エンタプライズ発信〜メールマガジン【№35】2014. 3

東日本大震災から3年を迎えます。いまだ仮設住宅で暮らす多くの被災者がおられることは報道でも周知のことですが、単調な生活による運動不足の深刻度がクローズアップされています。石巻市・赤十字病院の医師らが仮設住宅に入居する498人を対象に調査した結果、43人(8.6%)が「エコノミークラス症候群」を発症していることがわかりました。原因は、日常的な仕事から離れた不活発な生活による運動量の低下です。このままではできた血栓が肺動脈に詰まって肺血栓を引き起こしたり、脳血管につまって脳梗塞を惹起しかねません。また動かないことによる廃用症候群も危惧されます。動かさなければ、筋肉、骨、皮膚は萎縮し、関節は固くなり、心臓や肺の力も衰えます。普通に歩いていた人も、足の力が落ちれば杖歩行から車いす生活を経て、ついには寝たきりになる恐れも…。この現状を見れば、医療関係者がなすべきことは明らかです。国や世論は心のカウンセリングに偏向することなく、ナマの体の療養指導を一段と強化するべきです。体を動かし、適度に疲労し、そして良質の睡眠を得て明日への希望を充実させることが健康を保障するのです。

★☆★━━━━━━━■ CONTENTS ■━━━━━━━━━━━★☆★

【1】カイロプラクティックの安全性に関するガイドライン
【2】“こころ” と “からだ”……臨床にモノ思う。
【3】伝統医学をシルクロードに求めて
【4】根拠に基づく腰痛の原因と治療 《腰痛治療の新常識》
【5】“連動操体法”について、ちょっとばかり…
【6】N・E・W・S

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■ 連載 3

カイロプラクティックの安全性に関するガイドライン

〜 Chiropractic Guideline-Safety 〜
<一般社団法人日本カイロプラクターズ協会>


カイロプラクティックの臨床業務

カイロプラクティックの安全性について言及する前に、カイロプラクティックの臨床業務内容とその背景にある身体の見かたを概説する。

1)カイロプラクティック治療の考え方
カイロプラクティックの臨床業務は、まず施術の適応と禁忌の判断に始まる。問診や様々な身体検査によって施術の適応と判断されれば、カイロプラクティック特有の見かたで身体所見を評価し、施術する。カイロプラクティックの臨床における最大の特徴は、施術の直接的な対象となる脊椎関節の所見をサブラクセーション(subluxation)と呼び、それに対して脊椎マニピュレーションを行うことである。脊椎に対する触診を中心としたカイロプラクティック検査によって得られた「身体所見」を治療し、結果的に症状の軽減や健康の改善が得られると考えている。カイロプラクティックは疾患や症状そのものを直接的に治すことを目的とした療法ではない。

2)身体所見の評価の実際
カイロプラクティックにおける身体所見の評価法で最も重要なのが触診である。カイロプラクターは静的触診と動的触診を行い、脊柱を中心とした関節や軟部組織の機能を検査することで、治療すべき関節の構造と機能の障害、すなわちサブラクセーションを評価する。その判断にはBergmannによる5つのカテゴリが有用な指標として用いられる。それはpain and tenderness(患者の痛みと部位、骨・軟部組織の圧痛)、asymmetry(姿勢の異常、脊椎分節のアライメントの異常)、ROM abnormality(部位別、分節レベルにおける可動性の異常)、tone, texture,and temperature abnormality(緊張状態、触感、温度の異常)、special test(脚長差検査、筋力検査、X線検査などの特殊なテスト)の5つの評価項目からなり、それぞれの頭文字をとってPARTS所見と呼ばれている。これらの所見から総合的にサブラクセーションを判断して施術する。ちなみに医学用語における形態学的な所見としての亜脱臼(サブラクセーション)は関節マニピュレーション治療の対象ではない。

