エンタプライズ発信〜メールマガジン【№105】 2020. 1

正月に行われた箱根駅伝では青山学院大学が大会記録を7分近くも短縮して5回目の総合優勝を果たしました。今年は全10区間のうち7区間で新記録が生まれ、その陰には多くの選手がナイキ社の厚底シューズを履いていたことが注目を集めました。着用率は出場選手の約85%で、青学の選手は10人全員が着用し、また9区間の区間トップの選手が同シューズを使用していました。この厚底シューズ、これまでとどう違うのか。運動力学・人間工学的に設計がなされており、走るうえでもっとも適正な対地反発力(ランニング効率)を旧来より4%高めることで、勾配が1〜1.5%の下り坂を走るのに相当するということです。事実、選手らは「まるでゆるい下り坂を走っているみたいだ」と異口同音に表現しています。そのほか、着地の感触は柔らかいのに反発力があるため脚が勝手に前に出る感覚だと例える選手も。安全面ではどうなのか。ソフトな弾力感があり、3層構造のアッパーが程良い締めつけ感を生み、土踏まず部分のアーチも高いことで足全体のフィット感が高いそうです。また、ケガの防止を強調しており、ヒール部分を特殊素材がぐるっと囲っていることで、走者に多い足部過剰回内などによる障害も防いでいるという。長距離走者には膝蓋大腿骨痛症、次いで脛骨過労性骨膜炎(シンスプリント)、アキレス腱周囲炎などの傷害が多いとされますが、一般の選手にも奏功する要素はありそうです(ただし1足30,000円弱)。注意する点は、ここで記した厚底シューズはレース用に開発されたものということです。ゆっくり走るランナーや脚力の弱いランナーは、この高機能の存在がかえってぎこちなく、履いても大きなメリットは得られないという専門家も。海外では「シューズの性能が不公平な利益を生んでいるのではないか」と疑問の声が上がり、世界陸連が使用の是非について検討しており、東京オリンピックでのマラソンほかの行方が注目されます。凡夫の疑問⇒短距離走のスパイクシューズの使用は問題なし?

★☆★━━━━━━━━━━■ CONTENTS ■━━━━━━━━━━━★☆★

【1】老いない人の健康術 〜免疫と水素〜
【2】エネルギー医学の将来〜点と点からの発展性
【3】“こころ” と “からだ”……臨床にモノ思う
【4】円熟したプロフェッショナルになるための
バウンダリー・マネジメント・スキル
【5】『ひとりあんま気功』 〜自分で押すのが一番効く
【6】根拠に基づく腰痛の原因と治療 《腰痛治療の新常識》
【7】N・E・W・S

★★★★★★ 連載対談 ★★★★★★

老いない人の健康術 〜免疫と水素〜老いない人の健康術 〜免疫と水素〜

* 安保 徹(元新潟大学名誉教授)
* 太田成男(日本医科大学教授)

ミトコンドリアDNAが傷つくとがん死亡率が高くなる

[太田] もう一つ、ミトコンドリアにはがんを防ぐ重要な仕組みが備わっています。がんになりかけた細胞は自ら死んでいく機構があるんです。それをアポトーシスと言います。ミトコンドリアには細胞のアポトーシスを誘導、実行、制御する役割を担う蛋白質があるから、ミトコンドリアがしっかり働くほどアポトーシスも確実に起こります。つまりがん細胞に変化しやすい細胞は、あらかじめアポトーシスで自殺させることでがん細胞にならないわけです。ところが、ミトコンドリアDNAに変異があるとアポトーシスが抑制されることもわかってきました。
[安保] ということは、がん細胞にあるのは異常なミトコンドリアDNAですね。がん細胞ではミトコンドリアが正常にエネルギーを作らずに解糖系を使うというワールブルグの発見とつながります。
[太田] そうですね。ミトコンドリアDNAの変異は、がん細胞で高頻度に見つかります。ミトコンドリアDNAの変異もがんの原因の一つで、がん細胞の増殖を加速する働きがあります。
最近の研究では、ミトコンドリアDNAに大きな傷があると、がんは転移しやすく治りにくくなり、死亡率が高くなることがわかってきました。抗がん剤や放射線治療の効果も低くなると言われています。
[安保] がんを予防するにしろ治療するにしろ、やはりミトコンドリアがカギを握っています。解糖系の働きに偏った状態を、ミトコンドリアを有効活用できる状態に戻して、分裂抑制遺伝子の出番を作ることが大切ですね。

