エンタプライズ発信〜メールマガジン【№94】 2019. 2

安倍内閣による地方創生の一つとして、東京圏への人の一極集中の是正があります。一極集中の弊害について考えると、経済・産業のみならず、すでに東京に住む人が今後味わう“医療・介護地獄”への懸念を忘れてはなりません。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、東京圏(1都3県)の65歳以上は2017年で902万人、2025年955万人、2040年1119万人と膨んでいくとみています。高齢者が増加すれば患者も増えます。日本医師会の関連機構のデータによれば、2011年に比べ2025年の東京都の脳血管疾患の入院患者は53%、糖尿病は39%、虚血性心疾患は37%増えるとの予測であり、疾患総数の入院患者は34%増、外来患者11%増と想定しています。同データではほかに介護保険施設のベッド数と高齢者住宅を合わせた東京都の高齢者向けベッド数は、75歳以上1000人あたり100で全国の121を下回っており、23区の一部では危機的な状況にあると指摘しています。とはいえ地価が高い東京で高齢者向けの病院や施設を新設するのは容易ではありません。医療地獄、介護難民と言われるゆえんです。厚生労働省は中小病院を慢性期病院などに転換させて高齢患者の受け入れを増やす計画や、自宅で暮らし続けられるよう医療スタッフが連携して在宅医療・介護支援を行う地域包括ケアシステムの構築を急いでいますが、1人暮らしや夫婦とも高齢者という世帯が増えているため進捗は鈍いようです。東京圏とは背中合わせに、地方にとっては若者の都市圏への流出は死活問題に直結します。人口の減少は患者不足になり、高齢者が死亡すると患者も減ることになり、すでに医療機関や介護施設の倒産まで懸念されています。これはどう見てもアンバランスな構造です。ふる里や地方で余生を送る魅力ある政策に期待したいところですが、疑問符が大きくぶら下がっています。

★☆★━━━━━━━━━━■ CONTENTS ■━━━━━━━━━━━★☆★

【1】新連載:円熟したプロフェッショナルになるための
  バウンダリー・マネジメント・スキル
【2】老いない人の健康術 〜免疫と水素〜
【3】エネルギー医学の将来〜点と点からの発展性
【4】“こころ” と “からだ”……臨床にモノ思う
【5】『ひとりあんま気功』 〜自分で押すのが一番効く
【6】根拠に基づく腰痛の原因と治療 《腰痛治療の新常識》
【7】N・E・W・S

◇◇◇ 新連載 ◇◇◇

円熟したプロフェッショナルになるための
バウンダリー・マネジメント・スキル

Nina McIntosh /廣瀬寛治・訳

本連載は、各種セラピーやボディワークにおいて、業務範囲、規律、倫理・態度、言葉遣い、経営・営業等にわたり、プロのプラクティショナーがすべきこと、してはいけないこと(越えてはならないクライアントとの一線など)や、わきまえること、守るべきことを、具体的な事例をあげて解説していきます。クライアントと施術者間の(精神)力学や距離の置き方などに精通したボディワークコンサルタントのNina McIntosh がアシストします。

防護壁;バウンダリーと仕事関係

このコラムで終始用いるバウンダリー(boundaries)とは、プロとしての存在や立場、関係を取り囲む防護壁(protective circle)のことです。それは私たちとクライアントを隔てる壁ではなく、相互の関係を保護して(守って)くれる意味のものです。バウンダリーがしっかり機能していれば、クライアントと施術者がともに安心して、この関係の中で何が期待できて、何ができないのかを明確に知ることができます。バウンダリーの意味がお分かりいただけたと思います。

理屈ではプロとしてのバウンダリーを維持するというのは簡単なことのように思われます。クライアントはマッサージやボディワーク、マニュアルセラピーなどを受療にやってきます。そこで私たちはまず最初に、セラピューティック・リレーションシップ(利益を相互が得ることの契約の意識)での自分の役割を考える必要があります。
役を担うということは、ただ単にその役を演じればいいというものではありません。それはセッション中には、クライアントとのやり取りにおいてセラピューティック契約に基づいた行動をとることを意味します。その契約内容は、自分がどの種のボディワークのトレーニングを受けたかによって決まってくるし、それがクライアントが支払う料金に見合ったものであることは言うまでもありません。

