に対して、①「カイロプラクティックの安全性と広告に関するガイドライン」の活用、②JCR登録者名簿の公開、③海外のカイロプラクティック教育機関及び研究機関の視察、についての質問が出され、後日厚労省としての正式な見解が得られる見込みです。またJCR理事会では、東京2020に向けた業界の方針や法制化の必要性についてもかなり踏み込んだ積極的な提言が理事長からありました。
参考サイト:http://www.chiroreg.jp/PDF/jcr_announce2017.11.pdf
⑦
老いない人の健康術 〜免疫と水素〜
老いない人の健康術 〜免疫と水素〜
* 安保 徹(元新潟大学名誉教授)
* 太田成男(日本医科大学教授)
霜降り和牛は運動不足?
[安保] 赤筋の説明をするとき、私はよく和牛とオーストラリア牛の話をします。和牛の肉は霜降りだとか高級なイメージですが、脂肪の多い運動不足な肉ですね。和牛の料理というとしゃぶしゃぶだとかスキヤキだとか、タレや卵でうまく味をつけて美味しく食べるという感じですよね。
一方、オーストラリア牛は、よく運動していてミトコンドリアが多い赤筋が発達した肉です。赤みの多い締まった肉です。私はこちらの方が肉本来のうまみがあると思いますね。
[太田] ミトコンドリアは酸素をたくさん使ってエネルギーを作り出すから、持久力型の有酸素運動で増えやすいということです。馬などは長時間走ることができて、有酸素運動をたくさんやっているから肉の色が真っ赤です。赤身の肉はミトコンドリアが豊富な証拠ということですね。
エネルギーはミトコンドリアで作り、遺伝子は核で守る
[安保] 生命の歴史から見ると、解糖系というシステムは、まだ地球上に酸素がない原核生物(嫌気性細菌)の時代からあったわけでしょう。それが20億年ほど前に酸素が増え始めて、ミトコンドリアが酸素を処理してより多くのエネルギーを作れるようになった。酸素の発生というのは、生命科学にとって非常に大きな出来事ですよね。
[太田]今から約20億年前、藻類のクロロプラスト(葉緑体)によって地球に酸素が増え始めました。当時、酸素がある環境では生きていけない嫌気性細菌たちが、地球に増えた有害な酸素の難から逃れようとしました。それが細胞の中に効率的にエネルギーを作り出す機能を生み出したのです。
[安保] 酸素嫌いの解糖系細菌は、酸素好きなミトコンドリア系細胞と合体することで、有害な酸素から身を守ろうとしたのですね。
[太田] 2種類の細胞が合体したことは非常に大きな意味を持ちます。何が重要かと言えば、遺伝子の格納場所とエネルギーを作り出す場所を分離させたことです。細胞が核を持つようになって、その中で遺伝子を守ることができるようになったわけです。
バクテリアの場合は遺伝子と同じ場所でエネルギーを作るから、エネルギーを作るときに活性酸素がたくさんできてしまいます。活性酸素で遺伝子を壊しながらエネルギーを作っているわけだから、遺伝子を守って進化させることができず、単に生と死を繰り返すのみでした。2つが合体して真核生物になると、エネルギーはミトコンドリアで作り、遺伝子は核で守られるようになった。この条件が揃うことで、遺伝子はどんどん大きく複雑なものへと進化していくことができるようになりました。
連載vol.38
エネルギー医学の将来 〜点と点からの発展性
<小社編集部編>
謎解き(前号からのつづき)
神経やホルモンといった一般に知られている生化学的メカニズムのほかに、エネルギーや情報を処理・伝達するシステムが生体にあるということを、ぜひ知っていただきたい。このシステムを作り上げているのは、誰でも知っている生体の構成要素である。つまり結合組織や全身のあらゆる細胞に含まれる基質、遺伝子、原子、素粒子、そして現実には生体のかなりの部分を占める「空間」などだ。これらが作り出すマトリックスと密接に、かつ機能的に関わっているのが水である。