【 総 括 編 】 『よく生きるとは、よく死ぬこと』

インディオに学んだ「潔い死」

[安保] アマゾン川流域に住むインディオの慣習に、とても感心したことがあります。その集落では、老衰で死を目前に控えた人の枕元に、自分で食べることができるように皿に盛られた食事を置いておくそうです。本人は起きて家族とともに食事ができるほどの体力はなく、静かに横たわっています。そういう状態になってしまったら、家族が手助けをして食べ物を口に運んであげるとか、栄養を取るための手助けのような行為はしないそうなのです。
もし本人に生きる力が残っていて、腹が減ったら枕元に置かれた食事を自分で口に運び食べることができます。そして皿が空になったら家族はまた次の食事を用意します。そんなことを繰り返して、ついには栄養を自分で摂ることができなくなり息を引き取っていくそうです。
もちろん家族は死の淵にたたずむ人を見捨てているわけではありません。家族の誰もが、死に行く人と充実した時間をともに過ごしたいと願っているはずです。
[太田] 一見冷徹な話のように見えますが、結局それが一番配慮された行為なのではないでしょうか。
[安保] 死期を悟った動物はおのずと姿を隠すとよく言われますが、自ら栄養を摂らなくなるはずです。そのほうが安らかに死ぬことができますから。免疫力もすっかり落ちて、死が近づいた老人の口に、スプーンに乗せた流動食を無理やり入れようとする光景を見かけることがあります。なんとか生き延びてほしいと願う家族の気持ちもわかりますが、やはり本人は飲み込むことさえ苦しいはずだと思えてなりません。


連載vol.63

エネルギー医学の将来 〜点と点からの発展性

<小社編集部編>

水中の情報伝達

純粋な水(純水)の中の水分子は、水素イオンと水酸イオンに解離する。水の電気伝導度やそのほかの物理学的性質から、温度が22度の時には1リットルの純水中に0.1マイクログラムの水素イオンが存在することがわかっている。これを分子に数に換算すると、解離している水分子は約5億個に1個の割合ということになる。水酸イオンは水素イオンと同じ数だけしか存在しないはずだから、純水中の陽子(水素イオン)と水酸イオンの濃度は驚くほど低い。

情報を運ぶ担体としての粒子の能力は、その粒子の伝導効率によって決まる。伝導効率を支配するのは、可動単位の数と運動効率という2つの因子である。水の場合であれば、数少ない水素イオンは水分子と速やかに結合して、ヒドロニウムイオンを形成する。ヒドロニウムイオンはナトリウムイオンやカリウムイオンよりも大きいが、電場の中での見かけ上の運動速度は、これらのイオンより何倍も速い。
水素イオンの運動度が高いのは、水素結合によってつながった水分子の鎖上を素早く移動していくからである。したがって水分子そのものはほとんど、あるいはまったく動かさなくてもプラスに帯電した水素イオンはかなりの距離を移動することができるのだ。セント・ジョージはこの現象を「水は自らが回転しなくても方向転換できる唯一の分子である」と表現している。

蛋白質周囲の親水層を移動する陽子については、興味深い知見が得られている。たとえばアイエロ(Aiello)らは、水分子のネットワークとその中を移動する陽子が、独特の性質をもった情報伝達系を作り出していることを報告している。水と陽子で形成されるサブシステムは、システム全体のマクロな動きを支配している。1つの水分子から水素結合を飛び越えて次の水分子へと陽子が移動するときには、「トンネル効果」と呼ばれる現象が関与している。

トンネル効果とは、確率的には非常に低いが、ある粒子がエネルギー障壁を飛び越える現象を言い、水素結合が安定化するのは陽子のトンネル効果のためと考えられている。トンネル効果が物質の構造をどのように安定化させるのかについては、幾何学的空間に対抗するモーメント空間や位相空間の転移を図で説明しなければならないのでここでは割愛する。要するに、分子の幾何学的構造は、陽子の運動がもたらすポジティブ・フィードバックによって安定するのである。個々の陽子の運動は、陽子付近の環境やほかの陽子の状態によって決まるので、これは協力的現象の1つと言えるだろう。(出典『エネルギー療法と潜在能力』 小社刊)


連載エッセイ 72☆

“こころ” と “からだ” …… 臨床にモノ思う。

・保井志之(ファミリーカイロプラクティック院長、DC)