私たちはクライアントに対して、いつも2つの役割をもって接しています。1つは専門とするソマティック・プラクティショナーとしてです。もう1つは一般的なプロとしての役割です。1つ目の役割は上述したトレーニングを積んだそれぞれの独自の方法でクライアントの要望に応じていきます。2つ目はさらに大きな役割であり、私たちが学んでいかなければならないのは、プロとしての役割です。この役割を考えるとき、自分の私生活や意見、所用などをセッションに一切持ち込んではいけません。反面、クライアントから必然的にプロとして接してもらえるよう秘かに期待するべきです。
しかし役割を快適にできるようになるまでには時間がかかります。例えばマッサージ・ストロークは週末1回練習しただけではマスターできません。しっかりとしたプロの自覚が生まれるまでには十分な時間を要することは、読者にとってみれば自明のことだ思います。(つづく)

(出所:『エデュケーティド・ハート』The Educated Heart Professional Boundaries for the Massage Therapists, Bodyworkers,and Movement Teachers. 2nd ed. 2006)

★★★★★★ 連載対談 ★★★★★★

老いない人の健康術 〜免疫と水素〜

* 安保 徹(元新潟大学名誉教授)
* 太田成男(日本医科大学教授)

良い活性酸素と悪い活性酸素

[太田] 活性酸素にはいくつかの種類があります。スーパーオキシドラジカル、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル、それから一酸化窒素も活性酸素の仲間です。先ほども言いましたが、活性酸素には害になるものと体に必要なものがあることがわかってきました。
[安保] 活性酸素は、酸素が電子を吸収するたびにスーパーオキシドラジカル、過酸化水素、ヒドロキシルラジカルと変化していきますが、これらの酸化力には差がありますよね。
[太田] はい。スーパーオキシドラジカルとヒドロキシルラジカルでは100倍以上も酸化力が違います。
[安保] 100倍も性質が違うのに、同じ活性酸素と呼ぶのは少々乱暴な気がしますね。
[太田] これら活性酸素のうち、体にとって必要な働きがまったくないのはヒドロキシルラジカルです。

「抗酸化ビタミンは摂るほど良い」は間違い

[安保] 体から排除したい活性酸素は、一番強力なヒドロキシルラジカルだけということですね。だけど少し前までは、活性酸素はすべてないほうがいい、という考え方だったでしょう。それでいろいろな抗酸化ビタミンがもてはやされました。
[太田] 抗酸化ビタミンについては渾沌とした歴史があって、30年前くらいは抗酸化ビタミンを摂り過ぎるとがんになるという論文が出たことがあります。ところが同じような研究が世界中で行われると、がんが抑えられるという結果も出て、研究を行うごとに結果が異なるので収拾がつかない時代がありました。
それも今は決着がついています。要するに、もともと抗酸化力がある人が抗酸化ビタミンを摂り過ぎると、がんになりやすいということです。逆に、抗酸化力が弱い人が抗酸化ビタミンを摂ると、うまくがんを抑制することができる場合があります。
[安保] いくら健康に良いと言われている物質でも、過剰摂取は禁物ということですね。たしかに以前はビタミンCは摂れば摂るほど良いという風潮がありました。
[太田] 以前ありましたが、結局それは間違いで、当時は新薬やサプリメントの開発に脚光が浴びましたが、はっきりした成果を出すことはできませんでした。


連載vol.52

エネルギー医学の将来 〜点と点からの発展性

<小社編集部編>

結合組織の重要性(つづき)