3)カイロプラクティックで用いられる手技
脊柱マニピュレーションは、広義にはアジャストメントやモビリゼーションが含まれている。アジャストメントはコントロールされた力、てこの応用、方向、振幅、および速度によって特定の関節および隣接する組織に力学的な力を直接的に働きかける治療法で、高速低振幅の力を一定方向に作用させる「スラスト」が行われる。アジャストメントは、原理的には関節の可動域を他動的可動域から傍生理学的可動域まで動かす手技であり、関節の解剖学的な限界を超えるような力学的刺激は加えない。一方、モビリゼーションはスラストを加えずに関節を正常な生理的可動域の範囲内で動かす手技で、アジャストメントと併用することで臨床的に効果を高めている。
両者とも安全性への配慮が不可欠だが、危険性について特に問題視されるのはアジャストメントによる関節の解剖学的な構造や機能の障害である。しかし、安全性に十分配慮した手技訓練を受け、適応と禁忌を適切に判断できるWHO基準カイロプラクターが行うアジャストメントであれば、極めて安全性が高いと言える。
(次号へつづく)


★連載エッセイ ③ ☆

“こころ” と “からだ”……臨床にモノ思う

保井志之(ファミリーカイロプラクティック院長、DC)


心理的要因が腰痛に影響するのは当たり前の時代

先日、以前から通院している患者さんから新聞の切り抜きをいただいた。タイトルは「腰痛
  心理ストレスが誘発」。最近はこのような心理的因子が腰痛に関係しているという記事やテレビ番組がだんだん増えてきているようで、患者さんのほうからその話を聞かせていただいたりもする。ファミリーカイロでは10年以上も前から心理的因子と身体のバランスの関係性を改善させる治療法の研究を継続してきているが、ようやく世間一般ではそのことが当たり前になりつつあるように感じる。とはいっても、医学モデルの影響は根強く、心理的因子が身体に影響を及ぼすということは非科学的だという理由で敬遠する人も少なくはない。しかし、腰痛に限らず神経系‐筋肉系に関係するバランス異常は、80%以上は心理的因子が関係しているということは否定できない時代になるのではないかと思っている。

筋肉骨格系のバランス調整を目的にする治療者の多くは、心理的因子(ソフト面)は横に置いて、身体面(ハード面)だけにしか目を向けない傾向があると感じているが、将来はさらにソフト面とハード面の関係性に目を向ける治療者が増えてくることが予測される。
心理的ストレスというと、一般的にはネガティブな感情を思い浮かべる傾向があるかと思うが、心身条件反射療法(ニューロパターンセラピー)の研究では「喜び」や「意欲」などの肯定的感情も脳の誤作動を生じさせ、神経‐筋肉系のバランスを乱し、コリや痛みの原因になっていることが分かっている。昔から心身一如といわれるように、身体と心は切り離すことはでき得ない。心はとても複雑であるが、「刺激と反応」という視点でみればとてもシンプルなもの。ハード面とソフト面の関係性を視野に入れ施術することが当たり前になる時代にさらに貢献できるように、毎日の臨床現場で研究を継続していく必要性を強く感じている。


《 連載17 》

伝統医学をシルクロードに求めて

       池上正治(作家・翻訳家)


英国人の見たチベット医学(つづき)

――伝統的なチベット医師になるには、15年間の学校教育を受けなければならない。もっとも重要な資質は、精密きわまりない記憶力である。というのも、修行期間のうち少なくとも9年間は、4部からなるチベット医学教典『拠悉(きょしつ)』<ルグウド・ブジ=四部医典のこと>の暗記に費やす必要があったからである。学生は丸一日をかけてこの本を諳んじることもでき、試験官が勝手に取り出した一節を受け、それにつづけて暗誦できるほど、完全に暗記しなければならなかった。………
というものである。医師チンロブとウィニントンとが会見した部屋には、彩色した絵図と表が掛けられていた。大きな目をぎらぎらさせ、内臓がとんでもないところに描いてある人体図がある。女の心臓は男とは違ったところに描かれている。ある図には、若者と娘とのめぐり合いに始まる、妊娠と出産の全過程が描かれている。最後にウィニントンは「死の運命を担っている人間としての医者が、活仏の脈をとることが、なんら矛盾しているとは思われていない」ことを指摘し、「何ごとによらず、旧思想は新思想にぶつかって、精神的激動を起こしているのであるが、これがどのように解決されるかは、時の力に任せるほかはない」と結論している。