以上に挙げた要素の特性に私が注目するようになったのは、何人かの科学者との出会い、多数の研究論文、そして種々のセラピストやパフォーマーたちの経験が大きなきっかけである。
総合的連係
これまでの世界の科学全般の進み方は、生体をよりミクロなレベルへと細分化していく方向にあった。この手法はたしかに目覚ましい発展をもたらしたのだが、生命や健康というものの本質がどんどんないがしろにされてきたように思う。生命を成り立たせている唯一不可欠の要素、つまり「総合的連係」が見過ごされてきたのである。生命の全体像を解明するためには、この要素を再度見直し、現代科学の知識と突き合わせて検討していく必要がある。
生命とは、生体マトリックスとその中を伝わる情報およびエネルギーが紡ぎ出す「織物」のようなものらしい。このエネルギーと情報でできた織物には、肉体という現実的存在と、測定記録の可能な数々の特性がある。従来、神経系と循環系が生体の主たる情報伝達経路とみなされてきたが、そのために、ほかの経路の存在がほとんど無視されてきた。しかし今や、解剖学、組織学あるいは細胞生物学の分野で、生体内を縦横無尽に走る「回路」が注目され始めているのだ。
これまでの科学ではエネルギーと情報の化学的特性、すなわち分子間相互作用ばかり注目されていたが、それ以外にも多様な特性があることがわかってきている。
――分子は接触しなくても作用を及ぼしあうことが可能だ。エネルギーが(中略)電磁場を介して伝わるからである。(中略)水の周囲に生じる電磁場が、生命の基質を作り出しているのだ。(セント・ジョージ 1988)
私は何も、生化学やそれを応用した薬理学が間違いだと言っているのではない。分子の反応ばかりを重視してきたために、電子や電磁気などのエネルギー、あるいは量子レベルでの反応の役割、空間の特性、そして意識の存在といったものが忘れられていたのだ。それらを見直すことが私の目的なのである。(つづく)
(出典『エネルギー療法と潜在能力』(小社刊))
連載エッセイ ㊽☆
“こころ” と “からだ” …… 臨床にモノ思う。
・保井志之(ファミリーカイロプラクティック院長、DC)
マラソン選手のケア
先日、3〜4か月前より坐骨神経痛の症状があると訴えて来院した患者さん。左右の殿部や左のふくらはぎに痛みを感じるとのこと。国際マラソン大会にも参加するベテラン選手。特にジョギングの後にその症状を感じるという。毎日、5〜6キロは走っており、少し軽めに練習をした際には症状が軽減するらしい。鍼治療や整体など月に2〜3回は受けているとのこと。
初回の検査では左右の梨状筋と左腓腹筋周辺の誤作動反応が示された。2日目までは主にアクティベータ・メソッドとPCRTの頭蓋骨、ブレインマップでハード面の調整。3回目の来院時に、以前はスピードを上げると痛みが生じていたが、前よりも速いスピードで維持できるように改善したとの報告を受けた。それまで、スピードの変化に関して検査をしていなかったので、患者にスピードを上げているところを想像してもらってPRTの検査をしてみた。すると、誤作動反応が示された。
そこから、PCRTのソフト面の検査を行うと、速く走るイメージに加えて、タイムに関係する恐れの感情が絡んでいた。恐れの感情を想像してもらいながらブレインマップで誤作動反応を調整。その後、4回目の治療に来院されたときには、トラックのレースに参加し、調子が良くなっているとのこと。
これまでに7回ほど来院されているが、ご本人曰く、当初の症状はかなり改善しているとのこと。誤作動反応は少なくはなっているものの、走っているイメージをしてもらったままで症状が生じやすい部位に刺激を加えると誤作動反応が示される。長年の誤作動記憶が蓄積しているのかもしれない。脳に潜んでいる症状を引き起こす記憶をさらに書き換えることができれば、もっと改善するように思う。
マラソン選手に限らず身体のケアを大切にしている運動選手は、ご自身の身体の状態をよく知っている人が多い。誤作動反応を引き出す検査を行うと、選手が感じている異常部位と一致することがほとんどである。そこから一歩進んで、心と身体の関係性つながるメンタル面に絡んだ誤作動反応が分かるようになると、さらに故障も少なくなるだろう。