結合組織は連続体であると同時に半導体でもあるので、圧電気のシグナルは組織全体に伝わる。また結合組織は細胞の内部にもつながっているので、体のどこかで発生した微小電流は細胞の中にも伝わる。生物を構成する各部分が調和的および協力的に機能したり、各細胞がほかの細胞の活動を感知したりしているとすれば、それは全身から細胞内部にまでつながる結合組織を介してシグナルが伝わっているからではないだろうか。

結合組織の拡大解釈

セント・ジョージらが行った研究や細胞生物学の最近の研究から明らかになってきたのは、結合組織の連続したコラーゲン線維が、電子や陽子を媒体とした情報伝達網を形成しているということである。この伝達網は、相互に絡み合うコラーゲン線維はもとより、全身のすべての細胞に含まれる細胞骨格(細胞内の構造)へと伸びている。そして情報網の先端は、細胞骨格からさらに核内部の遺伝物質にまで及んでいるのである。つまり、結合組織という概念は、体内を網目のように走る連続した線維組織のすべてを含んでいるということであり、従来の意味での結合組織だけでなく、細胞骨格や核の基質までを包括した概念なのだ。

各種の治療法に関わるセラピストたちは、人体の1か所に触れることが全身に触れるのと同じであることを経験的に知っている。このような経験は生体マトリックスの概念に通じており、エネルギー療法の結果を説明する1つの根拠として、生体マトリックスというコンセプトが非常に有効であることを示している。またセラピストが患者に近づいたり、手で触れたりするときには、両者のエネルギーと情報が相互に作用しあうことがわかっているが、この現象は、半導体的性質をもった生体マトリックス中では電子が自由に運動するというセント・ジョージの仮説によって説明できるであろう。

要約すると、結合組織と細胞骨格は一体となって、構造的にも機能的にもエネルギー的にもつながった連続体を形成しており、この連続体は生体全体にくまなく広がると同時に、細胞の核や遺伝子ともつながっている。これが生体マトリックスである。生体マトリックスには高度な情報伝達処理機能が備わっており、組織や細胞の動き、変化などによって即座に各種のエネルギーが発生し、そのエネルギーが別の形態のエネルギーへと翻訳あるいは変換されながらマトリックス中を伝わっていく。生体を構成するいずれの要素も必ず生体マトリックスに連続している。
(出典『エネルギー療法と潜在能力』小社刊)


連載エッセイ 62☆

“こころ” と “からだ” …… 臨床にモノ思う。

・保井志之(ファミリーカイロプラクティック院長、DC)


患者への「質問力」 〜隠れたニーズを読み解く洞察力〜

母親の無意識が関係する子供の食物アレルギー

6年ほど前に食物アレルギーの症状で来院した患者さんが再来院。初来院のときは1歳半の幼児だった。当時、食物アレルギーが多くて、病院からの指導も受けて幅広い食物制限を行なっていた。そのためか約8ヶ月前から体重が増えていないとのことだった。たしかに通常の幼児に比べると明らかに痩せ細っているのが見てわかった。
当院を受療する前にはいくつかの病院を転々としており、解決策もなくお母様は八方塞がりの状態でとても悩まれていた。そんな最悪の状態で当院に来院し、10回ほど通院してから体重も1キロ増えてきて喜んでいただいた。まだいくつかの食物アレルギーの治療は必要だったが、経済的な理由で中止に及んでいた。

その後、その患者さんも元気な7歳の男の子に成長した。今回はご主人の転勤に伴って海外で生活をすることになり、それまでには何でも食べられるようにアレルギーを改善したいとの希望で再度アレルギー治療で来院。以前ほどではないが、まだ複数の食品に対してアレルギー症状が出るとのことで、アレルギー治療を施しながら、陽性反応が消失した後に、実際にその食品を触ったり、ほんの少しだけ舐めたり、口にしたりして、実際のアレルギー症状を確認してもらいながら治療を継続した。