「How to」を超えたさらなるステップ
“アート=直感力=人間力”

徒手療法を用いる施術者が施術法を学ぶにあたって、多くの治療家は「どのようにするのか?」という手順、技法に目を向けます。次にその背景にある「なぜそうするのか」という理論や哲学、そして、その理論に科学性があるのか、あるいは技法に客観性があるのかということに注目します。

多くの施術者が同じ施術法で同じ結果を出すためには、「どのようにするか?」(How to)を統一する必要性があります。そして「なぜそうするのか?」(Why)を同じように説明できなければなりません。現代医療は科学という客観的な検証に基づいた医療が主流なので、客観性があると多くの患者さんが信頼を寄せてくれます。様々なカイロプラクティックのテクニックがある中で、アクティベータ・メソッドは半世紀以上にわたって同じ手法と理論を継承しつづけ客観性を重視してきました。そして、それを活用している世界中の多くのカイロプラクターが、腰痛や関節痛などの筋骨格系症状に対して自信を持って施術を行っています。

効果を引き出すためには、神経関節機能障害の神経生理学的エラーを感知できる下肢長検査の熟練が必要不可欠です。また、調整する際の適切なコンタクトと調整法のタイミングの技法も“コツ”があり、それは教科書だけでは学べない内容が多く、その“コツ”をセミナーで習得する必要があります。さらに、上述の「How to」が必須条件になりますが、機械の修理とは異なって、私たちは心を持った人間を対象にしているので、同じような腰痛患者でも人によって微妙に異なります。言葉の掛け方、検査の仕方、説明の仕方など、患者一人一人に合わせて接し方を変えなければなりません。それは、言葉では表しにくいアートの領域であり、経験から導き出される「直感力」や「人間力」が必要になります。

そのような臨床における施術者としてのアートの領域は経験を積んでいく必要性があります。単に「どのように」(How to)だけを習得すればそれで終わりではなく、「なぜそうなるのか」(Why)や臨床で大切な「直感力や人間力」を深める必要性が求められるでしょう。私はそこに治療者としての奥深い醍醐味があると考えています。毎日の臨床において、本当に一人一人の患者さんの立場になって、その方の未来を考えて真摯に向き合っているのか? 患者さんのニーズに幅広く応えることができる治療者になるための努力を怠っていないのか? 当たり前のことではありますが、日々問いかけるように心がけています。

連載…12

円熟したプロフェッショナルになるための
バウンダリー・マネジメント・スキル

Nina McIntosh /廣瀬寛治・訳

金銭的バウンダリー:お金をもらうことに慣れろ

施術者の多くはワークにおける金銭的な面でのやり取りに関して、きっとぎこちなかった経験をしているのではないでしょうか。しかしながら、クライアントとの関係で金銭面に関することを明瞭かつ適宜に扱っていくことは、クライアントや私たち自身のために安全なバウンダリー(プロとしての存在や立場、関係を取り囲む防護壁)を設定していくうえで非常に重要です。

私たちはクライアントとのプロとしての関係におけるビジネス的な側面を、治療面という 「本質の関係」に釘を刺すような不快な現実だと感じていませんか。しかしセッション料金の請求は、セラピューティック・リレーションシップ(利益を相互が得ることの契約の意識)において不可欠なものです。クライアントにとってプロとしての関係を安全なものとするには、私たちがどういった見返り(金額)を求めているか事前に知る必要があり、また私たちが公平であることを知ってもらう必要があります。そして私たちも、関係が妥当であると思えるようになるには、クライアントから適正な見返りをもらっていると感じる必要があります。

聖人から銭人へ:お金にまつわるぎこちなさ

私たちの中には、施術中は思いやりをもって接しているのに、セッションが終わるとおもむろに料金を請求するような、変わり身の速いそんな自分を嫌だと思う人がいます。
≪ あなたは施術中にクライアントの人生で感じた痛みについて自分に打ち明けてくれて心を動かされ、彼に対して共感を覚えることができたセッションを今終えたところです。彼が支払いをしようというときになって「支払いの小切手の日付を来週にしていいかな?」もしくは「小切手を持ってくるのを忘れてしまった。支払いは次回でもいいかな?」と言い出しました。あなたはどうすれば、このクライアントに対して「お支払いは毎回セッションの終了時にお願いします」とビジネスライクに言うことができますか。たとえあなたにとっては都合が悪かったとしても「あ、大丈夫ですよ」というほうが楽でしょうからね。≫