《連載62》
伝統医学をシルクロードに求めて
池上正治(作家・翻訳家)
早朝の公園は、日本と中国ではかなり様子が違う。まず第一の違いは、中国の公園の利用者の多いことである。それよりも驚きですらあることは、利用のしかたが多彩であること。ジョギングにゲートボールくらいの日本に較べれば、中国の公園はスポーツと健康法のオンパレードである。若者はジョギングやバドミントンなどに精を出し、中年や老人は太極拳、気功、ダンス、トランプ、胡弓やそれに合わせて京劇の一節をうなる人、最近流行の老人ディスコなど、数えきれないほどのレパートリーがある。
動よりも静の方法に注目したい。木立に向かって目を閉じ、立つ人、手をこすり合わせる人、眠ったようだが歯をカツカツと合わせる人……。
食品工業が発達し生活が便利になる。当然のことだが、便利でもあり、ありがたいことである。それに生活が忙しいということであれば、ついつい手軽な半製品やインスタント食品のお世話になるというものだ。問題はこの文化的な便利さの裏側である。
歯科医師の友人が言うことには、「近頃のガキの歯はなっていない」とか。食生活の中に甘いものが大量にあることよりも、ある程度の硬さを持った食品のないことが大問題であるという。やわらかいものばかり食べている歯には、スルメやニボシのような「健康食品」はお手上げだとか。それよりも何よりも、この友人が心配しているのは、歯による咀嚼は子どもの脳の発育を促す作用があることを、皆さん忘れていることなのだ。
5世紀、中国の南朝時代の医薬学者で、有名な道士でもあった陶弘景(タオ・ホンチン)は、「山中の宰相」と呼ばれた人である。梁の武帝をはじめ、陶の才能を評価する帝王たちは何度も出仕するよう勧めたが、彼は応じなかった。ただ朝廷から派遣されてきた使者には、丁重に対応し、聞かれるままに国家の大事についての見解を述べた。
医師としての陶弘景は、健康増進の方法として導引とともに「叩歯」を勧めている。早朝や就寝前に、上下の歯をカツカツと軽く噛み合わせるだけである。ただそれだけのことだ。それは導引や服気などと同様、「気を行かせ、百病を去る」効果があり、養生の一種であるという。陶弘景の医学や道教に関する44種とも言われた著作は、その後の治乱興亡の中ですべて失われてしまった。
だが、陶弘景の指摘した養生法は、21世紀の今日も中国の公園の片隅に脈々と生きており、人々の健康管理の一端を担っているのである。
根拠に基づく腰痛の原因と治療 – 腰痛治療の新常識(55)
長谷川淳史(TMSジャパン代表)
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腰痛に関する正確な情報には想像を絶するほどの治癒力があります。どうか情報の拡散にお力をお貸しください。
■アメリカ生産性報告データから労働者28,902名をランダム抽出して分析した結果、疼痛(頭痛・腰痛・関節炎・その他の疼痛)による生産性損失額は年間5.8兆円($612億)でそのうち77%がプレゼンティズム。http://goo.gl/VmFpLR
……複数の研究によって体調不良による生産性損失の2/3がプレゼンティズム(出勤していても心身の不調により頭や体が働かず生産性が低下)、1/3がアブセンティズム(心身の不調による欠勤)によるものだと指摘されています。この調査は疼痛だけに絞ったものですが、感染症・うつ病・消化器系疾患などを含めると毎年$1,800億の損失が生じているというデータや、疼痛疾患だけでも$800億以上、腰痛に起因する生産性損失額は$230億以上という報告もあります。企業はこの事実にまったく気づいていません。