チベット医学は医学知識の博物館

1千年以上もの歴史をもつチベット医学のなかには、通俗的、迷信的要素と科学的な要素とが混在している。河口慧海の見た「神下(かみおろし)」やウィニントンの報告する「満月の夜の調剤」などは前者に属するもので、魔法や血の犠牲とともに、中央アジアのもっとも古い慣習と考えることができるだろう。しかしラマ医は、患者の尿を観察すれば、ある種類の病気については患者を直接に診察しなくとも処方の指示ができたという。古代中国人は尿検査を軽視していたし、中世ヨーロッパには尿占い師がいたことを考え合わせれば、これは、当時としては実に科学的方法であったといえる。
またチベット医学の解剖図は、時として中国のそれよりも念入りに描かれているという。そこには、人体をコントロールしている5つの中心(チャクラ)が図解されている。その中心部には心臓がある。心臓からは多くの導管が出て、躯幹部や四肢に延びている。これは明らかにインドの影響である。(次号につづく)


根拠に基づく腰痛の原因と治療 – 腰痛治療の新常識(9)

   長谷川淳史(TMSジャパン代表)
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【薬物療法】のつづき

(8) オピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)は限定的に使用されるのであれば急性腰痛患者の治療において選択肢のひとつとなるが、他の薬物療法で生じ得る副作用のリスクを考慮して処方すべきである(確証度C)。http://1.usa.gov/uhlYSO
……コデイン含有の薬(オピオイド鎮痛剤)の副作用は、便秘、めまい、倦怠感、集中力低下、視力低下、眠気、吐き気などがあり、身体的依存を招く危険性もあります。

(9) オピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)は、腰痛疾患の症状緩和においてアセトアミノフェンやアスピリン、あるいは他のNSAIDといった安全な鎮痛薬より効果的とは思えない(確証度C)。http://1.usa.gov/uhlYSO
……この当時(1994年)はRCT(ランダム化比較試験)が少なかったせいで低評価ですが、最新のガイドラインでは急性腰痛にも慢性腰痛にもオピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)を推奨しています。

(10) 医師はオピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)の反応時間の遅延・判断力の低下・眠気といった副作用によって、35%の患者が早期に服用を中断していることを知っておくべきである(確証度C)。http://1.usa.gov/uhlYSO
……コデイン含有のオピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)を服用している患者の35%がその副作用に耐えられないということです。

(11) 患者は身体的依存および車の運転や重機の操作など、オピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)の使用と関連づけられている副作用のリスクについて警告を受けるべきである(確証度C)。http://1.usa.gov/uhlYSO
……コデイン含有のオピオイド鎮痛薬(麻薬系鎮痛剤)を服用している方は、車の運転や重機の操作、空中ブランコなどは危険ですからおやめください。

(12) 経口ステロイド剤(ステロイド系抗炎症薬)は急性腰痛の治療として推奨できない(確証度C)。

(13) 経口ステロイドによる重大な副作用のリスクは長期間の服用や短期間の大量服用と関連している(確証度D)。http://1.usa.gov/uhlYSO
……ステロイドが効かないということは、どこかが炎症を起こして急性腰痛(ぎっくり腰)になるのではない証拠です。

(14) コルヒチン(痛風発作を抑える薬)の有効性を示す確たる証拠はなく、強い副作用の危険性があることから、急性腰痛患者(ぎっくり腰)の治療にコルヒチンは推奨できない(確証度B)。http://1.usa.gov/uhlYSO
……コルヒチンの副作用には、胃腸障害(下痢・嘔吐・腹痛など)、過敏症(痒み・発疹・発熱など)、骨髄抑制(再生不良性貧血・顆粒球減少など)があります。

(15) 抗うつ剤は急性腰痛患者(ぎっくり腰)の治療に推奨できない(確証度D)。http://1.usa.gov/uhlYSO
……最新の腰痛診療ガイドラインでは急性腰痛ではなく慢性腰痛の治療に抗うつ剤を推奨しています。


【連載コラム】

“連動操体法”について、ちょっとばかり… (35)

       根本 良一(療動研究所主宰)


8.腕の動きから 〜背部から胸部・腹部への連動(つづき)

