エンタプライズ発信〜メールマガジン【№49】2015. 5

関東で著名な観光・行楽地である箱根の大涌谷が不穏な火山活動を始めています。箱根・大涌谷周辺は伊豆半島の入り口であり、正月の風物詩、箱根駅伝のコースも南西数キロに位置します。編集子も温泉を中心に何度も日帰り・宿泊旅行に出かけています。3.11後のFUKUSHIMAが風評被害で食産業や観光業が停滞し泊地としても忌避されるなど安全宣言無視の痛手をいまだ蒙っていますが、箱根が一部ネット情報などですでに“危険視”の風評に晒されています。国や行政、観光業界がその打消しに奔走していますが、昨年の御嶽山の悲劇が沸々と甦るのもまた事実です。大涌谷近傍はしばらく予断の許せない活動性が続くと思われますが、箱根は江戸時代から箱根七湯と呼ばれ今でも温泉療法を実施している湯治宿もあることから、早期の沈静化とそれに伴う人心の安全意識を早晩取り戻せるよう願うばかりです。

★☆★━━━━━━━■ CONTENTS ■━━━━━━━━━━━★☆★

【1】エネルギー医学の将来〜期待される今後の研究
【2】“こころ” と “からだ”……臨床にモノ思う。
【3】伝統医学をシルクロードに求めて
【4】根拠に基づく腰痛の原因と治療 《腰痛治療の新常識》
【5】“連動操体法”について、ちょっとばかり…
【6】N・E・W・S
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Information

「日本ホメオパシー医学会 一般向けセミナー」(再報)


日本ではあまり知られていないホメオパシーですが、200年以上続いている相補・代替・伝統医療のひとつです。ヨーロッパの多くの国々で医療として普及し、健康保険制度に取り入れられている国もあります。日本ではホメオパシーは始まったばかりです。ホメオパシーとは一体どのような治療なのか、本当にホメオパシーは効くのか、安全な治療なのか…。日本ホメオパシー医学会では、一人でも多くの方にホメオパシーについて知っていただくために、一般向けのセミナーを企画しました。

  • 講義内容 ホメオパシーとは/ホメオパシーの薬とは/ホメオパシーの診察とは/ホメオパシーの適応は/ホメオパシーは安全か
  • 開催日 5月23日(土)14:00〜15:30(受付13:30より)
  • 講 師 板村論子(MD., Ph.D., MFHom)
  • 会 場 東京・飯田橋レインボービル <参加無料>
  • 参加ご希望の方は日本ホメオパシー医学会事務局宛E-mailで「参加希望」とお送り下さい。URL:http://www.jpsh.jp

【Book review】

『硬い体が驚くほどやわらかくなるストレッチ』

・原 幸夫(いいだ整骨院・鍼灸院院長)監修
筋や関節の硬さは、腰痛、肩こり、膝の痛みなどを引き起こす重要な原因のひとつ。体の硬い部分がほぐれるストレッチを、豊富な写真でわかりやすく説明がなされている。自分の体のどこが硬くなっているか、またやわらかくするにはどうすればいいのかを探っていくエクササイズ満載の1冊(第8刷)。
A4変型・160頁・全4色・定価1,200円+税。日東書院刊


◎連載vol.7

エネルギー医学の将来 〜期待される今後の研究

<小社編集部編>


《 直流コントロール・システム 》

一方、神経周囲の結合組織では、神経系と対照的に伝達速度の遅い直流電流が発生し全身のあらゆる部位へ流れていく。この電流の主たるペースメーカーは脳波で、まず脳全体に伝わったあと、神経周囲組織を通じて、神経支配を受けている体内の各部位へと伝えられる。また、脳には血管が豊富に存在するので、優れた伝導体である血管によって脳波が全身の循環系へと伝えられる。このようにして脳波は、循環系の中で、心臓などの筋から生じる電気やほかの臓器・器官から発生するシグナルと混じりあってしまうのである。
脳波は、感情、感動および思考といった特定の神経活動によって生じるわずかなエネルギーにも影響される。脳の電気的活動や磁気的活動、あるいはシグナルの乱れは、どんなに小さいものであっても、小石を池に投げたときの波紋のように周囲の組織へと伝わり、外側へ行くほど大きな波となるのである。

