エンタプライズ発信〜メールマガジン【№69】 2017. 1
正月を過ぎてやがて大寒の時節です。ここ数日は寒波が押し寄せており、暦・二十四節気の巡りはさもありなんと実感しているところです。寒い夜は寝つきが悪くなるというものですが、その工夫はそれぞれあるとして、睡眠時間の短さが肥満リスクを増加させるメカニズムを、早稲田大学スポーツ科学学術院と花王㈱が解析しました。リサーチではメタボリックチャンバー(24時間代謝測定室)を活用し、ヒトのエネルギー代謝を日常生活に近い環境で、平均年齢23.2歳の健康な男性9人を対象に3日間にわたって常時モニターしました。その結果、睡眠時間が減ると、夜間のエネルギー消費量の増加にもかかわらず1日のエネルギー消費量は有意に変化しないことが判明。一方で、睡眠時間の短縮は「食欲抑制ホルモンの減少」や「空腹感の増加」など、食欲への影響があることが明らかになりました。睡眠時間の減少が肥満につながるとういうこれまでの見解を裏づけることができたと考えられています。1年ほど前に、幼児期の睡眠不足は思考力や理解力など認知能力の遅れを招いたり、イライラしたり落ちつきがなくなるなど、精神症状に悪影響を及ぼすというレビューがありましたが、成人では肥満による心臓への負担、膝や腰への負荷、高血糖や高血圧ほかの生活習慣病の誘因など由々しき疾病懸念が現出します。先の厚生労働省の調査では、日本人のおよそ4割の人が睡眠時間6時間未満で過ごしていることが分かっています。睡眠時間については老若男女、百家争鳴であるかとは思いますが、いずれにしても質が大切だと考えますので、各々の工夫にお任せしたいと思います。ちなみに編集子は、布団が凍えそうなときはドライヤーで足部を暖めます。およそ5分以内には深眠につきます。。。
★☆★━━━━━━━━━━■ CONTENTS ■━━━━━━━━━━━★☆★
【1】エネルギー医学の将来〜期待される今後の研究
【2】“こころ” と “からだ”……臨床にモノ思う。
【3】伝統医学をシルクロードに求めて 〜チベット医学
【4】根拠に基づく腰痛の原因と治療 《腰痛治療の新常識》
【5】“連動操体法”について、ちょっとばかり…
【6】N・E・W・S
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Information
日時:1月25日(水)・26日(木) 10:00-17:00
会場:東京ビッグサイト西3・4ホール
東京都江東区有明 3-11-1
入場費:3,000円 ※招待券持参者、来場事前登録者は無料
主催:UBMメディア株式会社
後援:日本統合医療学会、日本補完代替医療学会、特定非営利活動法人日本ホリスティック医学協会ほか
<主な注目セミナー>
「日本の医療の課題と統合医療について」
川嶋 朗氏(一般財団法人東洋医学研究所附属クリニック 自然医療部門担当)
〜我が国の医療課題と、統合医療はどうあるべきかについて講演〜
「脳と意識の統御の医学」としての養生医学
亀井眞樹氏(医師・臨床思想家)
〜テレビ出演を通じて統合医療の普及に尽力。養生医学の指針に。〜
「抗加齢医療におけるサプリメントの活用〜アンチエイジングクリニックの実際の処方から〜」
満尾 正氏(満尾クリニック 院長、日本抗加齢医学会 理事)
〜科学的な根拠に基づいたサプリメントの使用方法について解説〜
◎連載vol.27
エネルギー医学の将来 〜期待される今後の研究
<小社編集部編>
《 Extra issue 》 〜エピローグ〜