4回の通院治療で、以前から制限していた牛乳、乳製品、卵、鶏肉、パンなどが普通に食べられるようになった。興味深かったのは鶏肉のアレルギー治療だった。アレルギー検査チャートでは陽性反応が示されていなかったのに、実際に食べて試してみたら、顔が赤くなってアレルギー症状が出たという。再検査でもチャートで検査しても反応が示されない。これはアレルゲン以外の何かが関係していると直感的に思い、症状が再現されたイメージから検査をすすめた。すると「警戒心」というキーワードが示される。それもお母様の過去の記憶が影響を及ぼしていたことが判明。3歳以下の子供は、お母様の影響を受けやすいことは臨床的によくあることだが、7歳でも、過去の記憶で、しかもお母様の記憶が影響を及ぼしているというのはとても興味深かった。

お母様によると、過去、鶏肉をうっかり食べてアレルギー症状が出たので、自分自身も意識的にも無意識的にも鶏肉に対して警戒していたと思うとのこと。お子さんと手をつないでもらい、鶏肉に対する警戒心を認識してもらい調整を行なった。その後、鶏肉を試してもらったが、アレルギー症状は出なかったという。因果関係に関しては珍しいが、この症例から考察すると、3歳以上の患者でも身近にいるお母様の過去の記憶の影響も考慮して検査を行なわなければならないと思った。やはり、術者のマインド設定はいかにニュートラルにするかの訓練が大切だと改めて思った。

◆連載15◆

『ひとりあんま気功』〜自分で押すのが一番効く

孫 維良(東京中医学研究所所長)

「痛みをやわらげる、ひとりあんま気功・実践編2」
目と耳の衰えを防ぐ

 歳をとるにつれ、老いの兆しは目や耳に顕著に現れてきます。しかも目や耳が衰えると知力の減退を招くことがあるので、視力と聴力を保持することは老化を食い止めるうえで大切なポイントになります。そこで目と耳の機能減退を防ぐあんま気功法を紹介しましょう。

①楽な姿勢で椅子に腰かけ、肩の力を抜いて全身をリラックスさせます。軽く目を閉じ、ゆっくり腹式呼吸を行いながら、両手の平をこすりあわせます。両手が温かくなるまでこすり続けてください。
②目の内端のすぐ横に、睛明(せいめい)と呼ばれる視力の回復に効果的なツボがあります。まずこの睛明を指で刺激します。片手の親指と人差し指を睛明に当て、それぞれ指先で押します。最初はあまり力を入れずに押し、徐々に力を入れて押していきます。ポイントはただ押すだけではなく、鼻の方向に向けて押していくことです。両目のまわりに酸脹感(だるさ、鈍い痛みなど、ツボを押したときに感じる独特の感覚)が広がるまで続け、酸脹感を覚えた後も約30秒押し続けます。
③眉毛の内端の2-3mm下に天応と呼ばれる、視力の衰えを予防するツボがあります。左右の親指を左右の天応に当て、残るそれぞれ4本の指は額に当て、額を支えるようにします。そして親指の指面で天応を揉みます。口には出さず、心の中で「1-2-3…」と8まで数えながら揉んでください。この8を1回として8回繰り返します。
④それぞれ5本の指を伸ばしたまま、両手の平を耳の横につけ、後方に向けて耳を押しさすり、手の平が耳を通過したら、今度は前方に向けて耳を押しさすります(前方に押しさするときは、耳は前方に倒れ、耳全体で耳の穴をふさぐような形になります)。
手の平の1往復を1回として、前後に10-15回繰り返してください。


根拠に基づく腰痛の原因と治療 – 腰痛治療の新常識(68)

長谷川淳史(TMSジャパン代表)
***** ***** ***** ***** ***** ***** ***** *****

腰痛に関する正確な情報には想像を絶するほどの治癒力があります。どうか情報の拡散にお力をお貸しください。

■筋筋膜性疼痛症候群患者53名に対するトリガーポイント注射に関するRCT(ランダム化比較試験)によると、局所麻酔剤群とプラシーボ(生理食塩水)群の疼痛改善率に差が認められなかったことから、効果が同じなら副作用のない生理食塩水を使うべきと結論。http://1.usa.gov/qPLsdU
……残念ながらトリガーポイント注射は、世界各国どの腰痛診療ガイドラインでも推奨されていません。