人体のように複雑なシステムをサイバー・ネットワークによってコントロールする場合、デュアル神経系のような2種類の情報伝達回路を組み込むことは、理にかなっている。点と点をつなぐ伝達系は、特定の活動をきわめて的確にコントロールしたり、感覚を正確に伝えたりするのに適している。他方、神経周囲系には特定の標的というものはないが、あらゆる部位にメッセージを伝えることによって機能をコントロールすることができる。これは全身の各所で起きる活動を統合し、制御するグローバルなネットワークといえるだろう。

しかしほとんどの生理学者が研究しているのは、神経系やホルモンとレセプターの相互作用といった、点と点を結ぶコントロール・システムである。全身の機能を統括するグローバルなシステムは、それは重要であると認識されていてもほとんど注目されていない。その一つの理由は、グローバル・システムのしくみを説明する理論がないからだろう。生体内で伝達されるすべてのメッセージは、結局のところエネルギー現象で説明されるのだから、生体エネルギー研究に対する昔からの抵抗感が、コントロール・システムに関する研究を大幅に遅らせてしまったということだろう(この件に関しては1996年のフェインマンの論文に詳しい解説がある)。(つづく)

(出典:『エネルギー医学の原理』小社刊2004)


★連載エッセイ ⑰☆

“こころ” と “からだ” …… 臨床にモノ思う。

・保井志之(ファミリーカイロプラクティック院長、DC)


症状のぶり返しには原因がある

腰痛やアレルギー症状などで、いったん改善したのにぶり返すことがある。慢性腰痛や肩こりなどの筋骨格系の症状などは、特に治療直後に改善することが多い一方で、次の来院日に症状がぶり返したという患者さんも少なくはない。治療直後に症状が改善されて、症状をぶり返す人と、ぶり返さない人との違いは何だろうか?

治療直後には改善していたにもかかわらず、治療が足りなかった、治療に何かが欠けていたと考える患者さんもいるかもしれない。あるいは、元に戻ったのだから単純に治療効果がなかったと考える患者さんもいるだろう。治療回数を重ねるごとに段々と改善していたのに、ある時、元のような症状がぶり返したときに、悪化したと感じる患者さんもいるかもしれない。
治療直後に痛みの軽減、消失、筋緊張の緩和、バランス異常が改善するということは、施術によって自然治癒力が正常に働くようになったということである。それが元の状態にぶり返すということは、自然治癒力をブロックさせるパターンの学習記憶状態に戻ったということでもある。心身条件反射療法(ニューロパターンセラピー)ではそのように考えて、そのパターンを追跡して本質的な症状の改善を目指す。

ではどのようにそのぶり返しのパターンを追跡すればよいだろうか? まずは、患者さんの治療後の経過を詳しく問診する。症状をぶり返す期間のパターンも様々で、治療院を出てからすぐにぶり返す人もいれば、数か月から数年でぶり返す人もいるだろう。もしも、24時間以内にぶり返したら、基本的な生活のパターンに分けて、そのパターンをイメージしてもらいどのパターンで「緊張パターン」が生じているかを検査する。
例えば、自宅に居る時のイメージで「緊張パターン」を示す場合、職場にいる時のイメージで「緊張パターン」を示す場合など、特定の場面で「緊張パターン」がぶり返されることが多い。場面のイメージで身体が「緊張パターン」を示すということは、脳が誤作動を学習記憶しているということでもあるので、その誤作動が生じないようにそのパターンのイメージで施術を行う。そうすると、その場面で症状がぶり返さないようになる。

このように症状をぶり返したパターンが分かることで、本質的な症状改善の治療ができ、その治療によって、身体がその環境に適応できる体質へと変化して、適応力が高まり、ぶり返しにくくなるといえる。しかしながら、人間は常に環境の変化にさらされており、その変化に伴って、メンタル面も常に変化している。別の原因パターンで同じ症状を繰り返す場合もあるだろうし、もしかすると、それ以来その症状に悩むことはなくなるかもしれない。


《連載31》

伝統医学をシルクロードに求めて

池上正治(作家・翻訳家)


5. インド編 〜古代医学の最高峰〜

鉄槽の水のなかでの麻酔術

住みなれたタキシラ国を後に、ジーヴァカは故郷の王舎城へと向かった。さすがに当時の国際的な大学都市で第一の名医と言われたヒンカラが親しく教えた医術には目を見張るものがあった。帰途、ある長者の夫人の頭痛を治したということで、彼はすっかりと自信をつけた。この夫人は12年間にわたって頭痛に悩まされ、老練な医者たちでさえサジを投げていた。その難病が、若いジーヴァカの調合した水薬を、鼻から注いで口から出しているうちにきれいに全快してしまったのである。