筆者が行っているエネルギー医学のワークショップでは、人々の輪を流れるエネルギーをできるだけ学問的に説明しようと心がけている。このコラムで以前紹介したエネルギーサークルは、エネルギー場の相互作用を調べるための「基礎実験」である。エネルギーサークルの歴史は古く、ヒーリングや入信の手段として多くの民族に用いられてきた。筆者がワークショップを開く際には、過去の催眠術ブームやそれをめぐる論争を十分に踏まえたうえで、客観的な実験を行っているという雰囲気を絶対に壊さないように配慮している。筆者は一人の科学者として一群の人々の意識や心臓への意識集中、人々の意志、そしてヒーリングの生理学などを総合的に研究するためにエネルギーサークルによる実験を始めたのだ。
エネルギーサークルをカリスマの芝居じみたパフォーマンスではなく、客観的な実験にするためには、いくつかの工夫が必要になる。まず進行役は参加者が輪になることによって、エネルギーの流れる「回路」をつくるのだということを全員に認識させる。次に進行役は姿を隠して、参加者自身にこれから起きる出来事を観察させ、実感させる。もし治癒力や意志の発信源のような人が一人でもいれば、その人は進行役から外し、ほかの参加者からできるだけ無作為に進行役を選んだ方が良い。
たいていのワークショップでは、両手に感覚を集中させる手順を参加者に教えることから始める。それから何らかの治療困難な問題を抱えた人を被験者としてとして選び出す。被験者がどのような問題を抱えているかということは、ほかの参加者に知らせてはいけない。被験者が治療台の上に寝たら、参加者は順番に治療台に近づいて、被験者の頭から足へと両手をかざしていく。全員が「患者」についての評価を終えたら、各人の評価を比較してみる。当然のことながら、参加者の大半は同室にいる誰とも面識はなくとも患者の問題の部位を言い当て、人によっては何が問題なのかまでを言い当てることがある。また患者のほうは、参加者全員が手をかざしていっただけで、症状が著しく改善されるのを感じることが多い。
磁気液や催眠術のメカニズムを証明しようとする試みは、さまざまな紆余曲折を経て、今また振出しの地点に戻ってきたようだ。これから始まる試みは、生体の防御機能や修復機能の制御システムや、細胞の無秩序な分化を阻止するシステムに対して、磁気や電磁気がどのような作用を及ぼしているかということを、正確に解明することが目的だ。
現在行われている研究は、補完代替医療への関心がきっかけで始まったのではなく、この20年ほどの間に別々のグループによって行われてきた個々の研究が、今も続いているだけのことなのだ。人間には知識をカテゴリーの枠には嵌めたがる傾向があるので、エネルギー医学に深く関わる研究をしている科学者の多くは、自らの研究がほかの分野でどれほど評価されているかを知らないし、自身がエネルギー医学の科学的基礎をつくりだしていることにも気づいていないだろう。(次号につづく)(出典:『エネルギー医学の原理』 小社刊)
★連載エッセイ ㊲☆
“こころ” と “からだ” …… 臨床にモノ思う。
・保井志之(ファミリーカイロプラクティック院長、DC)
「疾病利得」にも対応できる治療者を目指して(後編)
PCRT(心身条件反射療法)では「無意識」という慢性症状の本質を対象に検査をしているため、「疾病利得」をある程度の客観性をもって判断できる検査手法があります。その検査をするか否かは、術者の判断と患者さんの同意によります。この検査をする前提条件として、治療者と患者との強い信頼関係、それに加えて、患者自身がそのことを認識し、その「疾病利得」サイクルから抜け出すことで、将来的にそれを超える利益を得られるということが求められます。
その利益とは、表面的な利益、すなわち頭だけで求めている利益ではうまくいきません。意識的にも無意識的にも、心の底から求めているということが必須条件になります。つまり「疾病利得」とは、症状や病気を繰り返す負のサイクルパターンの中で、何か得られるものが潜在的にあるということです。よって、そのパターンから抜け出すためには、負のパターンにとどまる以上に得られる利益が必要になってくるということです。