また、ストレスによる血圧の上昇も、自分で両腕を組み、腕の角度を決めて、背部を広げる動作をすると安定してくる。そのほか、気を遣い過ぎると胃が痛む場合がある。胃は心の鏡と言われるように、気を遣い過ぎると上胸背部に緊張が起こり、そこから肋間神経→胸部、腹部へ及ぶからである。そのさいは背部を操作すると楽になる。これらの操作は、基準になるところを法則に従って動かすと、いくつかのところで連動するので、一つひとつ当たらなくてもその関連部に奏功する。実施にあたっては、直接この操法に入る前に、以前述べた内腿部下部および上部から背部へという動作を行い、体の動きを良くしてからの方が効果は大きい。十分に動くほど全身へよく連動して効果が倍増してくるので、無駄な操作にはならない。

◆1-肋間神経経由の操体法

・所期の肋椎関節運動軸へ張力の到達する腕の角度
胸椎の肋椎関節の張力をコントロールすることで、肋間神経をリラックスさせる。肋椎関節運動軸への角度を決めるが、体型により、肋骨の下垂角が異なるので、腕の角度で調整する。

・仰向けに寝て両膝を立てる
座ってでもよいが、寝た方が背の力が抜けるし、補助動作として膝を倒すときによい。また脱力後のリラックスを確保するためにもよい。腰部を安定させるために足の置き方も工夫してみる。

・操作の順序
①両腕を組み、動く運動器での上腕を押さえる。
②左右の選択
③腕の角度を決める。腹部を触診して硬さが消える程度。
④両肘を前に出し、背部を広げ、②で選ばれた方向へ内転させる。背部の位置へ息を吸い込み、肋椎関節を広げる。
⑤両肘の動く逆方へ両膝を倒す。操者は片肘で追随する方の脚を支える。
⑥十分開いたら、フーッと脱力する。
(次号につづく)


*** N *** E *** W *** S ***


NEWS ■砂糖は1日25gまで…炭酸飲料1缶でアウト


世界保健機関(WHO)は3月5日、砂糖の摂取量について、これまでの上限目標をさらに半分にする新指針案を発表した。WHOは、砂糖が肥満や虫歯の原因となり、慢性疾患にもつながるとして、2002年に食物から取り込む熱量(カロリー)のうち砂糖の割合を10%以下に抑える目標を設定した。新指針案では、これを5%以下とすることを求めた。これにより成人では、1日に摂取できる砂糖の適量がこれまでの「50グラムまで」から「25グラムまで」に減る。砂糖25グラムは紅茶用スプーン6〜7杯。炭酸飲料1缶には砂糖が約40グラム含まれ、軽く超してしまう。農林水産省の資料によると日本人1人当たりの砂糖消費は1日45グラム程度で、ほぼ半減しないと新指針案を満たせない。WHOは、今月末まで各国政府などの意見を聞いた上で、正式決定したい考えだ。(読売新聞 3/7)


NEWS ■筋トレでメタボ脱出、予防医療、医療費削減


メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)からの脱出で有効とされるのが筋力トレーニングだ。予防医療や医療費削減の観点からも推奨されている。研究の結果では、トレーニング群は血圧と血糖値、動脈硬化度で低下傾向になったのに対し、トレーニングしない群ではそれらの数値で有意な改善は見られなかった。メタボや生活習慣病の改善には食事療法と運動療法が両輪。同研究所健康増進研究部の宮地元彦部長は「食事療法単独では体重は落ちるかもしれないが、筋肉量の減少によって基礎代謝が減り、リバウンドしやすい体をつくることになりかねない」と指摘し、筋トレとの併用を勧める。部長は「筋トレは予防医療の一歩で、多くの人が取り組めば医療費削減にもつながる。高血圧などの人は医師に相談して、無理のない運動から始めるのがいいだろう」と話している。(産経新聞 3/6)