王舎城に帰ったジーヴァカは、まず父のムイ王子に面会し、医術の修行を終えたこと、ある長者夫人の難病を治したことなどを報告した。満足そうに報告を聞いていた王子は、
「お前は王の病気を治すことができるだろうか」
と尋ねた。ジーヴァカは即座に答えた。
「できますとも」
王舎城の王・頻婆沙羅(ビンバサーラ)は出血のひどい痔を患っていた。王の前に進み出たジーヴァカは挨拶をした後、病状について尋ねた。彼は、王から病気の場所、そのいきさつを詳細に聞いた後、
「王の病気は治ります」と、きっぱり言うと、鉄槽にぬるい湯を満たし、
「王よ、このなかにお入りください」
と言い、王を水中に座らせ、次いで水中に伏せさせた後、呪文を唱えながら、王の背中に湯をかけつづけた。まもなく王は意識を失ってしまった。それを見届けたジーヴァカは、ただちに鉄槽のなかの湯を汲み出し、利刀を取り出して王の肛門の患部を切り取ってしまった。傷口をきれいに洗って、薬を塗ると、再び鉄槽をぬるい湯で満たした。
やがて意識を回復した王が言った。「早く治療をしてくれ」
「治療は終わりました」とジーヴァカ。
驚いた王は、そっと手を後ろにまわしてみると、何の傷跡もないばかりか、年来の痛みが消えていた。喜び、かつ不思議がる王にジーヴァカは言った。
「私が治療するのに、どうして傷跡の残るはずがありましょうか」

ジーヴァカが麻酔剤に使ったものはインド大麻であろう。ジーヴァカはこれ以外にも開腹、開胸、開頭などの大きな外科手術を行なったと伝えられている。事実、古代ユーラシア大陸のなかで果敢に外科手術を実施し、膨大な手術器具を持っていたのは、インドのアーユルヴェーダが筆頭である。その強い影響はチベットまでに及んでいる。またジーヴァカが釈迦の悪性下痢を治したこと、子供の腸捻転手術をしたこと、人形を使った心理療法も行なったことなどが、仏教経典から知ることができる。(つづく)


根拠に基づく腰痛の原因と治療 – 腰痛治療の新常識(24))

長谷川淳史(TMSジャパン代表)
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■25〜74歳の一般住民1,609名を最長14年間追跡調査した結果、広範囲にわたる慢性疼痛を持つ被験者は、疼痛のない被験者より死亡率が高いことが確認された。その死亡率上昇は、喫煙、睡眠障害、身体活動低下と関連していた。http://1.usa.gov/k8QzfA
……慢性疼痛は寿命を縮めてしまいますから、何が何でも急性期のうちに治してしまいたいものです。そのためには、迷信や神話ではない正確な情報と、根拠に基づく医療によるオーダーメイド・メディスンが重要になります。

■腰痛患者100名と健常者100名を対象に腰部X線写真を比較した研究では、両群間の腰仙移行椎、脊椎すべり症、潜在性二分脊椎、変形性脊椎症の検出率に差は認められなかった。画像検査による脊椎の異常所見は本当に腰痛の原因か?

http://1.usa.gov/lCMbXb

……レントゲン写真で認められる異常は、シミやシワ、あるいはホクロや白髪と同じですから心配する必要はありません。

■発症後1年以内の腰痛患者144名と健常者138名を対象に、骨盤の歪みを厳密に測定して腰痛との関連を調べた研究により、どのような臨床的意義においても、骨盤の非対称性(歪み)と腰痛とは関連していないことが証明されている。http://1.usa.gov/kIBHZm
……代替医療にとってはもっとも受け入れ難い事実。肝臓は右、心臓は左、右肺は3つ、左肺は2つ。人間の身体は左右対称ではないことを解剖学で習ったはず。それを思い出していただきたい。

■港湾労働希望者208名、急性腰痛の港湾労働者207名、慢性腰痛患者200名のX線写真を比較した結果、両群間の異常検出率に差がなかったことから、将来の腰痛発症を予測できず、放射線被曝するX線撮影は雇用者の選別には不適切。http://1.usa.gov/kNXTVG
……レントゲン写真で検出される異常は腰痛と無関係なので当然の結果です。レッドフラック(危険信号)がない限り、腰痛疾患に対してルーチンな画像検査は行うべきではありません。