■腰痛による活動障害に苦しむ患者の大部分は、臨床転帰を改善させる有効な診断と治療を受けていないという科学的根拠が増加中である。http://1.usa.gov/skKUsb http://1.usa.gov/ta2GAI http://1.usa.gov/sWhMm0
……腰椎手術の失敗に関する大量の医学文献があるにもかかわらず、外科手術を繰り返して腰痛が改善したという報告はほとんどなく、中には20回も手術を繰り返したという患者さんの記録さえあります。
■経皮的椎体形成術の治療成績に関するRCT(ランダム化比較試験)は存在しない。症例報告に頼ると安全性と有効性に対する誤った結論を導く恐れがある。RCTや大規模コホート研究が完了するまで有効性を主張すべきでない。http://goo.gl/tU2O9N
……FDA(アメリカ食品医薬品局)は、椎体形成術と亀背形成術によって軟部組織損傷・神経根性疼痛・骨セメント漏出・肺塞栓症・呼吸不全・心不全・死亡などの合併症が報告されていることから、こうした手術は安易に行なわないよう警告しています。
■1979年〜2000年の20年間に発表された腰椎および腰仙骨部の固定術に関する論文244件を調査した結果、固定術の技術が次々と開発されているにもかかわらず、椎間板疾患患者の治療成績は改善していないことが判明。http://goo.gl/KqN3dp
……脊椎固定術を受けた患者6,677名の治療成績を検討したこの研究によると、様々な形のインストルメントを使用した場合の癒合率は90%、自家骨移植片を使用した場合の癒合率は84%と、両者間にほとんど差はありませんでした。また、ぺディクルスクリューのインストルメンテーションや固定ケージのような新技術を用いたところで、患者の治療成績の改善は得られていません。
■最も有効な腰痛管理は、1)危険信号の検出、2)重篤な疾患ではないことの保証、3)有効なセルフケアの助言、4)可能な限り日常生活や仕事を継続、5)心理社会的因子の発見と対応、6)不必要な画像検査と医療化の回避。http://goo.gl/7dqYvG
……Cochrane Collaborationの総監修を務めるAlf Nachemson博士が「腰痛をどのように治療したらよいかは分かっているのです。一番難しいのはそれを実行することなのです」と述べているように、世界各国の腰痛診療ガイドラインは同じ内容を伝えているのです。しかしこの理想像を医学界に受け入れさせるには、苛立たしいほど時間がかかることも判明しています。
N E W S
2015年に平均寿命が最も高かった都道府県は、男性が滋賀の81.78歳で、女性は長野の87.67歳だったことが12月13日、厚生労働省の調査で分かった。
調査は地域差を分析するため1965年から5年ごとに実施され、滋賀は初の日本一。最下位は青森の男性78.67歳、女性85.93歳だが、トップとの差は共に過去最小の男性3.11歳、女性1.74歳に縮まった。
医療の進歩や健康志向を背景に、平均寿命は前回の10年調査から全ての都道府県で延びた。厚労省の担当者は「低い県でも対策を講じ、全体として底上げされている」とみている。
男性の平均寿命は、前回2位の滋賀が1.20歳延び、5回連続トップだった長野の81.75歳を上回った。3位以下は京都81.40歳、奈良81.36歳、神奈川81.32歳など。女性は長野が2回連続で1位、岡山は0.002歳差の2位で、島根87.64歳、滋賀87.57歳、福井87.54歳などが続く。最下位の青森は男性で9回連続、女性で4回連続だった。
寿命の延びは、長崎の男性1.50歳が最も高かった。1歳以上の延びで見ると、女性は鳥取の1.19歳に限られるが、男性では青森でも3番目に高い1.39歳の延びを示すなど37都道府県に上った。(12/13 時事通信)
年をとると夜明け前に目が覚め、十分に眠れなくなる人が多い。睡眠総合ケアクリニック代々木(東京)の井上雄一理事長によると、高齢者は睡眠が途切れ途切れになり、体内時計のリズムが前にずれて早寝早起きになりやすいという。