NEWS ■便秘症、中高年になると男性でも悩み


体調がすぐれないと思わせる不調の一つ、便秘症。中高年になると男性でも便秘の症状を抱える比率は高まる。便秘外来の受診者は50歳以上が多く、年齢が上がるにつれて男性の比率が高まり、女性と同数程度になる。受診者が自覚症状に挙げるのが、排便の時間が不規則▽トイレ時間が長い▽量が少ない▽残便感-で、定期的に排便したいとの要望が強いという。
厚生労働省の平成22年国民生活基礎調査によると、便秘症状を訴えた人を男女別・年齢別(対人口1000人当たり)でみると、女性は20〜24歳から55〜59歳までは40人前後で推移し、60歳を過ぎると段階的に増える。これに対し、男性は44歳以下は1桁、45〜59歳は16人以下だったのが、60〜64歳以降は急激に増加。70〜74歳で67.8人、75〜79歳では97.8人と女性同年代の101.7人に迫り、80〜84歳では116.5人と女性以上になっている。
食物繊維の不足による便の総量の減少も弛緩性便秘に拍車を掛ける。加齢で善玉菌が減少し、腸内環境は悪化する。改善のためには食生活をはじめとする生活習慣の見直しは必須。6時間以上の睡眠を取り、食生活は食物繊維を意識して摂取する。腸へ刺激を与えるためにも朝食はしっかり食べ、夜の食事は午後8時までに終わらせるか、できなければ量を少なくするのがポイントだ。(産経新聞 3/5)


NEWS ■禁煙は心の健康にも効く


禁煙は体の健康だけでなく、心の健康にとっても良い効果が期待できるという研究結果を、英バーミンガム大などのチームが英医学誌BMJ電子版に発表した。チームは、禁煙前と禁煙して少なくとも6週間たった後の精神的な健康状態を比べた過去の研究結果計26件をまとめて解析した。対象者の平均年齢は44歳で1日平均20本のたばこを吸っていた。その結果、もともと不安やうつなどを抱えている人たちでは、禁煙すると喫煙を続けた場合に比べて症状が軽くなり、健康な人でも生活の質が向上したことが分かった。チームは「うつ病など気分障害や不安障害での禁煙の効果は、抗うつ薬と同じかそれ以上」と指摘した。(共同通信 3/4日)


NEWS ■医食同源…独法設立へ。生活習慣病予防


政府は、バランスのよい食事を心がけ、薬への依存を減らす「医食同源」を推進するため、2015年4月に新たな研究機関「独立行政法人医薬基盤・健康・栄養研究所」(仮称)を設立する。薬と食品の関係について研究を進め、体系化を目指す。「医食同源」は、医(薬)も食も健康には大切で、源は同じだという考え。薬は食品との飲み合わせで、副作用が強く表れたり、少量でもよく効いたりする。例えば、血栓を防ぐ抗凝固薬「ワルファリン」とビタミンAを同時に摂取すると、薬の作用が強まったとの報告もある。健康食品やサプリメントの普及で薬と食品の境目が曖昧になっていることもあり、医薬基盤研究所(大阪府茨木市)と国立健康・栄養研究所(東京都新宿区)の2独法を統合して研究を一元化することにした。職員数は130人規模となる見通しで、本部は現在の医薬基盤研に置く。研究成果は公表し、生活習慣病予防に役立ててもらう。(読売新聞 3/2)


NEWS ■3割の子にPTSD症状、大震災2年後も


東日本大震災当時、岩手、宮城、福島で被災した保育園児のうち約3割に、震災から約2年経過した時点でも心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が見られたことが3月1日、厚生労働省研究班の調査で分かった。研究班の藤原武男国立成育医療研究センター研究所部長は「年齢が上がり、震災の恐怖や友人を失った悲しみなどを表現できるようになって判明したケースがあるのでは」と話している。大震災が起きた2011年3月11日に3県内の保育園の3〜5歳児クラスに在籍した198人と保護者を調査。12年9月〜13年6月に児童精神科医らが面接し、保護者が質問用紙に答えた内容を加えて診断した。その結果、33.8%の児童が睡眠障害やフラッシュバックなどを経験するPTSDの症状があると判明。比較のため調べた三重県では、同様の症状は3.7%にとどまった。(時事通信 3/1)