「疾病利得」に対する患者さんへのアプローチは、治療者にとっても、患者さんとの信頼関係を無くすかもしれないというリスクを伴うものです。この分野へのアプローチを試みる場合、ある程度のPCRTの熟練と経験が必要です。単に、患者さんにそのような傾向があるからと言って、すぐにアプローチできるようなテーマではありません。
上記のような情報のお膳立てができていて、しかも、患者さんがそのパターンから心の底から抜け出したいという意向がある場合に限って、PCRTではコーチング手法を織り交ぜながら患者さんをサポートすることができます。
PCRTという治療法は、本質的なアプローチを行うために、熟練すればするほど、無意識が引き起こす症状や病気につながる生体反応や行動パターンが見えてきます。見えるからと言って、すぐにアプローチできるとは限りません。負のサイクルから抜け出す準備と条件が患者さんに満たされているということが前提として必要になるということです。
「疾病利得」という厄介な問題に触れなければ悩む必要もないかもしれません。しかしながら、本質を見ようとする治療者であれば、避けて通れない課題だと思いますし、「疾病利得」へのアプローチに挑戦する価値は大いにあると思います。
すべては患者さんが選択することなのですが、単に心の問題として切り離すのではなく、患者さんに寄り添いながら、負のサイクルから抜け出す選択肢を提供できる治療者であるのかが重要な課題だと思います。自然治癒力の関係する慢性症状を対象とする治療者にとって、心と身体の関係性を検査し、治療できる知識と技量の研究は生涯のテーマだと私は思います。
《連載51》
伝統医学をシルクロードに求めて
池上正治(作家・翻訳家)
(前号よりつづく)
ソンツェン大王が大量の留学生をインドに派遣した背景には、仏教経典を自国語に翻訳するという必要性があったようだ。だが、高所で、寒冷のチベットと、灼熱のインドとの自然条件はあまりにもギャップが大きく、留学生のほとんどが熱病に罹って死んだという。生きてチベットに帰ってきたのはトンミ・サンボタただ一人であった。
帰国したトンミはのちに大臣になり、新たにチベット文字を考案し、チベット語の文法をつくり、チベット語の仏典を編んでチベット文化の発揚に努めた。このトンミ・サンボタの業績があまりにも多岐にわたるためであろうか、複数の人たちの「集合名」ではないかとする学説がある。その真偽のほどは明らかではないが、7-8世紀、彼に代表される人たちが、インドとの文化や学術の交流を精力的に推進したことは歴史的な事実である。
政略結婚はあるものだ。漢代には匈奴のコカンヤ単于(ぜんう)に嫁した王昭君の悲話がある。文成公主の場合、ある意味ではもっと悲劇であったかもしれない。ソンツェン・ガンポが国づくりに成功して自信をつけ、唐に対して王女、つまり公主を嫁に迎えたいと申し出たのは、634年のことである。唐の太宗は吐蕃(とばん)の軍事的脅威を認めており、640年10月、文成公主を差し出すことにした。唐朝の表現によれば「降嫁」である。だが、ソンツェン王はすでに王位を息子のグンソン・グンツェンに譲っており、彼女が嫁したのは新王のもとであった。もっとも政略結婚の犠牲者であった文成公主からすれば、どうでもよかったことであろう。
現在の青海省東部、省都の西寧(シーニン)から西へ約100km、青海湖の東南にある日月峠は、文成公主が太宗から賜った日月宝鏡を見つめながら、長安の人たちに心の別れを告げ、再び馬上の人になった場所とされている。一帯ではすべての河川は西へ、吐蕃の方向へと流れるのだが、彼女の流した涙でできた一筋の川、倒淌河(タオシャンホー)は、逆に東に向かって流れることになった、と伝説にある。