■慢性腰痛患者97名を対象に椎間関節ブロックの有効性を6ヶ月間追跡したRCTによると、プラシーボ(生理食塩水)群とステロイド群の改善率に差は認められなかった。慢性腰痛に対する椎間関節ブロックに効果はないことが判明。http://1.usa.gov/186g87K
……慢性腰痛患者の椎間関節にステロイドを注射しても効果は認められないことから、慢性腰痛の原因は椎間関節の炎症ではないことが分かります。

■慢性腰痛患者109名を対象に椎間関節ブロックの有効性を3ヶ月間追跡したRCTによると、椎間関節ブロック群、椎間関節周囲ブロック群、プラシーボ(生理食塩水)群の改善率に差は認められないことから心理社会的因子が影響と結論。http://1.usa.gov/pFTonQ
……慢性腰痛に対する椎間関節ブロックの効果は、自然治癒と心理社会的因子によるものだということです。

■坐骨神経痛を訴える椎間板ヘルニア患者60名を対象に、ラブ法群と顕微鏡下髄核摘出術群の術後成績を1年間追跡したRCTによると、術中の出血量、合併症、入院日数、欠勤日数、改善率など、いずれも両群の間に差は認められない。http://1.usa.gov/p43qmF
……新たに開発された術式なら従来の成績を凌駕するだろうと思いきや、脊椎固定術の例でも分かるように必ずしもそうとは限りません。

■腰下肢痛を訴える椎間板ヘルニア患者52名を対象に、ラブ法群とキモパパイン注入群の術後成績を1年間追跡したRCTによると、ラブ法群は85%でキモパパイン群は46%の改善率だった。腰痛の改善率も特にラブ法群が優れていた。http://1.usa.gov/ofd8E8
……昔から行なわれてきたラブ法は強し。先人たちの偉大さに驚かされます。

■慢性腰痛患者97名を対象に椎間関節ブロックの有効性を6ヶ月間追跡したRCTによると、プラシーボ(生理食塩水)群とステロイド群の改善率に差は認められなかった。慢性腰痛に対する椎間関節ブロックに効果はないことが判明。http://1.usa.gov/qTsRmP
……慢性腰痛患者の椎間関節にステロイドを注射しても効果は認められないことから、慢性腰痛の原因は椎間関節の炎症ではないことが分かります。

 N  E  W  S

NEWS ■ 「不平等を見過ごせない人」はうつになりやすい傾向

経済的格差が小さくなれば、うつ病が減るかもしれない――。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)脳情報通信融合研究センターの研究マネジャー、春野雅彦さんが率いるグループが、不平等とうつ病との間に、脳科学的に見て強い関連があるという仮説を立て研究を進めている。不平等とうつ病の相関はこれまで統計的調査、研究で語られてきたが、脳の活動変化から確認できるという。
春野さんは、「不平等とうつ病傾向の関係については、国内外のいろいろな研究で明らかになっています。代表的なものが、英ロンドン大学が1967年から官庁街で働く公務員を対象に実施している公衆衛生学の研究です。職階層が低いほど体だけでなく精神的な健康度も低いことが明らかとなり、経済的不平等がうつなど精神疾患に影響していることが示されました」と話す。
春野さんらは、機能的磁気共鳴画像化装置(fMRI)を使い、実験時の脳の活動を観察した。すると、向社会的(*)で経済的な平等を重んじるパーソナリティー(性格)の人の脳では、金額差が大きい取引を提案されたとき、扁桃体が活発化するのが観察された。一方、できるだけ自分が得をしたいと考える個人主義的パーソナリティーの人の扁桃体には変化が見られなかった。扁桃体は、側頭葉にある神経細胞の集まり。感情に関わる部位と考えられ、ストレス物質放出に関与するなどうつ病と関連が深いとされている。
春野さんらは17年、研究結果に基づき、fMRIを使った新たな最終提案ゲームによる研究を実施した。今度は扁桃体と、同じくうつ病と関わりが深いとされる海馬の活動パターンから、被験者のうつ病傾向の予測を試みた。データからパターンを見つけ出し特定の指標の予測を可能にするスパースベイズ回帰というAI技術を適用することで、被験者のうつ病傾向や、1年後のうつ病傾向を予測できることが明らかになったという。2年後に別の被験者で再度調査したが、やはり同様のデータが得られた。
「自分が得できるなら、他人が損をしたところで関係ない」と考える人がいる一方、「他人が損をし、自分が得をするのはつらい」と感じる人もいる。そして、「つらい」と感じる人の方がうつ病傾向が高いという結果だった。
(*)向社会的とは、報酬を期待せず他者や集団の役に立とうとする行動を指す心理学用語。人とのつながりを求めるタイプの人の性向をいう。(2/16 毎日新聞=一部)