NEWS ■大気汚染物質 蔵王の樹氷、酸性度10倍に


山形大と東北大の研究チームがNASA(米航空宇宙局)の人工衛星MODISが撮影した画像を解析したところ、中国大陸からPM2.5を含む大気汚染物質が風に運ばれて日本に到達している様子を確認した。衛星画像では、北京上空に集まっていた大気汚染物質が日本海を越え、2月24日に九州、25日には東北に達したとみられる。分析したのは山形大理学部の柳沢文孝、東北大東北アジア研究センターの工藤純一の両教授チーム。柳沢教授は「別の画像で黄砂も確認されており、PM2.5が付着した“黒い黄砂”が日本に飛来したり、雨になると、PM2.5などの汚染物質を含んだ酸性雨となって降る可能性がある」と指摘する。
柳沢教授によると、高気圧と低気圧が交互に日本を通過する春の気圧配置になっており、日本の上空にある高気圧が通過すると、PM2.5の数値は下がる見通し。ただ、再び高気圧が移動してくると、大陸からPM2.5が運ばれて数値が上昇する可能性が高く、注意する必要があるという。柳沢教授らは、平成3年から山形の蔵王山頂で樹木が氷と雪に覆われる樹氷を採取して汚染状況を調べているが、2月16日から17日にかけて樹氷の酸性度が平均値の10倍に上がったことを観測。PM2.5はすでに樹氷に到達したとみている。(産経新聞 2/27)


NEWS■ 運転中の急病…脳血管・心疾患が5割


2012年に発生した、発作や急病など運転中などに起きた病気が原因の人身事故が少なくとも262件あったことが警察庁の調べでわかった。主な病名135件のうち生活習慣病とされる心臓病と脳血管障害の合計が5割強で、栃木県鹿沼市や京都市・祇園で死亡事故が相次いだてんかんを上回っていた。専門家は「てんかんに注目が集まるが、誰もがかかる生活習慣病もリスクが高い。運転時の体調管理で予防すべきだ」と指摘する。
警察庁によると、12年の交通事故発生件数は66万5138件。262件の内訳は、てんかんに起因する人身事故が63件▽脳血管障害54件▽心臓病18件▽その他127件--。脳血管障害と心臓病は、肥満や喫煙、高血圧や糖尿病などが引き起こすことで知られる。また、病気と交通事故の関連を研究している独協医大の一杉正仁准教授によれば、トラックなどの職業運転手が運転中に運転を継続できなくなったケースが04〜06年の3年間に211件あった。原因は、脳卒中などの脳血管疾患28.4%▽心筋梗塞などの心疾患23.2%▽糖尿病の低血糖などが原因とみられる失神8.5%▽てんかんなどの精神神経疾患4.0%--など。
生活習慣との関わりが濃い脳血管疾患と心疾患を合わせた割合は52%で、警察庁の調べと同様の傾向だった。死亡まで至ったのは76件で、心疾患と脳血管疾患で8割以上に上った。日本交通科学学会は2月25日、東京都内でシンポジウムを開く。糖尿病で服薬中の患者約2000万人のうち3%に運転中の意識の混濁経験があるといった実態報告もするという。(毎日新聞 2/24)


NEWS ■放射線を用いないがん検査に期待


放射線被曝なしに小児や成人のがん拡大の徴候を検査する新たな方法を米スタンフォード大学医学部Lucile Packard小児病院准教授のHeike Daldrup-Link氏らが開発した。まだ少数
の患者を対象にした試験しか行われておらず、本格的に利用する時期ではないが、今回の研究は全身スキャンの必要性と将来的ながんリスクとの兼ね合いという難題を解決できる可能性を示唆するものだと述べている。今回検討された新たな方法は、MRIスキャンとともに「造影剤」として鉄サプリメントの一種を使用し、体内を見えやすくする。今回の研究では、リンパ腫および肉腫のある8〜33歳の患者22人を対象にスキャンを実施した。その結果、新たな方法と、従来のPETとCTを併用する方法で見つかった腫瘍数に差はみられなかった(新たな方法で158個、従来方法で168個)。
Daldrup-Link氏は、「どちらの方法に基づいて治療決定を行っても、決定内容は同じものとなると考えられる」と述べている。費用もほとんど差はないという。Daldrup-Link氏は、放射線ではなく電波を用いるMRIスキャンでは副作用はないが、患者によっては造影剤に対するアレルギーがみられる場合もあると述べている。また、高齢者での有効性を知るため、さらに研究および試行を重ねる必要がある。現在、少なくとも全米6カ所の主要な小児病院でこの検査法に関する試験が開始されている。(The Lancet Oncologyオンライン版 2/19)