文成公主とグンソン王とは、現在の四川省に近いカム地方(昌都)にある城で新婚生活を送った。2年後には王子が誕生したことからすれば、それは仲むつまじい生活だったと考えられる。不幸は、グンソン王が落馬死したことから始まる。ギャサというチベット名で呼ばれるようになった文成公主は、泣く泣くチベットの中央へと赴くことになる。ラサにラモチェ(小昭寺)を建て、唐土から釈迦牟尼像を迎えて、亡き夫の菩提を弔ったのであった。しかし、グンソン王の事故死により再び王位に就いたソンツェン王の要求を入れ、彼女は3年の服喪の後、亡き夫の父と再婚したのであった。数え年でいえば66歳の老王が相手であった。文成公主は『医薬大典』をはじめとする唐の医薬学書をチベットにもたらした。(つづく)
根拠に基づく腰痛の原因と治療 – 腰痛治療の新常識(44)
長谷川淳史(TMSジャパン代表)
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腰痛、むち打ち症に関する正確な情報には想像を絶するほどの治癒力があります。どうか情報の拡散にお力をお貸しください。
■【モビリゼーション】限られたエビデンスからモビリゼーション(瞬間的に外力を加えることなく可動制限がある関節の可動域を無理なく徐々に広げて行く他動的ストレッチ)は、WAD(むち打ち関連障害:whiplash-associated disorders)の治療とし
て用いることができる。http://1.usa.gov/LYNegq
……腰痛疾患と同じようにWADに対しても安静にさせず活動化を促す方法が推奨されます。
■【運動】限られたエビデンスからROM(関節可動域)運動はただちに実行されるべきである。痛みが激しい時は休み休み行なう必要があり、症状の悪化がみられた場合は臨床的判断が重要である。http://1.usa.gov/LYNegq
……活動性を促す運動は受傷後4日以内から始めても有効性が認められています。むち打ち症も腰痛疾患と同じで、とにかく安静にさせないことが鉄則です。
■【姿勢のアドバイス】限られたエビデンスからWADにおける姿勢に関するアドバイスは他の活動的な治療法の併用療法として処方することができる。ただし具体的にどのようなアドバイスが有効かについては不明。http://1.usa.gov/LYNegq
……実は姿勢のアドバイスに関するRCT(ランダム化比較試験)は存在しません。アドバイスに関する研究の一部として姿勢を取り入れたものがあるだけです。
■【スプレー&ストレッチ】トリガーポイント療法で行なわれるスプレー&ストレッチ、すなわちコールドスプレーによって瞬間冷却した後に筋肉をストレッチする方法は、WADの治療に勧められない。http://1.usa.gov/LYNegq
……トリガーポイントといえばスプレー&ストレッチが付きものですけど、残念ながらWADには効果がないようです。
■【牽引】限られたエビデンスからWADにおける頚椎牽引は他の可動域を広げる治療法の併用療法として用いることができる。急性期(受傷後4日以内)なら一時的に症状を改善する可能性がある。http://1.usa.gov/LYNegq
……RCTで証明されたわけではないものの、腰痛疾患と違ってむち打ち症には牽引が有効かもしれません。だからといってダラダラと続けるのは良くないでしょう。
■【物理療法】1)グレード1に対するプラシーボ対照試験でPEMT(パルス磁気療法)の有効性が認められたものの、3ヶ月にわたって1日8時間のソフトカラーを装着させた研究だったことからWADの治療として勧められない。http://1.usa.gov/LYNegq
……申し訳ありません。物理療法の専門家ではないのでPEMT(パルス磁気療法)のことが分かりません。WADには勧められないとありますが、どんな方法なのかご存知の方がいらしたら教えていただきたく存じます。
■2)グレード2と3に対するその他の物理療法(温熱・アイシング・マッサージ・低周波・超音波・レーザー・短波ジアテルミー)は、受傷後3週間以内なら通常生活への復帰を目指した活動性を促す補助手段として用いることができる。