NEWS ■減量に朝食摂取は本当に有効か/BMJ

朝食の摂取は、その習慣の有無にかかわらず、体重減少の戦略としては有効とは言えない可能性があるとの研究結果が、オーストラリア・モナシュ大学のKatherine Sievert氏らの検討で示された。研究の詳細はBMJ誌1月号に掲載された。規則的な朝食の摂取は、低BMIと関連し、体重増加に対する防御因子であることが、多くの観察研究で示唆されている。一方、これまでに得られた朝食摂取に関する無作為化対照比較試験のエビデンスは、一貫性がないという。
研究グループは、高所得国の住民において、規則的な朝食の摂取が体重の変化およびエネルギー摂取に及ぼす影響を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った。対象は、朝食の摂取と非摂取を比較し、体重またはエネルギー摂取量の評価を行った高所得国の無作為化対照比較試験とした。2人のレビュアーが個別にデータを抽出し、バイアスのリスクを評価した。変量効果を用いてメタ解析を行った。
体重変化のメタ解析では、朝食抜きの参加者は朝食摂取者に比べ、わずかだが体重が減少していた(平均差:0.44kg、95%信頼区間[CI]:0.07〜0.82)が、試験結果にはある程度の非一貫性(inconsistency)が認められた(I2=43%)。
また、1日の総エネルギー摂取量のメタ解析では、朝食抜きの参加者は、朝食摂取者に比べ摂取量が少なく(平均差:259.79kcal/日、95%CI:78.87〜440.71)、抜いた朝食分のエネルギーを昼食や夕食などの他の食事で補っていないことが示唆された。しかしながら、試験結果には実質的な非一貫性がみられた(I2=80%)。(2/13 ケアネット)

NEWS ■「1日30分でも立ち上がって運動」が長生きの秘訣

1日に30分ほど椅子から立ち上がって運動するだけで、余命が延長する可能性があることが、米コロンビア大学のKeith Diaz氏らの研究で示された。同氏は「デスクワークや座りがちな生活習慣の人は、できる限り立ち上がって動くことで、早期死亡リスクを減らすことができる。運動はランニングなどの高強度のものでも、ウォーキングなどの軽めのものでもよい」と述べている。詳細はAmerican Journal of Epidemiology1月オンライン版に掲載された。
この研究は、脳卒中のリスク因子などの検討を目的とした大規模な観察研究であるREGARDS(REasons for Geographic and Racial Differences in Stroke)研究に参加した45歳以上の男女7999人を対象としたもの。2009〜2013年に、参加者には活動量計を4日間以上装着してもらい、座位時間を測定した後、2017年まで追跡した。
その結果、座り続ける代わりに、1日30分でも軽い運動を行っていた人は、そうでない人に比べて早期死亡リスクが17%低いことが分かった。また、運動の強度を高めると、より大きなベネフィットが得られることも明らかになった。座っているよりも中強度の運動を1日30分行うと、早期死亡リスクは35%低減することが示された。これらの結果から、Diaz氏は「どんな強度であっても、運動は健康にベネフィットをもたらすようだ」と述べている。(2/6 HealthDayNews)