一般的なメディカルクリニックは受付やマネージャーといった人を雇い、金銭的なやりとりや事案は解決しています。しかし個人経営の場合はほとんど聖人から銭人と、その役割を行ったり来たりしなければならないというジレンマがあります。もしかすると、私たちは料金を設定することに少し罪悪感を覚えているのかもしれませんね。クライアントに対して技術を行使し、世話をしたり思いやりの気持ちをもち、その対価としてお金をもらっているのではないか…と悩んだり、お金に関してすっきりした気持ちになれない施術者たちに対して同僚からの言葉があります。「クライアントはあなたの時間に対してお金を払っているのです。だから思いやりはあなたからの無料のサービスよ」
(出所:『エデュケーティド・ハート』The EducatedHeart Professional Boundaries for the Massage Therapists,2nd ed. )

◆連載26◆

『ひとりあんま気功』〜自分で押すのが一番効く

孫 維良(東京中医学研究所所長)

「自信を取り戻すひとりあんま気功」

・脚と内臓を強化する一石二鳥のあんま法
「人は足から老いる」とよく言われます。現代のように交通機関が発達した時代に生きていると、脚の老化も速くなっていると推測できます。特にマイカーで通勤する人は顕著な脚力の低下がみられます。いくら通勤が便利になっても足が衰えては元も子もありません。そこで誰にでもできる足を強化するひとりあんまを紹介しましょう。じつに簡単。ただ足をさするだけの方法です。脚には胃につながる経絡である胃経、脾とつながる脾経、腎とつながる腎経、肝とつながる肝経、胆とつながる胆経など多くの経絡が走っているため。足をさするだけで、これらの内臓の機能を強化する作用があります。

① 楽な姿勢で床に座って、全身をリラックスさせ、呼吸を整えてください。それから両手を並べて、右の大腿部の上面を軽く把持します(両手の親指の先がくっつくぐらいにします)。いくぶん力を入れて、両の手の平で腿の表側を膝に向かって押しさすります(意識を集中させてください)。腿のつけ根から膝まで18回繰り返します。次は左手で、左大腿部を押しさすります。やはり18回です。
② 今度は膝から下をさすります。両脚を揃えてまっすぐに伸ばし、右手の親指と人差し指を右膝の下に、左手の親指と人差し指を左膝の下に置きます。そのまま左右同時に、指にやや力を入れて、親指と人差し指でまっすぐ足元まで押しさすります。この膝の下→足先を36回繰り返してください。なお両足を揃えて伸ばすと腰が痛い人、体が硬くて足首まで届かない人は、膝を少し曲げても構いません。
③ 椅子に腰かけ、右足を左の大腿部の上に乗せてください。右手で足首を掴んで固定し、左手で足の裏を上下に押しさすります。足の裏が温かくなるまで続けましょう。温かくなったら、左足を右の大腿部の上に乗せ、右手で左足の裏を押しさすります。
④ 床に座って足を開き、左右の足を20-30センチ離します。そして左右の手の親指の指面で、踵から湧泉(ゆうせん)というツボまで左右同時に押しさすります。湧泉は足の人差し指の指先から1/3、踵から2/3の位置にあります。押すと独特の痛みがあるのですぐわかるはずです。踵→湧泉を繰り返し、足が十分に温かくなるまで続けましょう。
①-④を最低毎日1回、できれば2回、朝と晩に行ってください。


根拠に基づく腰痛の原因と治療 – 腰痛治療の新常識(79)

長谷川淳史(TMSジャパン代表)
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腰痛に関する正確な情報には想像を絶するほどの治癒力があります。どうか情報の拡散にお力をお貸しください。

■腰椎の単純X線撮影は、次のレッドフラッグ(危険信号)のいずれかが存在する場合は骨折の除外診断のために推奨される。最近の重大な外傷(全年齢)・最近の軽度外傷(50歳超)・長期ステロイド使用歴・骨粗鬆症・70歳超(C)。

http://1.usa.gov/uhlYSO……骨折していても症状が軽くて気づかない場合もありますから高齢者には注意しなければなりませんが、それ以外はレントゲン写真を撮る必要はないということです。腰痛だからといって何でもかんでも画像検査をしてはいけません。そんなことをするのは世界広しといえども日本だけです。