http://1.usa.gov/LYNegq
……どんな物理療法を用いるにせよ、受け身的な治療法に頼るのではなく、普段どおりの生活を送って可動域を広げていくという攻めの姿勢が重要だということです。腰痛疾患とまったく同じです。
【連載コラム】
“連動操体法”について、ちょっとばかり… (69)
根本 良一(療動研究所主宰)
【 連動操体法の応用編 】
[6] 手・腕の異常
2)手首の異常
手首の異常は、スポーツ障害など手を酷使する人の頚腕障害とか、コンピュータプログラマーなど腰の姿勢も含めた「書痙」と言われる字を書く人、楽器奏者などの手指の障害も含まれる。この手首の異常の場合も、
・大腰筋の緊張による大腿二頭筋の硬さ
・内腿屈筋側から頚背部経由で、首、手という流れ
・上の頚背部から肋間神経経由で腹筋(外腹斜筋、腹直筋)が緊張して姿勢を悪くし、頚腕障害の原因をつくることがある
・足指基部からの連動を見る。手と指に関連する部分は、元を探れば足からの影響が強く顕れる。大腰筋の操作で手指が開く。足指基部の操作で手指が開くなど、遠方からの影響が連動している場合が多い
3)テニス肘
頚腕障害の一種で、前腕から肘へかけての異常を言う。痛む部位が肘だけに手・腕を酷使するからだと思われるが、それだけの問題ではない。テニス、バドミントン、卓球などの場合、ラケットの要因以外に共通して言えることが以下のように3つある。
a)グリップの仕方
肘の周辺は、指、手首を動かす筋群があるため、指先に力が入りすぎると指関節が浮いて手が密着せず不安感があるので、さらに力が入るという悪循環に陥る。こうした局所の緊張が頚部まで連動し、さらに腰〜足にまで及ぶことになる。
b)肩を一方にだけまわす(一側運動)
利き腕だけを多く使うため、左右対称にある動作筋、すなわち本例の場合は外腹斜筋、内腹斜筋、大腰筋などの一方だけが疲労して歪みが生じると、連動して全身的な歪みが起きてくることが多い。
肘が痛いとき、仰向けに寝て両膝を立て、楽な方へ膝をいっぱいに倒すとバランスがとれて痛みが軽快する。
N E W S
アリゾナ大学の研究チームが、長距離走競技ランナーたちの脳と、エクササイズをしない人たちの脳を比較したところ、ランナーの脳は、計画性、抑制力、観察力、注意力の切り替え、マルチタスキング、運動制御などの認知機能に関わる脳の領域が活発化していると『Frontiers in Human Neuroscience』誌に発表した。
発表によれば、研究チームは、大学生の競技ランナー11人と1年間まったくエクササイズをしなかった被験者11人の脳の活動をMRIで6分間調べた。その結果、思考力が高まると脳の活動量が多くなるランナーの脳の領域は、記憶、意思決定、情報処理に関わる領域と互いに連絡を取り合っていた。また、注意力が低下すると脳の活動量が少なくなるランナーの脳の活動量は、非ランナーよりも少なかった。つまり、ランナーは非ランナーよりも集中力が高いと考えられる。
研究共同著者である神経科学者のGene E. Alexander氏は、この研究結果を踏まえ、「ランニングは一見頭を使わない単純作業のように見えるが、実は脳が複雑な指示を出し続けている」と指摘する。ランナーは、周囲の環境を把握しつつ、どこに向かって走るのか、体調はどうかなど、過去のランニングの記憶から得られるさまざまな情報を脳に再現しながら意思決定している。