「生活習慣の影響が大きい」と井上さんは指摘する。若い時に比べて運動量が減り、日中の外出機会が少なくなる。屋外で日光を浴びる機会も減ることで助長されるという。
井上さんはメリハリの付いた生活が重要だとして、運動を習慣づけ、日中はなるべく外出することを挙げる。ただ早朝の散歩はかえって早く目覚めることになるので注意が必要だと進言する。(12/13 朝日新聞)
ヒートショックは暖かい部屋から、寒い浴室、脱衣室、トイレ、屋外などへ移動すると体が温度変化にさらされます。入浴中に起きた心肺停止状態の発生状況に関する全国調査(東京都健康長寿医療センター研究所)によると、2011年の月別発生件数は、最多の1月と最少の8月で約11倍もの差があり、冬季はヒートショックの危険性が高まることがわかります。同調査の推計値では、入浴中のヒートショック関連死は全国で約1万7千人(うち高齢者が約8割)。これは、同年の交通事故死亡者数(約4600人)の約4倍にもなります。
冬は寒い脱衣室で服を脱いで冷え切った浴室に入るため、血管が縮んで血圧が急激に上がります。湯船につかればさらに血圧が上昇します。しかし体が温まると血管が広がり、今度は血圧が下がります。このような血圧の乱高下が心臓に負担をかけるのです。
ヒートショックは体の生理機能が落ちてきた高齢者に多く見られます。若くても、糖尿病、高血圧、脂質異常症(高コレステロール血症)、肥満、不整脈、動脈硬化、このほか晩酌後に入浴する習慣のある方も注意が必要です。血圧の乱高下が一番の問題なので、血圧が高い場合や、降圧薬を飲んでからの入浴には注意することも大切です。(12/9 朝日新聞デジタル)
飴やチョコレート、お箸でつかみにくい食べ物が手元から滑り落ちて床などに転がったとき、3秒以内ならばい菌がつかないから食べられる、とかいう怪しいやつです。しかし、「どうしても食べたかった」「もったいない」など、落ちたものを口に入れたいという誘惑にかられる場面は少なくありません。こんな時、言い訳に使われるのが3秒ルールです。
日本人は清潔にこだわる国民ですし、こんな言い訳でもないと食べられないのかもしれないと思っていたのですが、外国でも似たようなルールがありました。日本より長い5秒ルールで、他にも10秒ルールなどいろいろあるらしいです。国は違っても、人は似たようなことを考えるものです。
さて、そこで、私たちが仕事で使用する英文医学文献検索サイトPubMedで、3秒ルール(three‐second rule)あるいは5秒ルール(five‐second rule)をキーワードに検索してみました。すると、まじめに検討した米国の論文(2016年発表)が見つかりました。バターを塗ったトースト、グミ、スイカなどをいろいろな住宅材(タイル、ステンレス、木材、カーペット)の上に落とし、1秒、5秒、30秒、5分でどれだけ細菌に汚染されたか実験したものです。バカバカしいとお思いかと思いますが、米国の微生物学会が出している、由緒正しい学術誌に掲載された真面目な論文です。
結果は皆さんの予想どおり、時間経過とともに細菌汚染の程度はひどくなるのですが、1秒でもやはり細菌汚染は避けられないのです。この論文以外にも検討したものがありましたが、やはり5秒ルールを正当化できる根拠は見当たりませんでした。
冬に流行するノロウイルスは感染力が強く、ごく少量のウイルスでも感染するとされています。もしお子さんが外から帰ってきて、手も洗わずにパンやお菓子を食べているなら、それは床に落ちたものを食べるのと五十歩百歩。子供のうちから手洗いの習慣づけをしたいものです。(12/12 朝日新聞デジタル)
日本人のがん罹患リスクは、男性で21年以上、女性で11年以上禁煙すれば、喫煙歴のない人と同レベルまで低下することが、東京大学の齋藤 英子氏らによる研究で明らかになった。男性では、20pack-year(※)以上のヘビースモーカーにおいても同様の結果であるという。早いうちに禁煙することが、がん予防への近道であると考えられる。Cancer epidemiology誌オンライン版11月2日号の報告。