■次の危険信号のどれかが存在する場合は、がんや感染症の除外のために単純X線撮影とFBCやESRを併用する。がんや感染症の病歴・37.8℃超の発熱・薬物注射乱用・長期ステロイド使用・安静臥床で悪化・原因不明の体重減少(C)。http://1.usa.gov/uhlYSO……がんや感染症が疑われるレッドフラッグには、画像検査に加えてFBC(全血球数測定)とESR(赤血球沈降速度)といった血液検査で除外診断が必要ということです。

■特にがんや感染症を疑わせるレッドフラッグ(危険信号)の存在下では、たとえ単純X線所見が陰性でも、骨シンチグラフィー・CT・MRIなど他の画像検査の使用が臨床的に必要な場合がある(C)。http://1.usa.gov/uhlYSO……最新の腰痛診療ガイドラインでは、放射線を使用しないMRIが望ましいと勧告しています。

■病歴・理学検査・臨床検査・単純X線撮影で、がん・感染症・潜在性骨折が疑われる場合は、急性腰痛を評価するために骨シンチグラフィーが推奨される。しかし、妊娠中の骨シンチグラフィーは禁忌である(C)。http://1.usa.gov/uhlYSO……骨シンチグラフィーは骨転移・炎症・骨折の診断に大きな威力を発揮しますが、アイソトープ(放射性同位元素)を使用するため妊婦には使えません。

■腰部単純X線撮影の斜位像を常用することは、放射線被曝のリスクが増加するため、成人の急性腰痛患者には推奨されない(B)。http://1.usa.gov/uhlYSO……斜位像は腰椎分離症を検出するために撮影されてきましたが、成人の腰椎分離症は腰痛と無関係であることが明らかになっているため、無意味な放射線被曝は避けろという勧告です。

■【心理社会的因子】慢性腰痛における心理社会的因子の影響に関しては、現在数多くのエビデンスがある。最近の前向きコホート研究数件から、心理社会的因子はこれまで考えられていたよりさらに早い段階で重要であることが示された。http://amzn.to/Hk8veA……腰痛疾患の中には心因性のものがあると思っている医療関係者がまだいるようですけど、患者さんのために根拠に基づく情報のアップデートを急いでくださいね。浦島太郎は患者さんに手を出す資格はありませんよ。

 N  E  W  S

NEWS ■ PM2.5短期曝露、心血管疾患の入院増加と関連/BMJ

中国において、微小粒子状物質(PM2.5)への曝露は、短期間で現在の規制濃度内であっても、出血性脳卒中を除くすべての主要心血管疾患による入院の増加と関連していることが明らかにされた。中国・華中科技大学のYaohua Tian氏らが、中国の主要184都市で実施した研究結果を報告した。サンプルは心血管疾患入院患者883万4533例。
疫学研究では、PM2.5による大気汚染と心血管疾患との正の関連性が報告されてきたが、ほとんどが先進国で実施されたもので、大気汚染レベル、構成、資源が大きく異なる発展途上国でのPM2.5汚染と心血管疾患との関連性は明確にはなっていなかった。BMJ誌2019年12月号の報告。
主要評価項目は、人口統計学的グループ別での、1次診断が虚血性心疾患、心不全、心調律異常、虚血性脳卒中および出血性脳卒中による入院(1日当たりの都市別件数)で、PM2.5と心血管疾患との関連を推定した。PM2.5と心血管疾患による入院との都市特異的関連性は過分散一般化加法モデルで推定し、ランダム効果メタ解析により都市別推定値を統合した。研究期間中の入院件数/日(平均±SD)は、心血管疾患47±74件、虚血性心疾患26±53件、心不全1±5件、心調律異常2±4件、虚血性脳卒中14±28件、出血性脳卒中2±4件であった。心血管疾患による入院率は、PM2.5濃度が最大15μg/m3の日と比較して、15〜25μg/m3の日は1.1%(95%CI:0〜2.2)、25〜35μg/m3の日は1.9%(0.6〜3.2)、35〜75μg/m3の日は2.6%(1.3〜3.9)、75μg/m3以上の日は3.8%(2.1〜5.5)、いずれも有意に増加した。
(1/17/2020 ケアネット=部分)