NEWS ■冷え性の女性は約5倍 「腰痛」

冷え性の女性は、腰痛に4.91倍、難聴に4.84倍なりやすいことが、福島県立医科大学の坪井聡氏らによる研究で明らかになった。冷え性の女性はさまざまな症状を抱え、健康リスクを伴う行動をとっていることがある。対症療法では改善が不十分な場合があり、総合的なケアが必要であるという。International journal of women’s health誌1月号の報告。
西洋医学においては、東アジアの伝統医学と異なり、冷え性に対する医療サービスの必要性は、まだ認識されていない。そのため、2016年2月〜2017年4月にかけて日本人女性238人を対象に、手足の冷えとその他の主観的症状について疫学的評価を行い、それらの関連性について調査した。人口統計、健康関連の行動、健康状態、過去1年間の自覚症状の頻度をアンケート調査した。手足の冷えとその他の主観的症状との関連性は、多重ロジスティック回帰分析を用いて検証した。主な結果は以下のとおり。
・冷え性の有病率は、軽度が49.6%、重度が35.3%であった。
・気温と医療サービスの利用は、冷え性の重症度によって有意差はなかった。
・冷え性と有意に関連した症状は、肩こり、疲労、腰痛、頭痛、鼻づまり、かゆみ、けが、難聴であった。
・多重ロジスティック回帰分析の結果、冷え性の人は、腰痛に4.91倍、難聴に4.84倍なりやすかった。
・要因としては、精神的な生活の質、睡眠の質、習慣的な飲酒が、その他の主観的症状と有意に関連していた
(2/4 ケアネット)

NEWS ■「体重を毎日測定すべき」に賛否両論、AHA

ダイエットをする人はどのくらいの頻度で体重を測るべきなのだろうか? その答えは単純ではないようだ。米国心臓協会(AHA)によれば、体重を測定する頻度は専門家の間でも意見が分かれているという。
昨年11月に開かれたAHAの年次集会では、毎日の体重測定が体重管理に有益とする研究結果が発表された。1042人の成人を1年間にわたり追跡した結果、週に1回以下の頻度で体重を測った人では体重が減らなかったのに対し、週に6〜7回測った人では、体重が平均で1.7%減少したことが分かった。
この結果について、米国のAmy Walters氏は「こうした行動はセルフモニタリングと呼ばれ、あらゆる種類の行動変容に適用できるエビデンスに基づいた方法の一つだ」と指摘する。同氏は「自分の行動の変化を把握することは、責任感を持つようになるだけでなく、フィードバックを得てモチベーションの源にもなる。つまり、“計画通り実行すれば、変化は本当に現れる”ということが理解できるようになる」と説明している。
ただし、頻繁に体重計に乗り過ぎると、体重のことが頭から離れなくなってしまうこともある。Walters氏は「測定値にこだわり過ぎず、体重の変化に注目することが重要だ。体重を毎日測定しても変化がみられないと、気分が落ち込んだり、モチベーションが落ちたりする可能性がある」と指摘する。(1/28 HealthDay News)