さらにランニングは、体を鍛えながら脳も鍛えるという。脂肪の燃焼、筋力の強化、体力の向上を促しつつ、体も脳も人生も鍛えてくれる。有酸素運動は脳を活性化するのだ。また記憶や空間学習能力などの脳の認知力を司る海馬は、新しい記憶を集めて整理し大脳皮質へ送るので、記憶が定着する。海馬は、欲望やストレスを司る視床下部が暴走しないようにコントロールするため、海馬を活性化すればするほど、脳の認知機能や記憶力が高まり、ストレス耐性も強まる。ただ、速いペースで走り過ぎるとストレスを司る視床下部を刺激するので、時速7〜8km程度のイーブン・ペースがベストだという。(1/12/2017 Health Press)
年間11万人もの命を奪っている脳卒中(脳梗塞や脳内出血などの脳血管疾患)。埴岡健一・国際医療福祉大学大学院教授は、全国344の2次医療圏(特殊な医療を除く、入院治療を主体とした一般の医療需要に対応するために設定する区域。一般的には都道府県内をだいたい5〜10のエリアに分けている)ごとに、年齢構成などを補正した後の脳卒中の死亡率(標準化死亡比)を割り出し、男女とも、最大約2.5倍の地域格差があることがわかった。1月10日発売の『中央公論』2月号で全リストを公表した。2次医療圏ごとの死亡率が明らかになるのは初めて。
脳卒中は患者の搬送体制、受け入れ医療機関までのアクセス時間、医療機関の設備や医師の技量が文字どおり致命的に重要となる。調査によると、男性でいえば、全国を100として示す死亡率は、最低の大阪府豊能(池田市、箕面市及び周辺部)が67.2なのに対し、最高の岩手県宮古(宮古市及び周辺部)では167.9だった。女性では、最低が香川県小豆(小豆郡)の62.6、最高が秋田県湯沢・雄勝(湯沢市、羽後町など)の160.6だった。脳卒中のリスク要因は、喫煙習慣や塩分の取り過ぎによる高血圧などが知られ、死亡率も塩分摂取が多い東北などで概して高い。しかし、東京・西多摩地区や栃木、茨城などにも高い地域がある。
同じ都道府県内でも、地域によって格差が生じている。例えば福井県の男性死亡率は、都道府県単位では低い方から5位と優良だが、2次医療圏で比較すると、丹南(鯖江市、越前市及び周辺部)の79.5に対し、隣接する奥越(大野市、勝山市)が128.9と1.6倍も格差があった。こうした格差がどこから生じるのかについて、医療ジャーナリストの福島安紀氏は、同誌2月号の「東北だけじゃない!なぜ、西多摩、茨城、栃木は死亡率が高いのか」の中で、医療体制の差が反映している可能性を強く示唆している。また、予後のクオリティー・オブ・ライフを大きく左右するリハビリ機関の状況についてのルポも掲載されている。(1/10/2017 読売新聞)
うつ病になって病気休暇を取った大企業の社員の約半数が、復帰後に再発し、病気休暇を再取得していたとする調査結果を、厚生労働省の研究班(代表者、横山和仁・順天堂大教授)がまとめた。特に復帰後2年間は再取得する人が多かった。仕事の負担が大きな職場ほど再取得のリスクが高いことも裏付けられた。専門家は社員の職場復帰について、企業が慎重に取り組むよう訴えている。
調査は、社員1000人以上の大企業など35社を対象に、2002年4月からの6年間にうつ病と診断され、病気休暇を取得した後に復帰した社員540人の経過を調べた。その結果、うつ病を再発して病気休暇を再取得した人の割合は、復帰から1年で全体の28.3%、2年で37.7%と高く、5年以内で47.1%に達していた。職場環境について、仕事への心理的な負担を調べる検査「ストレスチェック」を職場メンバーに実施した結果、負担が大きいと感じる人の多い職場ではそうでない職場に比べ、病気休暇の再取得のリスクが約1.5倍高かった。
休暇期間では、1回目の平均107日に対し、2回目は同157日と1.47倍に長くなっていた。1回目の休暇期間が長い場合や、入社年齢が高くなるほど、2回目の休暇が長くなる傾向もみられた。
調査した東京女子医大の遠藤源樹助教(公衆衛生学)は「うつ病は元々再発しやすい。企業は、病気休暇の再取得が多い復帰後2年間は、特に注意を払い、時短勤務などを取り入れながら、再発防止に努めてほしい」と指摘している。(1/8/2017 毎日新聞)