NEWS ■「歩幅」が狭い人は広い人より認知症の発症リスクが3倍

認知症のひとつ、アルツハイマー型認知症は、興奮や攻撃性といった周辺症状を抑制する薬はあっても「治す薬」はない。今すぐできる予防法でお勧めなのが、「歩幅を広くする」だ。「歩幅の狭い人は、広い人に比べて認知機能が3.39倍低下しやすいことが、2012年に私たちがまとめた研究で明らかになったのです」。こう言うのは、国立環境研究所の谷口優研究員。東京都健康長寿医療センターの研究チームが、群馬県と新潟県在住の1000人以上の歩行を測定。歩行動作のうち、歩幅を「広い」「普通」「狭い」と3つに分け、最長4年間、認知機能の低下を調べた。最終的に追跡できた666人のうち認知機能の低下が最も多く見られたのが歩幅の狭い群で、最も少なかったのが広い群だった。広い群のリスクを1とした場合、狭い群のリスク比は3.39倍で、普通の群は1.22倍。年齢、性別、身長、高脂血症の既往症、血液検査の数値などの要素を調整した結果で、多くの高齢者に当てはまる。
続いて谷口研究員らは歩幅の加齢変化と認知症の関係について最長12年間の追跡調査を実施。対象者は延べ6509人。その結果、歩幅は3つの異なる加齢変化パターンに分類できることが分かり、最も歩幅が広く推移する群に比べて、歩幅が狭く推移する群では、認知症の発症リスクが3.34倍高かった。「近年の研究結果から、歩幅が特定の脳の部位の大きさや血流の状態と関係していることが報告されています。つまり、歩幅が脳の状態を反映しているのです。このことから、歩幅を広げれば脳と足の間の神経伝達が刺激され、脳の活性化が期待できます。すでに脳の変性が始まり神経回路に障害が発生していても、歩幅を広げて新たな刺激を加えれば、新たな神経回路を構築できる可能性は十分にあります」(谷口氏)
歩幅を広げた歩き方を続けると、脳の血流量が増えて認知症の原因物質βアミロイドの蓄積を抑制する効果も期待できる。さらに副次的な効果として、心肺機能の向上、下肢の筋力アップで転倒予防、気分の高揚などもある。きょうから始めてはいかが。
(1/15/2020 TMS-net)

NEWS ■ヒトは体温が低いほど長生きをする……学際研究

体温というのは、最も簡単に測定できる健康のバロメーターです。人間は体温を一定に保っていて、発熱も低体温も、いずれも深刻な病気のサインです。ただ、この場合の体温というのは、脳や内臓の「深部体温」のことで、通常、体温計で測定しているのは皮膚の表面の温度ですから、そこには決して小さくはない違いがあるのです。よく「低体温で心配」とクリニックを訪れる方がいます。「低体温や冷えが多くの病気の原因で健康の敵だ」といった情報がちまたにあふれているからです。しかし、測定された体温が35度を切っていても、それは皮膚の表面が冷えているだけで、ほとんどの場合、深部体温は正常なのです。それでは、体温は高い方がいいのでしょうか、それとも低い方がいいのでしょうか?
2017年の「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)」に、体温と健康との関係を検証した大規模な疫学研究が発表されています。3万5000人以上のアメリカ人を長期間観察した結果、体温が約0.15度上昇すると、1年間に死亡するリスクが、8.4%有意に増加していました。つまり、体温が低いほど長生きという意外な結果です。その原因は不明ですが、体温が高い人は代謝が活発で、それが命を縮める原因のひとつであるのかもしれません。体温が低めでも、心配する必要はなさそうです。
(石原藤樹/北品川藤クリニック院長)(1/13/2020 日刊ゲンダイ)