NEWS ■アキレス腱断裂、手術・非手術とも再断裂リスクは低い

アキレス腱断裂の手術療法は、非手術療法に比べ、再断裂のリスクが有意に低いもののその差は小さく(リスク差:1.6%)、他の合併症のリスクが高い(リスク差:3.3%)ことが、オランダ・ユトレヒト大学医療センターのYassine Ochen氏らの検討で示された。アキレス腱断裂は遭遇する頻度が高く、最近の研究では発生率の増加が報告されている。観察研究を含まない無作為化対照比較試験のみのメタ解析では、手術療法は非手術療法に比べ、再断裂リスクが有意に低い(リスク差:5〜7%)が、他の合併症のリスクは16〜21%高いとされる。BMJ誌1月号掲載の報告。
手術療法には低侵襲修復術、観血的修復術が、非手術療法にはキャスト固定、機能装具が含まれた。アキレス腱断裂以外の合併症は、創感染、腓腹神経損傷、深部静脈血栓症、肺塞栓症などであった。
医学関連データベースを用いて、アキレス腱断裂の手術療法と非手術療法を比較した無作為化対照比較試験および観察研究を選出した。データの抽出は、4人のレビュアーが2人1組で、所定のデータ抽出ファイルを用いて別個に行った。アウトカムは変量効果モデルを用いて統合し、リスク差、リスク比、平均差と、その95%信頼区間(CI)を算出した。
再断裂率(29件[100%]で検討)は、手術群が2.3%と、非手術群の3.9%に比べ有意に低かった(リスク差:1.6%、リスク比:0.43、95%CI:0.31〜0.60、p<0.001、I2=22%)。
合併症の発生率(26件[90%]で検討)は、手術群は4.9%であり、非手術群の1.6%に比し有意に高かった(リスク差:3.3%、リスク比:2.76、95%CI:1.84〜4.13、p<0.001、I2=45%)。合併症発生率の差の主な原因は、手術群で創傷/皮膚感染症の発生率が2.8%と高いことであった(非手術群は0.02%)。非手術群で最も頻度の高い合併症は深部静脈血栓症(1.2%)だった(手術群は1.0%)。(1/21 ケアネット)

NEWS ■医師は、余命の予測は短く言うもの

慶應義塾大学看護医療学部教授・加藤眞三氏は医師の余命告知を真に受けてはいけない理由のなかで、死期の予測はむずかしいという点で、以下のように述べている。
—医師による余命の予測は、そもそもあたらないものですが、余命を聞かされたときに、気をつけておくべきことが1つあります。それは、医師は予測よりも短めに伝えがちということです。
余命の予測を短く伝えて、患者さんがそれより長生きされれば問題は起きませんが、長く伝えて短期間で亡くなられてしまうと、患者さんにも遺族にも恨まれることになります。あるいは、余命を短めに伝えておいたほうが医師から奨める治療に早く同意するからという要因も無視できません。そのような背景もあって、医師は自分の予測よりも短く伝えることになりがちです。
患者さんや家族に余命を尋ねられたときの医師の思考を考えてみたいと思います。聞かれたとき、医師は正直に「解りません」と答えることは難しいのです。ある種の勇気が必要となります。なぜなら、「この医者は余命も解らないのか」と医師としての経験や技量が疑われてしまうからです。
それを避けようと、医師は勘をはたらかせて「あと何カ月」などと答えてしまいます。どちらかと言えば、医師の自己防御的な余命の告知です。
一方、患者さんが聞いてもいないのに、「このままで放っておけば、あと3カ月の命です。手術をすれば…」といったように余命を伝えようとする医師もいます。医師が自分の勧める治療に少しでも早く持ち込みたいという気持ちが強ければ、いわゆる「おどしの医療」として余命を短く伝えてしまうことになります。主導権をにぎって患者に早く決断してもらいたいからです。
患者さんは即断をせず、冷静になる時間をとり、できる限りの情報を集め、自分が何を大切にするのかという本心を確かめ、信頼できるほかの人とも相談したうえで決めたほうがよいでしょう。
断定的に死ぬ期日を伝える余命告知はあたらないし、聞かないようにしたほうがよいのです。もし、乱暴な口調で医師に余命を告げられたとしても、信じ込まないことです。余命なんて、実は誰にも解らないことなのですから。AIを使って、病気の予後を予測計算させるという試みは始まっており、今後確率的な精度は多少上がってくるでしょうが、それでも断定的な余命の予測はできないものと考えたほうがよいでしょう。(2/14 東洋経済オンライン=一部)


■次号のメールマガジンは3月15日ごろの発行です。
(編集人:北島憲二)


[発行]産学社エンタプライズ