立ち上がるときの心拍数の変化をみると、高齢者が今後数年以内に死亡するリスクがわかる可能性があることが、アイルランドのダブリン大学トリニティ・カレッジのCathal McCrory氏らの研究で示唆された。人間が立ち上がると心拍数は増加し、その後で元に戻る。McCrory氏らによると、立ち上がってから20秒以内に心拍数が回復する速度が、高齢者の4年以内の死亡リスクを予測するという。
今回の研究は、50歳以上のアイルランドの成人約4500人を対象としたもので、心拍回復が最も遅い人は最も早い人に比べて、4年以内に死亡する可能性が7倍高かった。
年齢、糖尿病、肺疾患、社会経済状況、食事、体重など他の因子を考慮しても、回復が最も遅い人が試験期間中に死亡する可能性はやはり2.3倍高かった。McCrory氏は、「立ち上がりのときの心拍数の回復速度は、健康と生命力の重要なマーカーであり、病院などの臨床現場でごく容易に評価することができる」と述べている。
研究著者の1人は、「横になるか座っているところから立った姿勢になることは日中繰り返す動作であり、心臓系に対して安定した血圧と心拍を維持し、心臓系にかかるストレスを抑えるという課題をもたらす。心拍の回復力は、個人にあわせた運動を取り入れるなど、簡単な方法で改善できる可能性がある」と述べている。(1/6/2017 HealthDayNews)
世界的なタバコ規制プログラムは、2008〜2014年に88カ国5300万人の禁煙を助けたことが、米ジョージタウン大学ロンバルディ総合がんセンター腫瘍学教授のDavid Levy氏らの研究で示された。この喫煙率低下により、対象の国々で2200万人以上の生命が救われたことになるという。
今回の研究は、2005年に始まったタバコの規制に関する世界保健機関の枠組条約(WHO FCTC)の影響をレビューしたもの。2015年時点で186カ国がこの枠組みを承認しており(米国は承認していない)、88カ国以上がその政策の1つ以上を発効していた。禁煙に有効な対策として、同氏らの推定によれば、高いタバコ税が700万人、禁煙法が540万人、健康被害警告が410万人、販売禁止が380万人の生命を救うことに有用であり、禁煙への取り組みは150万人の生命を救うことに寄与したという。この数字は、バングラディッシュ(健康被害警告、高い税)、ロシア連邦(禁煙法、広告の制限)、ベトナム(健康被害警告)で最近、政策が実施されたことで高まったという。Levy氏は、「今回の結果は、効果が証明されているタバコ規制政策を実施することで、何百万人もの生命を救える持続的かつ大きな可能性があることを示している」と述べている。(1/4/2017 HealthDay News )
わかさ出版は昨年11月、40歳以上の男女601人を対象にインターネットで「体の悩みは何か」を尋ねたところ、601人のうち208人が「腰痛」と回答した。年代別に見ると40代では35.7%、50代では36.9%、60代以上の30.1%が腰痛に悩みを持っているという結果になった。60代以上よりも、実際は40代-50代の現役世代の方が、腰痛に悩んでいる割合が高い。アンケートでは、簡易的に抑うつ病の傾向がチェックできる「SPQ-D 東邦大式調査表」を用いて、抑うつ傾向を調査した。その結果、腰痛に悩んでいない人は「抑うつ傾向あり」が10.9%であったのに対し、腰痛に悩んでいる人は25.0%で、2.29倍も高いことが明らかになった。