NEWS ■特徴的な超長寿者の免疫 健康寿命延ばす鍵か

110歳以上の超長寿者「スーパーセンチナリアン」の血液中には、通常少量しか存在しない特殊な免疫細胞が多く含まれていることを理化学研究所生命医科学研究センターと慶応大医学部百寿総合研究センターの共同チームが突き止めた。
2015年国勢調査によると、国内に100歳以上は約6万2千人いるが、110歳以上は146人と少ない。一般的には高齢になると免疫力が低下し、がんや感染症のリスクが急激に高まる。スーパーセンチナリアンは致命的な病気を回避してきたとも言え、その免疫システムを理解すれば健康寿命を延ばすヒントが得られるかもしれない。研究チームは、スーパーセンチナリアン7人と50〜80歳5人の計12人から血液を採取し、免疫細胞を抽出して解析した。すると、さまざまな免疫細胞の中でも「T細胞」と呼ばれる仲間の構成が両者の間で大きく異なることが分かった。T細胞には免疫の司令塔として重要なヘルパーT細胞や、異物を認識して破壊するキラーT細胞などがあるが、スーパーセンチナリアンは50〜80歳に比べキラーT細胞の割合が高かった。特に通常はT細胞全体の数%しか存在しない「CD4陽性キラーT細胞」が25%前後も含まれていた。年齢を重ねる過程のある時期から、細胞分裂を繰り返し、クローンのように増殖した可能性がある。
理化学研究所の橋本浩介専任研究員は「CD4陽性キラーT細胞が人の免疫システムの中でどんな役割を担っているのかは明らかになっていないが、マウスの実験では皮膚がんの一種メラノーマを排除したことが示されている。老化や長寿との関係解明が期待される」と話している。
(1/8/2020 TMS-net)

NEWS ■ヨガによりうつ病の症状が軽減する?

うつ病患者の症状軽減にヨガが持続的な効果を示すことをあらためて支持する研究結果が報告された。ヨガが抗うつ薬や抗不安薬と同様に神経伝達物質のγ-アミノ酪酸(GABA)量を増加させることを示した過去の研究結果をもとに、米ボストン大学医学部の精神科医であるChris Streeter氏らが実施した研究により示された結果で、詳細は「Journal of Psychiatric Practice」11月号に発表された。
この研究は、30人の成人うつ病患者を対象に12週間にわたって実施された。対象者は、2人を除いた全員が抗うつ薬を使用していた。Streeter氏らは、対象者の半数を90分のヨガのクラスを週に3回受ける+30分のヨガの「宿題」を週に4回自宅で行う「高用量」ヨガ群に、残る半数を90分のヨガのクラスを週に2回受ける+30分のヨガの宿題を週に3回自宅で行う「低用量」ヨガ群に割り付けた。研究期間中にヨガを行った時間の合計は、高用量ヨガ群で123時間、低用量ヨガ群で87時間だった。その結果、「高用量」ヨガ群と「低用量」ヨガ群の両群において、以前よりも気持ちが前向きになって落ち着き、身体的な疲労感や抑うつ、不安が軽減したなどの症状の改善が見られた。また、これらの効果はヨガや呼吸エクササイズを行った時間が長くなるほど高まることも示された。ただし両群の間に認められた差は統計学的に有意ではなかった。
これまでの研究でも運動がうつ病患者の症状軽減に有効であることが示されていたが、Streeter氏は「運動の中でも特にヨガはうつ病患者に良い影響を与えるのではないか」との見方を示している。また、米グリーン精神科センターの精神科医でヨガのインストラクターでもあるGregory Brown氏も「ヨガには特有の心の要素があり、その点が他の運動とは異なる」と説明している。Brown氏の施設では、うつ病や不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対し、従来の治療に加えて「サプリメント」としてヨガを取り入れているという。
(1/6/2020 TMS-net)

NEWS ■寝不足が脳に与える影響は深刻

寝不足で頭が働かないと感じるのは、気のせいではないようだ。睡眠不足がもたらす脳への影響は、これまで考えられていたよりもはるかに深刻であることが、米ミシガン州立大学の睡眠・学習ラボ(Sleep and Learning Lab)代表を務めるKimberlyFenn氏らの研究で示された。睡眠不足が認知機能に与える影響は注意力だけにとどまらず、予想以上に大きな危険を伴うことが分かったという。研究の詳細は「Experimental Psychology: General」11月オンライン版に掲載された。
Fenn氏らは今回、138人の参加者のうち77人には一晩中眠らずに起きていてもらい、61人には自宅で普段通りの睡眠を取ってもらい、認知機能を比較する実験を行った。全ての参加者には、実験当日の夕方と翌朝に2つの認知機能に関するテストを実施した。一方では、光に反応してボタンを押すまでの時間を測定して注意力を評価。もう一方では、途中で作業を中断されても、1つのタスクを完了させるために複数の手順を踏むことを指す「プレースキーピング」の能力を評価した。その結果、睡眠不足のグループでは、作業が中断された後にプレースキーピングエラーを起こす確率は、実験当日の夕方には15%だったのに対し、翌朝には30%にまで急上昇したことが分かった。一方、自宅で普段通りに眠ったグループでは、実験当日の夕方と翌朝でエラーを起こす確率に変化は見られなかった。
Fenn氏は、「今回の研究では睡眠不足によって不注意によるミスが起こる確率は3倍に上ったが、プレースキーピングエラーが起こる確率も2倍になることが示された。これは驚くべき結果だ」と説明。その上で、「睡眠不足の人は、何をするにも十分に注意を払う必要があり、大きなミスなどはしないと思ってはいけない。とりわけ自動車を運転する際には、そうしたミスが悲劇的な結果をもたらすことも少なくない」と同氏は警鐘を鳴らしている。
(1/7/2020 HealthDayNews)