東アジアは世界有数のタバコ普及地域であるが、喫煙や禁煙ががんに及ぼす影響についての前向き研究はほとんどない。そこで著者らは、日本における8つの前向きコホート研究(参加者32,000人以上)のデータを用いて、全がんおよび喫煙関連がん罹患リスクに対する禁煙の影響を評価した。主な結果は以下のとおり。
・潜在的な交絡因子の調整後、ベースライン以前に21年間以上禁煙していた男性の全がん罹患リスクは、喫煙歴のない人と同じレベルまで低下することが示された(ハザード比:1.01、95%CI:0.91〜1.11)。
・20 pack-year以上のヘビースモーカーであった男性でも、21年間以上禁煙した場合、全がん罹患リスクが低下することが示された(ハザード比:1.06、95%CI: 0.92〜1.23)。
・ベースライン以前に11年間以上禁煙していた女性の全がん罹患リスクは、喫煙歴のない人と変わらなかった(ハザード比:0.96、95%CI:0.74〜1.23)
※pack-year:生涯喫煙量の単位。1日に何箱のタバコを何年間吸い続けたかをかけ合わせて計算する。1 pack-yearは1日1箱を1年、または2箱を半年吸った量に相当。(11/22 ケアネット)
コーヒーの飲用は一般的な量であれば全般に安全で、1日3〜4杯の飲用でさまざまな健康転帰のリスクが大幅に低減され、有害性よりも利益が勝る可能性が高いことが、英国・サウサンプトン大学のRobin Poole氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌11月22日号に掲載された。
研究グループは医学データベースを用いて、成人におけるコーヒー飲用と健康転帰の関連を評価した観察研究および介入研究のメタ解析の論文を選出した。コーヒー代謝の遺伝学的多形性の研究は除外した。
67の健康転帰に関する観察研究のメタ解析201件、および9つの健康転帰に関する介入研究のメタ解析17件が同定された。コーヒーの飲用は、摂取量の多寡、飲用の有無、1日の飲用杯数の1杯の差などのすべてで、健康転帰に関して有害性よりも利益との関連を示すエビデンスが多かった。
コーヒーをまったく飲まない集団に比べ1日3〜4杯飲用する集団は、全死因死亡(相対リスク:0.83、95%信頼区間[CI]:0.83〜0.88)、心血管死(0.81、0.72〜0.90)、心血管疾患(0.85、0.80〜0.90)などの相対リスクが有意に低いことを示す要約推定値が得られ、飲用と健康転帰の間には非線形関係のエビデンスが認められた。
飲用量の多い集団は少ない集団に比べ、がんの発症リスクが18%低かった(相対リスク:0.82、95%CI:0.74〜0.89)。また、飲用はいくつかのがん種や神経疾患、代謝性疾患、肝疾患のリスク低下と関連した。
高飲用量の妊婦は、低飲用量または非飲用の妊婦に比べ低出生体重児(オッズ比[OR]:1.31、95%CI:1.03〜1.67)の頻度が高く、妊娠第1期の早産(1.22、1.00〜1.49)、第2期の早産(1.12、1.02〜1.22)、妊娠損失(1.46、1.06〜1.99)が多かったが、これらを除くと、喫煙で適切に補正することで、コーヒー飲用による有害な関連はほとんど消失した。また、女性ではコーヒー飲用と骨折リスクに関連がみられたが、男性には認めなかった。(TMS-net)
同居者がいるのに一人で食事する高齢男性は、家族らと一緒に食べる人に比べ死亡のリスクが1.5倍に高まるとする研究結果を、東京医科歯科大などのチームがまとめた。チームでは、家族関係のストレスの影響とみている。