■明らかに効果がないか、僅かなエビデンスしかない治療法を奨励してはならない。患者や社会の利益を考慮すれば強力なエビデンスのある治療法だけを普及させるべきで、ある方法が他の方法より優れていることを明らかにする研究が必要。http://1.usa.gov/kKuYzg
……改めて説明するまでもなく、これはEBM(根拠に基づく医療)の基本です。

■椎間板造影は全米で年間20万回以上行なわれている侵襲的検査法だが、10年間にわたる前向きコホート研究によって、椎間板造影は椎間板の変性を加速させていることが判明。最新の技術を用いても椎間板穿刺は椎間板構造を変化させる。http://1.usa.gov/jQIEab
……椎間板造影や脊髄造影はリスク(害)がベネフィット(利益)を上回るので世界的に行なわれなくなっています。それは日本でも同じだと信じています。


【連載コラム】

“連動操体法”について、ちょっとばかり… (49)

根本 良一(療動研究所主宰)


【 連動操体法の応用編 】

2. 腰に関わる障害

同じ姿勢でいると痛い、つらい

同じ姿勢とはどんな姿勢か。立つ姿勢、座る姿勢、さらに寝る姿勢。いずれも同じ姿勢を継続することは、特に同じ継続した負荷をかけるのでやめてほしい。
1)同じ姿勢は原則として避けること。
2)フィンガースケール(連載46参照)で見て、良い姿勢を選ぶこと。
3)どんなつらさか、それはどの辺りに現れるのか、どこから連動しての影響なのか。以上のことに注意して、うまくいかず変化がないときには内科関連の障害がないか受診することも要諦である。

寝ていると起き上がれなくなる

寝ることほどラクはなかりけり、と言われるが、本当に寝ることはラクなのだろうか?
普通はまず仰向けに寝る。そしてその姿勢に疲れを感じると横向きになる。これらはどちらもラクではない姿勢である。
<寝る姿勢の留意点>
・寝たときにフィンガースケールで見て、いまの寝方に注意してみる。
・寝方が悪いと、夜中に足が攣(つ)れるとか、朝には肩がこっているサインが出る。
・腰が重いという段階、このころには腰(大腰筋ほか)の緊張が起こる。また腹筋(外腹斜筋、内腹斜筋、腹直筋など)の緊張が起き寝苦しさを感じると無意識に寝返りを打つようになる。
・そのほかあまり動かないために、血液、リンパ液の流れが悪くなり、エコノミー症候群を生ずることがある。

【75歳、女性の例】
腰が痛いという。遠くから歩いてきたので一休みということで寝てもらった。枕をして、膝下へ6/4に折った座布団を挿入しようとしたら「疲れたのでこのままでよい」というので寝たままで状況を尋ねた。「では始めましょう。起きてここに腰掛けてください」というと、起き上がることができない。痛くて動けなくなった。しまった! 腰が痛い+歩いてきた+仰向けに寝た=最悪、となってしまったのだ。そこで、①足まわりを整備して、足指まわしから始めた。②仰臥位で膝を立て、大腰筋の連動操体法を行なう。③同じ姿位で外腹斜筋の連動操体法を最微弱で行なう。3日おいて、4回ほどこれを続けたら買い物へ行けるほど元気になった。


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NEWS ■残った歯が多い人ほど寿命が長く…歯科医師会


歯や口をきれいに保つことは全身の健康につながることを知ってもらおうと、日本歯科医師会は歯科医療と健康の関連を示す研究成果を集めた冊子を作り、同会のホームページに公開した。この冊子は「健康長寿社会に寄与する歯科医療・口腔保健のエビデンス」。
医学研究で世界最大の米国のデータベースを活用し、歯科医療や口腔保健が生活習慣病の改善などに効果があるか検証した1000以上の質の高い研究論文を選んで分析した。その結果、残った歯の数が多い人ほど寿命が長くなることや、歯周病の治療によって糖尿病患者の血糖コントロールに効果がみられることが確認できた。また、歯周病になると、心筋梗塞などを誘発する冠動脈疾患のリスクを高めることなども分かった。(読売新聞 5/13)