調査を監修した清水整形外科クリニック院長の清水医師によると、「慢性的に腰痛に悩む患者はどうしても気分が落ち込みがち」であるという。「この痛みがずっと続くのか」など、悩みは異なるが、腰痛を起因として不安・ストレスを感じて、抑うつ傾向になってしまう患者も多く見受けられるとのこと。清水医師は、「運動で腰痛の予防・対策をする人が多いが、多くの人は『痛みが消えたからもういいだろう』と考えてしまうことが問題」と話す。本当に大切なのは「腰痛の出ない体づくり」を継続して行うことであるという。「腰痛がないときでも、日常的にマッサージや運動を継続することで、痛みの出ない体づくりをすれば、腰痛の再発が防げ、のちのち腰痛が悪化して日常生活に支障が出るような事態も避けられるでしょう」とコメントしている。(12/26/2016 マイナビニュース)
女性の死因のうちアルツハイマー病の死亡率が上昇し、2015年には死因順位の中で上位10位の中に初めて入ったことが、厚生労働省がまとめた人口動態統計(確定数)で明らかになった。死亡率は統計上、年々上昇しており、専門家はアルツハイマーについても認知症としてだけでなく、死亡率の高い全身病として認識を改める必要性を訴えている。厚労省は同統計の死因について、直接の死亡原因となった病気などの事象を引き起こす元になった疾病と定義。例えば、直接の死因が肺炎など別の疾患でも、それを誘引したのがアルツハイマーなら、アルツハイマーを死因と見なす。
同統計によると、15年の男女合わせた死亡者数は1万544人、死亡率(人口10万人対)は8.4だった。2000年には0.7だったが、10年には3.3と上昇している。男性は、2000年に0.5、10年2.5、15年5.4と徐々に高くなってきたが、女性では2000年0.8、10年に4.1となり、その後も11年5.5、12年7.0、13年8.5、14年10.0と上昇が顕著で、15年には11.2と死因の10位にランクされた。男女共に死因の1位は悪性新生物、2位が心疾患。その他、肺炎、脳血管疾患などが上位を占めて、大きな違いはないが、女性の場合はアルツハイマーのほかに血管性等の認知症の死亡率も男性より高く、15年は12.4と前年に続いて9位だった。男性は、5.2で10位までには入っていない。
ベスリクリニック(神経内科・精神科・内科・心療内科)院長の田中伸明氏は「アルツハイマーによる脳細胞の脱落で、認知機能だけでなく、運動機能、特に嚥下などの微細な運動をつかさどる脳神経細胞や、心臓や呼吸を制御する自律神経機能も落ちていく」と説明。その上で「認知だけでなく生体維持機能も低下する死亡率の高い病態」であるというように「認識を改める必要がある」と述べ、これからは、予防的対応を重視して、「基本の生活習慣、特に睡眠と運動」に注意を払うよう促している。(12/19/2016 CBnews)
高血圧リスクのある人の血圧降下にヨガが有効である可能性が、新たな研究で明らかにされた。研究著者であるサー・ガンガラム病院(インド、デリー)のAshutoshAngrish氏の研究で、血圧がやや高いほかは健康な被験者60人を対象として、ハタ・ヨガを実施する群(平均年齢56歳)と、従来の生活習慣改善のみを実施する群(対照群、平均年齢52歳)に無作為に割り付けた。生活習慣改善の内容は、中等度の有酸素運動、健康的な食事、禁煙などとした。ヨガ群は1カ月間ヨガの指導を受けた後、自宅でヨガ(ストレッチ、呼吸法、瞑想など)を1日1時間行った。
3カ月後、ヨガ群には著明な血圧降下が認められたのに対し、対照群には認められなかった。ヨガ群では、24時間拡張期血圧および夜間拡張期血圧が約4.5mmHg降下し、24時間平均動脈圧が約4.9mmHg降下した。「血圧の降下は大きくはないが、臨床的には大きな意味があると考えられる。収縮期血圧が2mmHg降下するだけでも、冠動脈疾患のリスクが6%、脳卒中(およびミニ脳卒中)のリスクが15%低減する可能性がある」と、Angrish氏は述べている。(12/18/2016 HealthDay News)
■本年もよろしくお願いいたします。次号のメールマガジンは2017年2月10日ごろの発行です。
(編集人:北島憲二)
[発行]産学社エンタプライズ