NEWS ■ウェブサイトを利用した医師選びが盛ん


車やテレビを選ぶときと同様、ウェブサイトの患者のレビューを参考にして医師を選ぶ米国人が増えていることが、米ミシガン大学医学部のDavid Hanauer氏らの研究で示唆された。Healthgrades.comや
RateMDs.comなどのウェブサイトでは、地域の医師についての患者のレビューを閲覧できる。多くの患者がその情報を利用している。年間25億回以上閲覧されるHealthgradesでは、ユーザーが医師のコミュニケーションスキル、スタッフの対応など、標準的な患者満足度調査に記入し、さらに医師の認定資格や施術内容など客観的な情報がみられる。米国人2,100人超を対象とした調査では、3分の2が医師を評価するサイトがあることを知っており、4分の1が過去1年間にそういったサイトを利用していた。この比率は以前の研究よりも高く、時間とともに増加していると思われ、より重要なのはサイトユーザーがこの情報を使って決断を下すことだという。ユーザーの35%は評価が高い医師を選び、37%は評価が低い医師を避けていた。
Hanauer氏は、「それが良いかどうかは不明である。これらのサイトの評価がどの程度信用できるかはわからず、運営方法もサイトによって異なる。調査に記入した患者が少ない医師も多い。それでも客観的な情報を集める方法はほとんどないため、これらのサイトが利用されているようだ」と述べている。(JAMA 2/19)


NEWS ■大量精神科薬で搬送、156病院


精神科の薬を一度に大量に服薬した患者の搬送を受けた救急医療機関が、2012年は全国で少なくとも156病院に上り、うち約3割にあたる46病院は年間50件以上搬送されていることが、読売新聞の調査でわかった。服薬したのはいずれも医療機関でしか処方できない薬で、抗うつ薬、睡眠薬などの処方のあり方が問われそうだ。昨年11月、全国の救命救急センターと日本救急医学会の救急科専門医指定施設の計498病院にアンケートを送り、164病院から回答を得た(回収率33%)。大量服薬患者を年間100件以上受けている病院も10病院あり、最も多い病院では約500件と回答した。うつ病で処方される三環系抗うつ薬では大量服薬によって1年間で計5人が死亡したほか、52人に不整脈、23人に長時間にわたるけいれんなど、命に関わる症状が見られた。(読売新聞 2/11)


NEWS ■小児期の記憶はいつごろ消える?


小児期の最も古い記憶は7歳ごろに消え始める――米エモリー大学Patricia Bauer氏らの研究でこんなことが示唆された。ほとんどの成人は3歳ごろまでの記憶しか遡れないことが知られており、この年齢以前の記憶の喪失は小児期健忘と呼ばれる。Bauer氏らは、初期の記憶が消え始める正確な時期を調べるために、まず3歳児80人超に、誕生日会や動物園へ行ったことなど最近の数カ月で経験した6つの出来事について両親が尋ね、その回答を記録した。被験者をグループ分けして、各グループが特定の年齢(5歳、6歳、7歳、8歳または9歳)のときに、これらの出来事の記憶を調べた。その結果、5〜7歳の子どもは3歳時に覚えていたことの63〜72%を思い出せたが、8、9歳までには約35%しか思い出せなくなっていた。年少児は年長児より3歳時の出来事を多く覚えているが、年長児のほうが情報は多かった。
この差の理由として考えられるのは、長時間定着する記憶は関連情報が多いこと、年長児では言語スキルが向上するため記憶の説明が明瞭になり、さらに印象づけるのに役立つ可能性があるという。Bauer氏は、「小児期健忘の開始を実験的に示した研究は初めて。自伝的記憶の発達を知ることは、精神的な存在としての我々自身を理解するのに重要である。過去の自分を思い出すことは現在の自分を知る方法である」と述べている。(ちょっと古いがMemoryオンライン版 2013年11/18)


■次号のメールマガジンは4月1日ごろです。お楽しみに。


[発行]産学社エンタプライズ