NEWS ■海外旅行帰りが危ない! デング熱だけじゃない感染症


もうすぐ蚊の季節。昨年、蚊が媒介して広がるデング熱の国内感染が69年ぶりに確認され、大騒ぎになったのは記憶に新しい。ただし、海外から持ち込まれたウイルスによる感染症はほかにもある。ゴールデンウィークに外国を訪ねていたら要注意。今、専門家が警戒を強めているのが「チクングニア熱」だ。これまでに国内感染は確認されたことはなく、デング熱と同様、蚊を介して感染し、発熱や体の痛みがある。過去数年、海外で感染して帰国する患者は年間十数人いる。「中南米では一昨年末に流行が始まってから130万人以上患者が出ています。症状は発熱や体の痛みのほか、関節が腫れるほどの関節炎が起き、数カ月から数年間激しい痛みが続くこともあります」(国立国際医療研究センターの忽那賢志医師)。海外で感染して帰国した患者は今年に入って3人と少ないが、カリブ海諸国など中南米に旅行するときには注意が必要だ。
昨年のデング熱の流行は、衛生環境が良くなり、感染症への注意をおろそかにしがちな現代への“警鐘”だったのかもしれない。たかが蚊、されど蚊。自分自身と周囲の人の健康を保つために、日頃から気を配ってみてほしい。(週刊朝日 5月22日号)


NEWS ■暖かくなると増えるカビ、感染症やアレルギーの原因に


気温の上昇とともに気になるのが浴室やキッチンなど水回りの汚れ。気を抜くとカビが生えていることもある。カビは肺炎など健康被害を引き起こすことがある。特に免疫力が低い高齢者は重症化の恐れもあるので注意が必要だ。これからの季節に注意したいのは、カビの生えた食品による健康被害。衛生微生物研究センターの李憲俊所長によると「食品の表面に付いているカビを削り取っても、内部のカビ毒はなくならない。このためカビが生えたものは食べてはいけない」と指摘する。
室内に発生するカビはアレルギーや感染症の原因となる。5月から10月に多く見られる夏型過敏性肺炎は、夏季に高温多湿となる日本特有の病気だ。原因は、湿気の多い家屋や管理の悪い水回りなど室内に発生するカビ。吸い込むことで肺の奥でアレルギー性の肺炎を起こす。せきや微熱から始まり、血痰や吐血などの症状が出る「慢性肺アスペルギルス症」もカビが原因で発症する病気だ。ぜんそくやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、糖尿病などの患者、結核になったことがある人、喫煙者、免疫力が落ちている高齢者などは特にかかりやすいので注意が必要。
李所長によると、カビの増殖を防ぐには室内の換気や寝具の手入れなどが欠かせない。カビは空気が動かない所に生えやすいため、ときどき窓や扉を開けて風を通す。湿度が上がる季節には、寝具にもカビが生えやすい。布団は干すなど小まめに手入れを。カビの栄養源となる人間の皮脂やアカが付着しやすい浴室は使用後、換気するだけでなく拭き取りも併せて行い、乾燥に努めよう。また、カビは低温でも増えるので、食品の保管では、冷蔵庫を過信しないことも大切だ。(産経新聞 5/12=一部)


NEWS ■1時間に2分歩くと座りっぱなしの悪影響が帳消しに


1時間ごとに2分、立ちあがって歩くことで、座りっぱなしでいることによる健康への悪影響を打ち消せることが研究結果から示された。毎日長時間座り続けていると心疾患や糖尿病、若年死亡などの多くの健康リスクが高まることは、過去の複数の研究で示されている。現在の運動に関する推奨では、成人は週に少なくとも2.5時間の中等度の運動をするようにとなっているが、米国人の80%はこの推奨を達成できていない。
米ユタ大学医学部のTom Greene氏らによる今回の研究では、全米健康栄養調査(NHANES)に参加した3,200人超のデータを活用。運動強度を計測する機器を装着してもらったデータを収集し、歩行などの軽い運動と、立っているなどの低強度の運動のいずれかをより長く行った場合の便益を比較した。3年間の追跡期間中に137人の死亡が確認された。分析の結果、ただ立っているだけの運動では、長時間座り過ぎていることで生じる健康リスクを打ち消すことはできなかったが、歩行や掃除、ガーデニングなどの軽い運動を短時間行うと、1日の半分以上を座って過ごしている人の寿命が延長されることが分かった。1時間あたり2分間、座っている時間を軽い運動に置き換えると、若年死亡リスクが33%低下したという。
筆頭執筆者で同大医学部のSrinivasan Beddhu氏は「歩行による便益は日数の経過とともに積み増しになり、1週間に推奨される運動量に近づく。週2.5時間の運動といった通常の身体活動に加えて、1時間あたり2分間の歩行を行うことが勧められる」と同氏。(Clinical Journal of the AmericanSociety of Nephrology」オンライン版 5/1)