NEWS ■スロートレーニングって何? 効果を上げるポイント

筋力に自信のない方にぴったりだというスロートレーニング。東京大学大学院教授でスポーツ先端科学研究拠点・拠点長の石井直方さんに、その特長と、効果を上げるポイントを教えてもらいました。筋トレというと、ジムに行ってマシンを使ったり、重いバーベルを持ち上げたりするトレーニングをイメージするかもしれませんが、ここで紹介する「スロートレーニング」(略してスロトレ)は、自分の体重を利用する自重トレーニングなので、けがをする心配もなく、安全に取り組むことができます。
「スロトレ」の特徴は、ひとつひとつの動きをゆっくり休みなく行うこと。例えば、スクワットは4秒間かけてゆっくりとしゃがみ、4秒間かけてゆっくりと立ち上がります。すると、筋肉内の血流が制限されて酸欠状態になり、重い負荷をかけてトレーニングを行ったときと同じような筋内環境になります。これにより、少ない回数でも筋肉が疲労して “きつい” と感じるため、筋肉を効率よく鍛えることができるのです。重要なのは回数ではなく、「きつい!」と感じる自分の感覚。まずは「きついと感じる回数×3セット」を目指しましょう。息を止めず、自然に呼吸しながら行ってください。
≪効果を上げるポイント≫
・それぞれの動作に4秒間かける。
・筋肉をゆっくりと動かし、力を入れ続ける。
・関節や体勢をロックしない(固めない)で動き続ける。
・回数を決めずに「きつい!」と感じる回数を3セット行う。
(1/4/2020 NHKテキストレビュー)

NEWS ■「酒飲みが多い」都道府県はどこ

一般社団法人ストレスオフ・アライアンスは、全国の男女14万人(男女各7万人、20〜69歳)を対象に『ココロの体力測定2019』を実施。その中で、「飲酒習慣」に関する詳細な調査を行っている。集計期間は3月6日〜18日。各県1000サンプル以上を確保し、その後人口比率(都道府県、年代、有職割合)でウエイト修正した。また今回は、週に4日以上(年間200日以上)の飲酒習慣がある人(=「酒飲み」と定義)の割合を都道府県ごとに集計し、ランキングを作成した。
「酒飲みが多い都道府県【男性版】」第1位は秋田県で、週に4日以上飲酒している人の割合は35.2%となった。第2位は山形県で、その割合は30.3%だった。一方、「酒飲みが多い都道府県【女性版】」第1位は京都府で、週に4日以上飲酒している人の割合は13.6%だった。第2位の福島県では、その割合は13.5%だった。
今回の調査でユニークだったのは、週4日以上の飲酒がストレス解消に一役買っている可能性があるという点だ。厚生労働省実施の「ストレスチェック制度」身体状態(B項目)を基準に、今回の調査対象者を「高ストレス(77点以上)」と「通常(40点以上76点以下)」と「低ストレス(39点以下)」に分けて、高ストレス者と低ストレス者の飲酒習慣と掛け合わせて分析を行った。飲酒習慣が全くない人では若干低ストレス者の割合が高いが、週4日以上飲酒する習慣がある人でも男女ともに低ストレス者の割合が高かった(男性の低ストレス者25.1%、高ストレス者17.5%、女性の低ストレス者:14.3%、高ストレス者10.4%)。つまり飲酒をせずに健康的な生活によって低ストレス状態の人と、飲酒によってストレスを解消している両方が存在するといえる。もちろん飲みすぎには気を付けるべきであるものの、周囲とのコミュニケーションを円滑にするお酒は、適度に楽しむとストレス解消につながるようだ。
(12/19 ダイアモンドオンライン=一部)


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(編集人:北島憲二)


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