調査は、全国24市町の65歳以上の男女7万1781人を対象に実施。2010年から約3年間追跡し、食事や世帯の状況と死亡の関連を調べた。このうち、同居者がいて家族らと食事する男性は2万9182人、同居者がいるのに一人で食べる男性は1645人いて、追跡期間中に死亡した人は、それぞれ1759人と156人。年齢や持病などの影響を差し引いたうえで死亡リスクを算出し、比較した。チームによると、妻に先立たれた男性は家族内で孤立し、栄養や精神状態が悪化しがちなことも影響している可能性があるという。(11/20 読売新聞)
名古屋市立大学大学院医学研究科の道川誠教授らは、歯周病によってアルツハイマー病や認知機能障害が悪化することを突き止めた。歯周病による慢性炎症が脳内に及び、アルツハイマー病原因分子のレベルが上昇。記憶学習能力が低下したとみられる。歯周病の治療や口腔のケアがアルツハイマー病の予防や進行抑止につながる可能性がある。
研究グループは、アルツハイマー病のマウスに歯周病菌を感染させて経過を見た。その結果、アルツハイマー病原因分子であるたんぱく質「アミロイドβ」の脳内レベルと脳内炎症分子が高まり、認知症が悪化したという。現在、歯周病治療や口腔ケアによる認知症患者への臨床介入試験で人間への効果を検証している。(11/19 ニュースイッチ)
持久性トレーニングは筋の炎症を治療する際にも実際に有益性が期待できるようだ、というビンガムトン大学、ニューヨーク州立大学、カロリンスカ研究所などの研究者らによる報告。
筋の炎症は、感染症やケガ、慢性疾患などによって引き起こされるが、皮膚筋炎や多発性筋炎が自己免疫性反応によって起こることもあり、これによって筋の組織が損傷を受けることもある。筋炎をはじめ筋疾患に対しては多くの薬が処方されうるが、実際に処方された薬を使用しても、半数には効果がないと研究者は言う。免疫性筋炎の全ての薬は単独の種類の免疫細胞や細胞群をターゲットとしており、限界があるためだ。これに対して、運動を行う事で筋の自己損傷を引きおこしている筋細胞自体を標的化し、破壊された筋細胞の回復を図るというのが本研究の目的である。
筋破壊に対するより良い治療法を検討するため、研究者らは持久性トレーニングがどのように骨格筋のマイクロRNAを変更するのかについて、また同定されているマイクロRNAとmRNAたんぱくの発現の関連性を解明しようと試みた。実験では2群に分かれた対象者が12週間にわたって持久性運動群とコントロール群で比較した。如何に運動が対象者の身体機能に影響を与えうるのかを調査するために、対象者にはバイオプシーを行って検査実施前と後で比較をした。
結果、持久性運動によって、たんぱくレベルで免疫機能を下降調整し、ミトコンドリアを上方調整する機能を持ったmRNAが変化した。これはつまり、運動によってmRNAが生成されたことを意味するものだ。このmRNAは自己免疫性反応によって減少したものであり、有酸素性代謝がミトコンドリアの再生を通じて活性化されることによって筋の回復が促進されたことを示唆するものであるのだ。
これまで、運動によってこの様な結果が得られると期待されてこなかった理由は、すでに炎症を受けている筋群が運動によってさらに炎症性を増加させてしまうに違いないという思い込みがあったためであるというのだ。しかしながら、なぜ運動がこんなにも効果的であるのかについての疑問は、驚くべき結果を含んでいる。つまり、運動が筋を損傷させている免疫細胞をうまく扱うように機能し、また同時に細胞死が見られるような、影響を受けている特定の筋細胞の再生を促しているという状態が起こっている事が興味深いことなのである。
現在のところ、筋炎症にまつわる全ての事象をターゲットにした薬品は存在していないが、持久性運動を行う事によって、これらの効果が期待でき、慢性筋炎患者のよりよいQOLにつなげることが期待できるかもしれない。(TMS-net)
■次号のメールマガジンは2018年1月10日ごろの発行です。
■年の瀬にあたり、本年1年間のご講読に感謝いたします。迎える新年が皆様にとりまして慶賀となりますことを心より祈念しています。(編集人:北島憲二)
[発行]産学社エンタプライズ