NEWS ■緑茶で死亡リスクが減る疾患〜日本での大規模コホート研究


日本における大規模集団コホート研究において、緑茶の摂取が全死因および3つの主な死因の死亡リスクを減らす可能性が示唆された。わが国のJPHC Studyにおいて、緑茶の摂取量と原因別死亡率(全死因、がん、心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患、外傷、その他)との関連を調査した結果が、Annals of epidemiology誌オンライン版に掲載された。JPHC Studyは「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」(主任研究者:国立がん研究センター津金 昌一郎氏)において、全国11保健所と国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などとの共同研究として行われている。
本研究で、1990〜1994年に40〜69歳だった日本人男女9万914人をフォローアップしたところ、18.7年の追跡期間中に1万2,874人が死亡した。緑茶摂取量と全死因および主な死因による死亡リスクとの関連について、潜在的交絡因子の調整後、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて評価した。主な結果は以下のとおり。
・男性における全死因死亡のハザード比は緑茶を1日1杯未満しか飲まない人と比較して、1〜2杯飲む人では0.96(0.89〜1.03)、3〜4杯飲む人では0.88(0.82〜0.95)、5杯以上飲む人では0.87(0.81〜0.94)であった(傾向のp<0.001)。また女性におけるハザード比は、順に0.90(0.81〜1.00)、0.87(0.79〜0.96)、0.83(0.75〜0.91)であった(傾向のp<0.001)。
・緑茶摂取は、男女両方における心疾患による死亡率、男性における脳血管疾患および呼吸器疾患による死亡率と逆相関していた。(ケアネット 4/30)


NEWS ■悪夢の危険因子―抑うつ、不眠、疲労


抑うつ、不眠、極度の疲労が、頻繁な悪夢の主要な危険因子かもしれないという。フィンランド、トゥルク大学認知神経科学センターのNils Sandman氏らの研究で示唆され、研究論文が「Sleep」4月号に掲載された。ただし、この研究は、抑うつ、不眠、疲労が悪夢を引き起こすことを証明したものではない。
今回の研究の対象者は、2007年と2012年に調査したフィンランドの25〜74歳の成人1万4,000人弱で、53%は女性だった。対象者のうち、約45%は過去30日間に時々悪夢をみたと述べ、50%強は悪夢をみていないと述べた。女性の5%弱と男性の約3%を含む4%弱が、過去30日間に頻繁に悪夢をみていた。頻繁に悪夢をみると報告した人は、重度の抑うつ患者の約28%、頻繁な不眠がみられる人の約17%にのぼった。さらに分析した結果、不眠、極度の疲労、「自己に対する否定的態度」という抑うつ症状が、悪夢の独立した最も強力な危険因子であると同氏らは結論づけた。Sandman氏は、「今回の研究では悪夢と抑うつの関連性が最も強くみられた。また、生活満足度や健康度に関する質問と悪夢についても、多くの分析から明らかとなった。悪夢は抑うつ発症の早期指標として機能する可能性があり、これまで利用されていなかった診断価値がある可能性がある」と述べている。(HealthDayNews 4/29)


NEWS■炭酸飲料を1日1杯控えるだけで糖尿病リスクが低下


砂糖入りの炭酸飲料や甘い乳飲料が好きな人は体重にかかわらず2型糖尿病発症リスクが高いが、これらの飲料を1日1杯、水や無糖コーヒー、無糖紅茶に置き換えると同リスクが最大25%減ることが分かった。英ケンブリッジ大学Nita Forouhi氏らによる研究結果。検討では、中年以上の英国成人2万5,000人の詳細な食事記録を分析した。登録時に糖尿病を発症していた人はおらず、その後10年間で847人が糖尿病と診断されていた。分析の結果、加糖炭酸飲料や加糖乳飲料の摂取量が全体として多いほど、糖尿病発症リスクが高まることが明らかになった。1日1杯の摂取量増加は糖尿病リスクを22%押し上げていた。
検討ではまた、この問題へのシンプルな解決法も示された。加糖飲料を1日1杯、水や無糖コーヒー、無糖紅茶に置き換えたとして推計すると、糖尿病発症リスクが14%から25%も減ったのだ。 Forouhi 氏らは、加糖飲料を水や無糖コーヒー、無糖紅茶に替えることが食生活から砂糖を減らす簡単な手段だと指摘。水が味気無さすぎると感じるならレモンかライム、オレンジを一切れ入れる、紅茶であればシナモンスティックを沸騰したお湯に入れてから煎れると砂糖なしでも甘味が出る、と助言している。(Diabetologiaオンライン版 4/30)


NEWS ■「たばこは痩せる」論が女性の禁煙を阻む


喫煙により体重を制御できると考えている米国の女性は、たばこの値上げや禁煙の呼びかけに反応して喫煙を止めようとする確率が低いことが、新たな研究で明らかにされた。研究の筆頭著者であるイリノイ大学シカゴ校のCe Shang氏は、「体重に関する懸念が禁煙を阻む大きな壁となっていることがわかった」と述べている。今回の研究では、2002〜2007年に実施された調査に参加した米国、カナダ、オーストラリア、英国の喫煙者約1万人のデータを分析。
米国の女性のうち、喫煙が体重コントロールに有効だとする考えをもたない人の場合、たばこの価格が10%上がると禁煙を試みる比率が6%増加したが、喫煙で体重を抑えられると信じている人では、有意な増加が認められないことがわかった。また、たばこで体重を制御できると考えていない米国女性では、禁煙を呼びかけるメッセージに触れる機会が10%増加すると、禁煙を試みる比率が12%増加したが、たばこで体重を制御できると考えている女性には禁煙の増加はみられなかった。英国の喫煙者にも同様のパターンが認められたが、オーストラリア、カナダでは男女いずれにもそのようなパターンはみられなかったと、英医学誌「Tobacco Control」オンライン版に掲載された今回の研究では報告されている。Shang氏は、「禁煙を促進する既存の政策の有効性を高めるには、体重に関する懸念も考慮に入れる必要がある」と述べるとともに、ヘビースモーカーは喫煙量の少ない人よりも過体重になる確率が高いと指摘し、「喫煙が体重コントロールに有用という考えは、実際、事実無根である」と付け加えている。(HealthDay News 4/29)


NEWS ■ストレスと腰痛……痛み和らげるドーパミンが出ない


ストレスと腰痛。何の関係もなさそうに見えるが、整形外科医の間では「当たり前」の間柄なのだ。とはいえ「心の悩み」が、なぜ「腰痛」という実態を伴う症状となるのか。からだの仕組みは、どこまでも複雑なのだ。出版デザイナーのCさん(45)は10年来の腰痛持ち。1日中パソコンに向かっているうえに、自他ともに認める「悪姿勢」。イスに浅く座るか、反対に猫背になるかの両極端。次第に腰の痛みは激化し、日によっては歩くのもつらいほどの激痛に襲われることもある。腰の痛みで車を運転できず、しかたなくバスと電車を乗り継いで出勤することもある。電車では、席が空いても座れない。1度座ってしまうと、立ち上がるのに大変な労力を要するからだ。
なのに職場の仲間は、「健康的でいいじゃない!」と笑うだけ。腰痛に対する深刻さの度合いに、当人と周囲の間に大きな温度差があるのだ。Cさんが「死ぬほど痛い」と訴えても、周囲は「腰痛で死なないから大丈夫」と取り合わない。彼のストレスは無限大だ。「そのストレスが腰痛を悪化させている可能性がある」と語るのは、帝京大学溝口病院整形外科教授の出沢明医師。その仕組みをこう解説する。「何らかの要因で腰痛が起きると、脳の側坐核が反応して報酬・快楽物質であるドーパミンという物質を出します。ところが精神的ストレスが多いと側坐核が正常に働かなくなり、痛みのコントロールができなくなるのです。腰痛に対する周囲の無理解などは、まさにその典型的な例です」
出沢医師によると、ストレスが原因で痛みが増強している人の場合、いわゆる痛み止めの薬ではなく、抗鬱剤などの精神症状に対して使われる薬を服用することで、症状を緩和させられることも多いという。心の悩みと腰の痛みが「深い仲」だということは、やはり本当だったのだ。(産経新聞 4/25)


■次号のメールマガジンは6月10日ごろの発行です。お楽しみに。(編集人:北島憲二)


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